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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第四章 反攻作戦
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反攻作戦18

 ――ズレヴィナ軍 迂回部隊――


 友軍が支援砲撃の初弾を放った直後、敵の襲撃は唐突に止んだ。自分達の頭上に砲弾が降り注ぐ事に気付いたようだ。


 この隙に、迂回部隊は被害の確認と再編成を行った。


「≪ジウーク≫に被害はありません。ですが、行動可能なロボット兵器は……、残り十二機です」

「そうか……。手酷くやられたな」


 他に、土砂に埋まり身動きが取れなくなっているだけのロボット兵器は十機以上ある。それらは掘り起こせば戦力に加えることも可能だが、土砂を掘る道具も無ければ時間も無い。諦める他なかった。


 この時点で、被害は既に予測を上回っている。しかしこのまま撤退することは許されず、進み続けるしか無い。


 話し合った結果、このまま谷底を進めば同じように襲撃を受ける危険がある為、敵が爆破した崖から上に登って移動する事になった。


 手始めに、≪ジウーク≫の小隊が崩れた崖を登り始める。


 友軍の支援砲撃は続いているが、少しずつ着弾位置は崖から離れていっており、誤射の恐れは無い。


 登り切った小隊が崖の上に橋頭堡を築くと、残る≪ジウーク≫、そしてロボット部隊が続く。敵は撤退したようで、迂回部隊は一切抵抗なく崖の上に到着した。それに合わせて支援砲撃も止まった。


「移動を再開する。敵の襲撃に十分警戒しろ」


 敵がこの作戦に投入している総兵力と、先程の攻撃の規模から、付近にいる敵の数は少ないと予測していた。もしそれなりの兵力がいたならば、先程の襲撃で≪ジウーク≫の中隊も壊滅していたはずだ。


 だから、もしまた襲撃があったとしても、高低差の無い場所であれば兵力差で押し切れると考えた。それに時間の猶予もあまり無いことから、敵の襲撃部隊を叩くよりも目標地点への移動を優先せざるを得なかった。残っていたロボット兵器に露払いを任せ、再び移動を始める。


 だが敵は、病的なほどに用意周到だった。


『ロボット部隊、全滅しました……』


 移動再開から十五分ほどで、残っていたロボット兵器が敵の地雷で全滅したのだ。敵は、こちらが崖の上に上がることを予測して地雷を設置していた。ロボット兵器のうち≪BM-35≫は、対人地雷程度では壊れないため強行突破させたのだが、敵は対戦車地雷とまでいかなくとも、対人地雷より強力な地雷を使用しているようで、破片によって脚部を損傷し移動不能になっていた。動けなくなったロボット兵器は置いて行くしかない。


 残った≪ジウーク≫の部隊が再び動き出すが、敵の罠は相変わらずしつこかった。


「また、地雷です……」


 あちこちに地雷が仕掛けられているため、数分おきに隊列を止めては地雷の撤去を繰り返していた。せめてもの救いは、ほとんどが擬装していないので見つけやすいことか。だが時折、草を被せてあったり、ワイヤーを張っていたりと手の込んだ物もあるため、油断できない。現に、見える位置にあった地雷の除去に向かった兵士数人が、しっかり隠蔽していた地雷によって怪我をしていた事もあり、慎重に行動せざるを得ない。しかも、進むにつれて地雷の密度が上がってきた。


 地雷の無い地帯を探すため横隊で進んでみたが、全員で地雷除去する羽目となり、三百メートルほど進んだところで縦隊に戻していた。


 思うように進めず、全員に焦燥が募っていく。


「中隊長。これ以上遅れると、挟撃に間に合わなくなります……」

「なら、どうしろというのだ? 部下に地雷原を走り抜けろ、とでも言うのか?」


 中隊長もまた、時間だけが過ぎ去っていく現状に苛立ちを隠せない。


 もうすぐ予定時刻になるが、まだ行程の三分の二程しか進んでいない。損害を顧みず、地雷を無視して移動すれば、ギリギリ間に合うだろう。しかし地雷原はどこまで続いているか不明で、突破するまでにどれ程の兵が残るかも分からない。


