第46話 出立を見送ってみました
「これが、例の品か──ブラウニーちゃんたちには、お礼を伝えておいてね」
ふよんと跳ねて肯定を示すアビちゃん。隣にいる霊羅さんの姿のドッペさんも、うんうんと頷いている。
アビちゃんとドッペさんとランチミーティングをした日から、数日後。
今日はいよいよ、新しい覗き穴を空けることになりそうな日だった。
その俺の手には、何かの骨で出来た、人形っぽいもの。
それが二体。
これらはブラウニーちゃんたち特製の品、のはずだ。この完成を、今日まで待っていたと言っても過言ではなかった。
俺がランチミーティングを経て、新たな覗き穴の設置場所の指針を示した時、アビちゃんが気になるジェスチャーをしたのだ。
もろもろアビちゃんに質問しながら確認したところ、どうも俺が問題視していたことについて、アビちゃんから意見があったようなのだ。
覗き穴を空けるときに、空ける先の情報が俺には何もわからないんじゃないか、という問題。
それを、ブラウニーちゃんたちなら解決出来るのでは、というのがアビちゃんの意見だった。
その解決法としてアビちゃんがついに持ってきたのが、この人形たちだ。
だから、その解決法の内実は、俺もまだ知らなかった。
なので、いったいどんな効果があるのかと、わくわくしながら、俺は鑑定スキルで手のひらの中のそれを見てみる。
『□□□の心骨の姉妹人形:ダンジョンにおける最も希少な物質の一つ。一つの心骨より削りだされた双子の姉妹人形。共感□□の効果により、片方が損壊した際に残り片方も同じ損壊状態となる』
一瞬、俺の左目に映る文字列にノイズが走る。
「また、か。ふぅ。ええと、これ、スプーンと同じ様な文字化けがあるんだね。こっちの人形……姉妹人形か、の方が文字化けは少ないけど」
今回は文字化けが少ないのでスプーンの時よりかは、鑑定の内容がわかりやすい。
たぶん使い方としては片方をアビちゃんかドッペさんが持っていて、覗き穴を空けて欲しいタイミングで人形を壊す、という形で使うのだろう。
で、俺はもう片方の人形を持っていて、それが壊れたのを合図に、新しい覗き穴を壁に空けるわけだ。
「──作りは素朴だけど、なんたか優しい顔をしている人形だよな」
よく見れば、人形たちは互いに抱きつくような形をしている。
そして、それなりに可愛い。
これを壊す運用をするのは少しだけ心苦しかった。
そんな俺の迷いを察してか、俺の手の姉妹人形の片方を優しげな手つきでとるドッペさん。
霊羅さんの姿でそういうことをすると違和感が半端ない。接した機会は少ないが、俺の中のイメージの霊羅さんはもっと豪快だつたから。
そのまま、ドッペさんは覗き穴の方を指し示す。たぶん、アビちゃんの姿になりたいのだろう。
そう俺が考えた時にはすでに、ドッペさんはアビちゃんの姿になっていて、覗き穴から深淵へと移動していた。
そのあとに続こうとするアビちゃん。
「気をつけて、アビちゃん」
俺の言葉に、アビちゃんはふよんと頼もしげに一跳ねして、深淵へと移動してしまう。
俺が追うようにして深淵を覗き込むと、俺の支配領域には、待機するべべちゃんと五体のベヒーモス。そこへ、アビちゃんとアビちゃんの姿をしたドッペさん。
どうやら、みな、準備万端の様子だ。
俺が覗き込む先で、アビちゃんは皆を引き連れるようにして、深淵の奥へと向かい、進み始めたのだった。




