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乙女の冒険

「いや、全然意味分からないんだけど」


 私の世紀の大名案にフラウさんは難色を示しました。


「女同士で踊ったら注目されるって言ったばかりでしょーが」

「だからですよ」

「…………は?」


 フラウさんは、かわいそうな人を見る目で私を見ています。

 なんですか、その目は。


「ほら、私って今アンナさんと()()()()()()だって疑われているのですよね? フラウさんとも踊ればその疑いも解消されて、尚且つ他の男性に誘われることも無くて一石二鳥じゃないですか」


 我ながら素晴らしいアイデアです。自分の頭脳が恐ろしくなりますね。


「そゆこと。でもイヤよ、だって私にメリットないじゃない。折角アラン様と手を繋いだんだもん、もう二度と何も触りたくないの」


 フラウさんは手をどこにも触れないように空中に晒しました。


「訳の分からない事言わないでくださいよ。どうせ今日お風呂で綺麗に流れるんですから。ほら、人助けだと思って」


 私はフラウさんの手に残ったアラン様の残滓を上書きするように、その細い手を強引に掴んでフロア中央に向かって歩き出しました。


「ちょ、ちょっと! ロズウェナってば!」

「私の名前はマールです」

「あっ、ごめっ…………じゃなくて引っ張らないでってばっ」

「ごめんなさい。でもこうでもしないと踊ってくれないと思って」

「アンタ、なんでそんなに私と踊りたいのよ…………」

「フラウさんは私と踊るのは嫌ですか?」

「…………まあ、別に嫌ではない、けれど」

「ならいいじゃないですか」


 踊っている人たちの間をすり抜けて私たちはフロアのど真ん中までやってきました。

 私もフラウさんも単体でそれなりに視線を集めてしまうきらいはありますが、その二人が一緒に踊ろうとしているということで、より一層見られているのを自覚します。


 どんどん見て下さい。

 何故だかそんな気分でした。


「はぁ…………手、ちゃんと握りなさいよ」


 フラウさんは全てを諦めたようで私に身を委ねてくれました。


「では、失礼しますね」


 向かい合って、ガラス細工のように繊細なフラウさんの手を優しく握ります。自然に身体がくっつきました。


「…………フラウさん相手だと、バレる心配が無くていいですね」

「アンタ、その身体でよく踊ろうと思ったわねホントに」


 傍から見れば同性同士ではありますが、相談する必要はありません。

 この私が立派に男性役を務めてみせましょう。





「────フラウさん、お上手ですね」


 お世辞交じりの私の言葉を、フラウさんは鼻で笑いました。


「これくらいで何言ってんのよ。アンタもまだまだいけるんでしょ?」

「そうですね。これでいっぱいいっぱいって言われたらどうしようと思いました」


 私たちはスローペースで、言うなればお互いの力量を探り合いながら、ゆっくりとステップを交わしていました。

 今はまだ前奏曲。本番はこれからです。


「もうちょっとペース上げてもいいわよ」

「それじゃあ遠慮なく」

「ちょっ────」


 私はゆったりとしたワルツメインのダンスに、激しい足捌きやターンを多用するクイックステップやタンゴを織り混ぜていきます。演奏されている曲はワルツ向きのゆったりとした曲ですが、これはこれで味があると思うんですよ。


 色々な種類のダンスを混ぜ合わせた私の動きに、フラウさんは何とか付いてこれているようでした。というか、一応大丈夫なようにリードはしているつもりです。それなりの力量があればの話ですが、フラウさんなら大丈夫だと信じていました。


「ア、アンタ、ちょっとコレ、なに!?」


 身体の赴くまま即興で踊っている、いわば楽譜のないオーケストラに何とか食らいつきながらフラウさんは声を挙げました。


「うーん、何でしょう。マールスペシャル、ですかね?」

「だっっっっさ」


 ツッコミもそこそこに、私は伸ばした片手で繋がっていたフラウさんをくるくるっと胸元に回収しました。激しいステップの連続でそろそろフラウさんのスタミナが限界そうでした。そろそろ終わりにしましょう。


「フラウさん、いきますよ」

「へっ?」


 私はぐいっとフラウさんの腰に手を回して身体と挟むように持ち上げ、そのままその場でターンしました。常人なら不可能でしょうが、私は幼き頃より厳しい訓練を受けてきましたので、これくらいは造作もありません。


 二回、三回、四回、体力が続く限り回ります。

 フラウさんは身体が勝手に動いたのか、手足を伸ばしてそれっぽいポーズを取ってくれていました。良かったです。これで持ち上げられるがままになっていたら、とてもシュールな絵面になっていました。


 幾度回ったでしょうか。

 ゆっくりと踵をつけフラウさんを床に戻すと、割れんばかりの拍手がフロア中から沸き起こりました。


「…………へ?」

「な、なに、なんなの!?」


 周囲を見渡すと、いつの間にか他のペアは踊るのを辞め私達を見ていました。私たちのダンスはここにいる全ての生徒に見られていたようです。


「…………目立っちゃいましたね」


 私はそっとフラウさんにだけ聞こえる声で呟きました。


「…………アンタ、どうするつもりなの」

「まあ、なるようになるんじゃないですか? フラウさんも庇ってくれるみたいですし」

「やっぱりグリーンウッド家って、アホだわ…………」


 フラウさんは呆れた様子でゆっくりと首を振りました。


 地鳴りのような拍手は鳴りやむ様子もなく、暫くの間私たちを包んでいました。

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