 しかも谷底での襲撃以来、敵は一度も姿を見せていなかった。どこに潜んでいるかも分からず、不用意に動けば再び奇襲を受ける可能性もある。


 結果的に、出来る限り素早く、されど慎重に進んでいく他になかった。



 ――扶桑軍 第一回廊 第二ライン――


 砲弾が落ちる度に、腹に響く重々しい音と地震のような震動が伝わってくる。最初は≪アトラス≫の中でビクビクしていた義晴も、二十分近くも続けば慣れざるを得ない。表面上は大人しく、掩体壕で待機していた。


『グリフォン5より第二ライン守備隊へ。

 ≪するが≫の砲撃により、≪カークトゥス≫の破壊を開始しました。

 送信したスケジュールで、敵の榴弾砲と自爆ドローンの排除を行います。

 敵第二陣の到達までに榴弾砲の排除は終わらないため、近距離での交戦となります。また、撃ち漏らした自爆ドローンの迎撃も必要です。

 各自留意してください』

「了解」


(ようやくここから出られる……)


 義晴はホッとする。音と振動に慣れたとしても、いつ掩体壕の天井に穴が開き、そこから砲弾が飛び込んでくるか心配だった。訓練の中には生身で掩体壕に籠もり、一時間砲撃に耐えるというものもあったが、あれは天井に穴が空く心配はしていなかったので、今回よりも精神的な負担は少なかった。これも全て、亮輔が不安になることを言ったせいだ。


 ≪タロス≫と≪アトラス≫が相手にするのは、先程と同じくロボット兵器を主力とする侵攻部隊、そしてそれに先立ち突入してくる自爆ドローンだ。


 自爆ドローンの迎撃は、十キロメートル後方に展開している、砲兵大隊の多連装ロケット車両が行う。数百機ものドローンを一機ずつ撃ち落とすのは非現実的だ。そこでサーモバリック弾頭を搭載するミサイル≪カグツチ≫で広い範囲を一気に吹き飛ばすのだ。


 ロボット兵器は、セオリー通り支援砲撃やミサイル攻撃で数を減らし、接近してきたところをこちらの陸上部隊で殲滅するという、訓練で飽きるほど繰り返した内容だ。


 万が一迎撃しきれない場合は、それぞれの回廊の判断、または司令部からの指示で後退する事になる。だが戦闘中の後退は極めて難しく、追撃を受ければ大きな損害を出すことになるだろう。従って、敵が第二ラインに取り付くまでに、どれ程数を減らせるのか。敵の榴弾砲の殲滅がいつ終わるのか、が鍵となる。どちらも友軍の頑張りに期待するしかない。


『グリフォン5よりグリフォン4とグリフォン6へ。第二ラインに到着しました。

 追加でレールガンを一丁持って来たので、グリフォン6を支援します』


 久子から、彩華(グリフォン4)と義晴(グリフォン6)に通信が入る。三丁ある予備の内、一丁を前線に持ってきたのだ。


『グリフォン4、了解』

「グリフォン6、了解。頼んます」


 携帯式レールガンの訓練は、後衛担当の彩華、久子、レックスの他、直也も時々参加していた。直也は主に前衛担当だが、作戦の検討と性能評価の為だ。(まあ、個人的に興味があったという理由もある。冷静な直也にしては珍しく、熱心に試射していた)


『由良HQより<瑞雲>作戦参加の各隊へ。

 敵部隊が前進を開始しました』


 戦域マップ上で、第一ラインより南に固まっている多数の赤い輝点が北側へと動き始める。その規模は、まずロボット兵器が第一次攻撃の三倍強の規模である六百機ほど、続いて戦車と歩兵を満載した車両だ。


