(5)
舞踏会は大歓声の中幕を閉じ――。
この日の出来事はおそらく母星の元首の耳にも届いたであろう。帰りの船の中で離れていく母星をしり目に、火星の姫君は一人思いふけっていた。
「……現王様が嘘に気づくことができない、というのなら…」
私はもう少し正直にふるまってみようか。駆け引きもへったくれもあったものではないが、その方がお互い気が楽でいいのかもしれない。
地球へと進む船は星間を駆けていった。
「ああ、やっぱり壊れてる…。」
宮殿前広場に降り立った大一はそっとシャツを広げて踊りの時に感じた違和感を探っていた。三人との無茶なパフォーマンスの中で、一度嫌な音がした気がしていたが、果たして予想通りだった。
「よく頑張ってくれたよ、クノッヘンB…」
自分の胸をさする。これがなかったらきっと、最後のマリーの希望にも添えないような踊りしかできなかっただろう。撃ち出されて空中で踊って振り回された、相当な負担がたまっていたに違いない。今日のMVPはこの機械だろう。
(PはパーツのP…。)
しょうもないことを考えるものだ。
「現王様。」
背後から肩をたたかれる。
「えっ?」
振り返ると頬にそのほっそりとした指が食いこんだ。
「そんなところで呆けてらっしゃっては危ないですよ。」
くすっとマリーが笑っている。
「現王様はちょっとどころではなく抜けているところがありますからね。ずっとお側で見てないとこちらがひやひやしてしまいそう。」
スタスタとそのまま軽快に大一の横を通り過ぎて行くマリーから、彼女の自信をうかがわせるような雰囲気を感じ取った。
「今日はまだ時間がありますからこれからどうしましょう。」
遅れてきたのは陰の立役者、ルオンとイブ。彼女たちが協力してくれたからこそ、今のマリーがあるようなものだ。大一は二人への感謝を述べた。
「頭を下げられても困りますわ。」
「そうそう。」
ニヤリとイブが笑う。
「きちんと今日の埋め合わせをしてくれなくては。」
前を悠々と歩いていたマリーは足を止めて振り返る。
「え?ザハブパトラ姫、それはどういう…?」
例の勝者の笑みを絶やさないイブ。控えめにほほ笑むルオン。
「それはもう、現王様からのお願いで今回はローズマリーに花を持たせたんですもの。」
「二人っきりで何をしていただきましょうか…。」
両手を合わせてうっとりとルオンが首をかしげる。
「現王様、私、踊りで体が火照ってしまって…」声に艶を出すイブがすり寄ってくる。「汗を流したいのですが、ご一緒に、いかがですか?」
ふっと耳に息をかけられる。踊りの時もかなり密着していたが、改めて意識してしまうと…。イブの身体からくる熱が先ほどよりも熱く感じた。
「ちょっとザハブパトラ姫!」
はしたない!と慌てて引きはがそうとマリーが駆け寄るよりも早く、これまでずっとこらえてきた大一がはじけだした。
「ッ!ごめん!ほら衣装の着替えとかあるし!みんないったん部屋で休んで後でゆっくり今日の話でもするといいよ!うん!それがいい!じゃ、みんなまたあとで!」
信じられないくらいの早口でイブから大一は飛び去って行った。宮殿へ駆けこんでいくその後ろ姿を苦笑いをして見つめるイブ。
「ね、現王様にそういうアプローチはまだ早いのですよ、イブ様。」
「ローズマリー式のつもりだったんだけどね…」
「何ですか『ローズマリー式』って!?」
台詞に含みを感じたマリーが憤慨する。
「まあまあ、マリー様。」
「そういえばローズマリー、何か悩んでた様子だったってル・ルオンから聞いていたけど…もう大丈夫そうなのね?」
イブが皮肉なくマリーの方を見つめてその様子をうかがう。
「はい。私も現王様の妻ですから。」
短く、ただそれだけ答えた。
「そう、ならよかった。」
三人の姫は並んでこの白く大きなホールケーキの宮殿を、しばらく見つめていた。




