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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
カリストとタイタンの王女
54/190

〈1〉

 星をかき分けて進む一隻の船。外壁にはいくつものクリスタルが散りばめられていて、恒星からの光が届くと、光を弾いてまばゆい。深い深い寝息のような、穏やかな渡航である。

 だがその後ろにもう一隻、真空においてもやかましく見える茶色の小型宇宙船があった。ともすると廃品のような鈍い浅黒の鉄板に、真鍮の縁取りがされている。船の横には動きを制御するためのものなのか大きな車輪のようなものが2つ、忙しなく回転している。

「もうすぐで地球のゲートを抜けます。重力圏に入りますので、お部屋にお戻りください。」

「はい。」

 コクンと頷いて、クリスタル船のデッキで外を眺めていた女性が自室へと戻っていった。

「ハロー、こちらカリスト4820。入星許可を願います。」

「…確認が取れました。入星を許可します。」

 ものの数秒すらかかることなく、船の製造番号の照合を終え審査ゲートが開かれる。難なくそこを通過するカリストの船。慌ててその後に続く小型船。

「許可願います!」

 番号は述べたほうがスムーズだが、照会にはそれほど時間の差はない。すぐにその船も地球へと向かうことができた。

 丸い小さな窓から目の前に広がる青い星を見つめる小柄な少女。

「わあ。」

 彼女は目を輝かせて息を呑んだ。窓にピッタリと張り付いて、食い入るようにその星を眺めている。

「そろそろシートについてください!いくら体が丈夫だからってちゃんと座ってないとだめですよ!」

「はーい。」

 重力圏を通っているにも関わらず、少女はトタトタと声が呼ぶ方へ駆けていった。


「結局、準備っていうのはこれぐらいでいいのかなあ?」

 アギアスパレの宮殿。こういう重要な日はやはり皆慌ただしい。大一も自分にできることはないかユエに聞いていた。

「スピーチでも考えておいでになってください。」

 相変わらずつれない反応をする大一の取り巻きたち。自分のことを雑に扱い過ぎではないのか。カサネギさんは優しく笑ってくれるけど、特に何をしたいと言っても、

「なんのなんの、これは我々の役目ですからな。」

 とガラガラ喋って取り付く島もない。

「こういうときに役立たないのが、『現王様』なんだよ…。」

 大一は肘掛けに腕を乗せて頬杖をついた。

 今日はようやく遅れていた残りの姫、木星のカリストの姫と土星のタイタンの姫が到着する。歓迎パレードのようなものはできないが、盛大な出迎えはしなくてはならない。

 六棟ある姫たちの居住区も改築の最終段階を迎えていた。

「そういえばみんなの部屋ってどういうふうに変わっているの?」

 そういえば最初に来たとき環境を母星に近付けるためのメンテナンスだとか言って待機した記憶がある。あの時はずいぶん緊張したものだ。

「私は地球とそんなに変わりませんよ。むしろ物が多すぎるぐらいです。」

 火星の移動式コロニー暮らしのマリーが言う。火星の公転周期と自転周期を計算して、地球環境と同じ時間を保つためには毎日のように移動し続けなくてはならない。だからコロニーごと動いてしまえというのが火星の考え。六足八足の巨大自立ロボットを作るのが得意なのはそういった理由による。

「まあ、私も変わるか変わらないかと問われれば変わらないですが…」

 以前のようにソファの上でゆったり体を伸ばすイブ。前以上に大一を意識しているのか、寝そべりながらも自分のボディラインを見せつけることに余念がない。呼吸をすると体全体が上下するのもなかなか見過ごせない。

「実際見てもらった方が早いですわ。何なら今すぐ二人っきりにでも…」

 手を伸ばして大一を誘うイブ。その褐色のなめらかな肌艶は官能的である。

「隙きあらばそういうことをねじ込んで。」

「だって現王様、スキだらけなんだもの。強引に迫ればチョロいわ。」

 ここ最近では三人は砕けた会話が増えてきている。特にイブが顕著で、逆にマリーが甘えるような声を出さなくなった。

「それはそうかもしれませんがねえ、ザハブパトラ姫はこう、淑女としての嗜みを。」

「現王様はムッツリだからお硬いのは逆効果よ?」

「あの、まず本人を目の前にして言わないでください…。」

 自分の不徳のせいである。

 ポンポンと横から肩を叩いてくるルオン。大一は彼女を見た。

「ワタクシの部屋は他のお二人と大きく違いますよ?」

「へえ、どんな?」

 水星人は圧力調整するスーツを全身に身にまとっている。しかも母星では地下ぐらしだというのだから確かに違うだろう。

「まずワタクシは脱いでますから…」

「?!……あ、スーツのこと?そうだなあ、確かにずっとそれだと辛いよね。」

 大一は一人で納得した。

 フルフルと首を振るうルオン、そっと大一に耳打ちをする。

「ううん、お洋服の話ですわ…。」

 とたんに彼女のあられもない姿をイメージしてしまう大一。ルオンの色白い肌が妖しく目の前をうごめく。腿や腕の体の柔らかいところが開いたりくっついたり。んん、と吐息を漏らしてこちらを見つめてくる。青い瞳は雫をたたえて…。

「ほら、やっぱり現王様はムッツリでしょう?」

 イブがマリーに言い聞かせる声にハッとする。

「ち、違うって!」

 慌てて否定するが見透かされているのか、ルオンもイブも笑っている。マリーは少し呆れ顔である。

「本当かどうか、いつかご招待いたしますよ。」

 ルオンはいつもこういうからかい方をしてくる…。この三人にさらに二人追加されると思うと、自分で対応しきれるか心配が増すばかりであった。

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