 それに比べて待ち受ける青い輝点の群れは少なく、頼りなさを感じる。実際、この規模の敵部隊が押し寄せれば、第二ラインに薄く広がった≪アトラス≫や≪タロス≫合計百二十八機では抑えきることなど到底不可能だ。


(えっぐ……)


 押し寄せる膨大な数の敵に、思わず顔を顰める。シミュレーターで何度も繰り返して慣れているつもりだが、本番となると(本当に上手く行くのだろうか?)と心配になるのは、仕方ないだろう。


 皆の気持ちをくみ取ったのか、久子が語りかける。


『数は多いですが、友軍が半分以下に減らしてくれる予定です』

『半分に減っても、かなり多いな……』


 英川遥中尉の声は固い。この作戦のために≪アトラス≫で訓練していたが、つい二月前までは“普通の”歩兵だったのだ。膨大な数のロボット兵器や車両を相手に、正面から立ち向かう身となって、緊張しないはずが無い。前線を≪タロス≫に任せ、シミュレーションを軽く二百回以上繰り返したグリフォン中隊のようにはいかない。


 第三回廊を守備する重久が、亮輔に問いかける。


『グリフォン11よりグリフォン8。そちらの状況はどうだ?』

『……順調に進行中です。

 ロボット部隊は全滅。装甲歩兵は地雷によって十機程度損傷したようです。

 現在は、地雷原で足止めしています』

『了解した。引き続き頼む』


 最初の襲撃では、≪ジウーク≫を攻撃対象から外していた。人員の多くがアレクセーエフ元帥寄りで、出来るだけ殺さずに無力化したいという政治的側面がある。他にも、殺害するより負傷させる事で、移動速度と士気を落とす効果も狙っていた。


 続いて、出雲大佐から通信が入る。


『連隊長の出雲より、第二ライン配置の各員へ。

 知っての通り、敵の第二陣が迫りつつある。支援攻撃で減るだろうが、第一陣よりは間違いなく多い。心してかかってほしい。

 ……全員、武運を祈る』

『『了解!』』


 程なくして、久子が支援攻撃の開始を告げる。


『≪するが≫が対地ミサイルを発射開始』


 戦域マップに、≪するが≫の発射したミサイルが表示される。それも一発や二発ではなく、数十から百発単位だ。まるで弾幕シューティングのようだ。


 ≪するが≫は≪カークトゥス≫と対空車両、さらに探知能力を削ぐため対砲レーダーと対空レーダーを排除した後、砲撃を停止していた。そのまま陸上部隊も砲撃したいところではあったが、静止している≪カークトゥス≫やレーダーはともかく、動いている車両を狙撃することは難しい。そして何よりレールガンの砲弾は在庫に余裕が無く、撃ち放題とはいかなかった。エトリオ連邦からの輸送や、国内で製造してそれなりの数はあるものの、海軍でもレールガン搭載艦が増えているためだ。結果として需給バランスはそれほど改善しておらず、十分な数があると言えなかった。統合機動部隊に割り当てられた砲弾は、今回の作戦のため大部分が≪するが≫に集められており、別の海域に展開している駆逐艦二隻とフリゲート四隻には、一隻当たり四十発程度と、連射で三分にも満たない数しか搭載していない。≪するが≫には六百発ほど搭載しているが、無駄遣い出来るほどの数ではなく、出来るだけ節約する必要があった。


 その代わりと言っては何だが、≪するが≫には陸上部隊の支援のために、大量の対地ミサイルが搭載されている。≪八八式艦対地クラスターミサイル≫がその一つだ。“クラスター”を冠する通り、内部に子爆弾を八発内蔵し、目標上空でばら撒く。この子爆弾は放出された後にセンサーを使って地上を走査する。そして目標を検知すると空中で爆発して自己鍛造弾を発射、目標の上部装甲を貫き撃破する。


 ミサイルの大きさは中距離艦対空ミサイルに近く、VLSの一セル辺り四発格納しており、百六十セル分、六百四十発を搭載していた。


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