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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第一章 統合機動部隊
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おじさん達の憂鬱

 同じ頃、別室ではリントブルム大隊、ケルベロス大隊の士官が集まり、グリフォン中隊の戦闘を収めた映像――直也達が見ていた物のロングバージョン――が映し出されていた。


 映像が終了すると、会議室は沈黙に包まれる。初めて見たロボットの戦闘は、戦闘と言うよりも蹂躙だった事が大きい。


「これ程とはな……。一体、あの子達は何者なのだ?」


 リントブルム大隊長は、研究所の代表として参加している一彰に問いかける。


 直也達が統合機動部隊に配属後、鈴谷基地には≪タロス≫の簡易シミュレータが三台設置され、興味を持った多くの士官や兵士が操作を体験した。だが、経験者を除けば誰一人として複数の機体を長時間操作出来た者はいなかった。一番良くて、三機を十分操作するのが限界だった。


 さらに無理をして気分を悪くし、トイレに駆け込んだ者も多かった。


 研究所の代表者として参加している一彰は、出雲大佐に目配せをして了承を確認すると口を開いた。


「機密のため詳細は控えますが、彼らは子供の頃に資質を認められ、特別な訓練を続けてきた者達です。

 ……ああ。人道的に問題のある事は行っていませんよ」


 さらに出雲大佐からの説明が続く。


「思考を読み取ってコントロールすると言う研究の被験者に過ぎない。脳みそをいじったわけでも、薬漬けにしたわけでもない。ここにいる何名かの子供達も、研究所で訓練中だ」


(戦闘訓練を始めた年齢は、お前達より若いがな……)


 続いて、パワードスーツの≪アトラス≫について、ケルベロス大隊の大隊長から質問が飛ぶ。


「うちに配備予定の≪アトラス≫だが、量産機は海上輸送中だったな?」

「はい。五十機がエトリオから輸送中です。到着してからこちらで調整後に引き渡しますので、一ヶ月弱はかかるかと」

「承知した。宜しく頼む」


 大隊長は、小さく頷く。


「同時期に≪タロス≫と≪アトラス≫用の特殊武器も到着予定です」


 スクリーンに特殊武器の一部が表示される。既に採用済みの十二・七ミリガトリングガン、二十ミリ対物ライフルの他に、長射程化した新型対空ミサイルや新型対戦車ミサイル、高周波ブレード、等々……。基本的に人間では扱えない重量や反動を持つ武器である。


「“歩兵”と言って良いのか疑問だが、これだけの武器を装備したら、戦車の立つ瀬が無いな……」


 戦車大隊であるリントブルム大隊の大隊長が不満を持つのも仕方ないだろう。陸上兵力の花形である戦車が、機動力と武器が大幅に強化された歩兵に翻弄されることになるのだから。とは言え、戦車が不要かというと否である。


「戦車の強化は、まずは防御やデータリンク周りになりますね……。山岳戦用に多脚戦車も製造中ですが、現状の戦車に比べて欠点が多いので、限定配備となります」


 多脚車両に一〇五ミリ砲を搭載した車両も生産中だ。装輪、装軌式では進入出来ない場所を移動し、敵の想定外の場所に出現して火力で圧倒するコンセプトで開発された。しかし利点はそれくらいで、欠点の方が圧倒的に多い。車高が高くなるうえに、弱点である脚部に被弾しやすくなる。さらに舗装路面では現行車両より速度が劣り、射撃精度が低下する。装輪式の同等車両に比べコストが高い。正直、優先度は低かった。


 発言が収まったところで、出雲大佐が前に出る。


「敵も≪ジウーク≫といったパワードスーツや車両型のロボット兵器を実戦配備しつつある。また、≪アトラス≫のようなパワードスーツも開発している情報がある。今後は人間同士が撃ち合う戦争は減っていくかもしれないな。

 ともあれ、我々のやる事は変わらん。

 近々、砲兵大隊のヤクルス大隊、高射砲大隊のケンタウロス大隊が到着予定となっている。反攻作戦まであと三ヶ月だ。引き続き敵に備えてもらいたい」


――――


 扶桑軍第十二師団を包囲していた部隊が、救援に来た部隊によって手酷い損害を受けて敗退したという報告は、その日のうちに侵攻軍総司令部にも届いていた。


 交戦した部隊の報告では、敵はパワードスーツまたはロボット兵器を投入し、山岳地帯を驚異的な速度で踏破、包囲していた部隊を圧倒的な火力で蹴散らしたという。


 これに対し、パワードスーツ≪ジウーク≫を装備した三百人の部隊で反撃を試みたが撃退され、戻ったものは二十人に満たなかった。


 また、自走榴弾砲大隊も敵攻撃機により全滅していた。


 総司令官のマクシム・アレクセーエフ陸軍元帥は、報告を受けて由良市南方の山岳地帯からの撤退を指示、前線ラインを下げて平野部で防御を整えさせていた。


(やはりこの戦争は、するべきではなかったのだろう……)


 マクシムはもともと、扶桑国との戦争に反対し続けていた。


 一党独裁国家であるズレヴィナ共和国において、党内部での権力争いは日常茶飯事だ。


 現在、党の実権を握っているのは、強硬・独裁派で名高いスタニスラフ・リャビンスキー、通称リャビンスキー派だ。一方マクシムは、彼らによって追放された穏健・民主派のクズネツォフ派の軍人である。


 政権交代の際、クズネツォフ派の政治家や軍人の多くが罷免や左遷、投獄されていた中、マクシムはいくつかの役職から外されただけで軍に留まることを許された。もちろん優秀であった事も一因だが、かつて腐敗していた軍を立て直した実績により、陸軍、海軍、航空宇宙軍(航宙軍)全てから絶大な信頼を得ていた事が最大の理由だ。リャビンスキー派は、マクシムを失脚させて軍が機能しなくなることを恐れたのだ。


 それから七年経ち、マクシムを慕う者は数を減らしているが、未だに一つの大きな勢力として健在である。


 彼の有能さ故に、侵攻に反対していた本人が侵攻軍総司令官に据えられているのは皮肉と言うほかないが。


 マクシムは今、会議室で参謀達と扶桑軍の新兵器への対応を協議しているところだ。


 ディスプレイには、ビデオカメラで撮影された敵の新兵器が映っている。距離の関係で小さく不鮮明ではあるが、二足歩行の機体である事は見て取れた。


「よもや扶桑軍が、こんな兵器を実用化していたとは……」

「エトリオ連邦と共同開発していた物ではないのか?」

「二年前の映像では、まだ実戦配備出来る代物では無かったはずだ」

「我が軍の≪ジウーク≫は全く歯が立たなかったのです。こちらもロボット兵器を早く前線に用意するべきでしょう」


 参謀達が話し合っている。


 ズレヴィナ共和国でもロボット兵器を開発し、この戦争で三種類を実戦投入している。


 無限軌道を備えた装軌式が二種類と、六脚を備えた物が一種類。≪タロス≫の様な人型は無い。


 六脚のロボット兵器は≪BM-3≫。センサー類が充実し偵察に特化した機種で、全長は七十センチメートル程。機動性は高い反面、装甲は最低限だ。武装はサブマシンガン、又はグレネードランチャーで、本体背部に固定されている。


 装軌式のロボット兵器のうち、小型の方は≪BM-17≫。全長一・五メートル程で、固定武装は七・六二ミリ機銃、砲塔に十二・七ミリ機銃、グレネードランチャーを搭載できる。歩兵に相当し、車体の前面装甲は十二・七ミリ弾に耐える。


 もう一種類の装軌式の物は≪BM-102≫。コンパクトカー並みの大きさで、無人の装甲戦闘車だ。砲塔に三十ミリ機関砲と同軸の七・六二ミリ機銃、さらに対戦車ミサイルも搭載している。


 制御方法は半自動制御または遠隔操縦の二種類だ。


 半自動制御は、移動ポイントを指定すればその場所を移動し、途中で発見した敵を自動で攻撃する。≪タロス≫の自動モードと同様のものだ。


 遠隔操縦とは、簡単に言うと無線操縦だ。一人または複数人が遠隔で操作する。


 制御は少数であれば専用の指揮車、数が多くなると指揮所に詰めたオペレーターが行う。ロボット兵器は個々の兵士として、戦闘に関する最低限のAIを搭載している。指揮車や指揮所のコンピューターは、指揮官としてロボット兵器を効率的に運用するための戦術AIを搭載している。


 この仕様上、ロボット兵器を投入する戦場の数キロから数十キロ内に指揮車や指揮所を置く必要がある。あまり遠くなると遅延が発生して、迅速な部隊運用が出来なくなるためだ。


 ≪タロス≫に比べると、ロボット単体の汎用性や使用する技術は劣るものの、その分コストは非常に低く、数を揃えられるよう工夫が凝らされている。(と言うよりも、≪タロス≫が何から何まで詰め込んだ為、コストが桁違いに高くなっている)


「敵の新兵器……、パワードスーツかロボット兵器かは分からないが、歩兵では分が悪いことは分かった。

 まずはこちらのロボット兵器を当ててみよう」


 敵の新兵器の性能を探るため、マクシムはロボット兵器を投入するよう指示を出すのだった。


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