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最後の戦い ~今度こそ最後の敵を倒してハッピーエンドに

 炎のドラゴンから放出された黒煙が集合し、禍々しいまっ黒なドラゴン=暗黒(ダーク)ドラゴンとなって地上に現れた。

 暗黒(ダーク)ドラゴンが、口からどす黒い気体を吐きだした。

 周囲の枯れ木が一瞬にして朽ち果てて、粉々に砕けた。

 母たちの様子が心配になり、地上に目をやる。黒い気体は、空気より重いのか、地上付近に滞留している。シールドの中にいる母たちに影響はないようだ。

 暗黒(ダーク)ドラゴンは、大量の毒煙を吐きだし続けている。幸い上空のぼくの所までは、届いていない。

「炎のドラゴンが吸収した邪気が、実体化したんだ。地上のやつらは、今のところシールドで防御出来てるけど、この強力な瘴気(しょうき)に、シールドがいつまで耐えられるか分かんねえ。それに、このまま、こいつをほうっておいたら、この国だけの被害じゃすまなくなるぜ。広範囲に被害が及び、生き物が死に絶え、草木一本も生えない不毛の大地になっちまうぞ」

 ヤッケの言うとおり、世界存亡の危機だ。何とかしないと。

 手詰まりの状況に苦慮するぼく。

「何を悩んでいるんだ」

「あんな瘴気(しょうき)に当たったんじゃ一発で即死(アウト)じゃん」

「俺様がついてるんだ、こんな瘴気(しょうき)なんかへっちゃらだぜ」

「えっ!」

 予想もしなかったヤッケの言葉に一瞬戸惑う。

「俺様を誰だと思ってるんだ」

「ヤッケ?」

「・・・そうだけど!なんたって俺様は神聖なる宝、神宝(しんぽう)なんだぜ。この程度の瘴気(しょうき)くらい簡単に浄化できるぜ」

「そうなんだ・・・」

「だから、安心して戦いな」

 自信満々でヤッケは言うが、ぼくは半信半疑で、息を止めて上空から地上へと降り立った。

「イツキ!」

「イツキ殿!」

 ぼくを見た母たちが叫んだ。

 ゆっくりと息を吸う。

「本当だ。何ともない」

 ぼくは親指を立てて、OKのサインを送る。

「ようし、ヤッケ行くよ!」

「了解」

 ぼくは大剣に変形した勇者の剣を手に、マントをなびかせ再び空へと舞い上がる。

 暗黒(ダーク)ドラゴンは、鼻先で制止したぼくに、目障りだとばかりに集中して瘴気(しょうき)を浴びせかけた。

 いくら瘴気(しょうき)を浴びてもヤッケの浄化作用でなんの問題もない。ぼくは大剣を振り上げ、暗黒(ダーク)ドラゴンの頭目掛けて振り下ろす。

「あれっ?」

 全く手応えがない。剣ですぱっと切り裂いた頭部が左右に割れ、ゆらゆらと揺らめいて形は崩れたけど、すぐ元に戻った。

 何度か繰り返し斬りつけてみたが、結局無駄だった。

「炎のドラゴンの邪気のように斬れないよ。なんだか煙を斬っているようで、剣で斬るのは無理みたい」

「邪気が濃すぎてすぐに再結合するんだろう。なーに、俺様に任せておけば大丈夫だ。気体だって、圧縮して冷却すれば、個体になるはずだ」

「どうすればいいの?」

「俺様をやつへ向かって投げろ!」

「投げる?で、どうなるの?」

「説明はめんどうだ。さっさと俺様の言うとおりにしろ。細工は流々、仕上げをごろうじろだ」

 ヤッケの意図がよく分からないけど、ぼくは言われたとおり、ヤッケを脱いで暗黒(ダーク)ドラゴンに投げつけた。

 ヤッケが巨大化しながら、暗黒(ダーク)ドラゴンの頭上へと飛んでいく。そして、頭からすっぽりとかぶさり、丸ごと包み込んだ。 

 それから、中で抗う暗黒(ダーク)ドラゴンを物ともせず、丸まりながら縮んでいった。

 直径1メートルくらいの球体となったとき、ヤッケが念話を送ってきた。

「今のうちにこいつをぶった斬れ」

「そんなことしたら、ヤッケだって・・・」

「俺様のこたあ、心配には及ばねえ。短い間だったが、それなりに楽しかったぜ。あばよ相棒」

「こんな時に゛それなり゛だなんて・・・。ヤッケらしいな」

「ぼやぼやしてないで早く()っちまえ。俺様だっていつまでも、もちこたえられねえぜ」

 決心がつかずためらうぼく。

「この世界を救うのが勇者としてのお前の使命だろう。だったら、迷うこたあねえ。ぐずぐずすんな。やれー」

 ぼくの迷いをふっとばすヤッケの一喝。ぼくは渾身の力をふりしぼった斬撃をヤッケもろとも暗黒(ダーク)ドラゴンに叩き込んだ。

 手応えは十分。氷の塊となったダークドラゴンは粉々に砕け散った。と同時に二つに切り裂かれたマントが宙を舞う。

 全てがスローモーションのようにゆっくりと流れていく。自然と溢れる涙でぼくの視界は、かすんでいた。

「これで終わったと思うな!人の心に闇がある限り我は何度でも復活するだろう」

 どこからともなく、身の毛がよだつような声が聞こえた。

「ヤッケ・・・」

 二つに切断されたマントを拾いあげ、悲しみに涙するぼく。

 すると、マントが金色の輝きを放ち出した。

「えっ、なになに?」

 突然の出来事に戸惑うぼく。 

 やがて、二つに分かれていたマントが継ぎ目なくつながり一つになった。

「何、泣いてんだ」

 悲しみにくれていたぼくに、あっけらかんとヤッケが言った。

「ぼくを騙したんだな。あれは何だったの?今生の別れみたいなこと言っといて」

「別に騙したわけじゃねえ。俺様だって100パー復活できる確証があった訳じゃねえからな」

「切られても完全回復するなんてありえないし。チートすぎない」

「何を言ってやがる。なんたって俺様は神宝(しんぽう)だからな」

暗黒(ダーク)ドラゴンを倒した後、あれほど濃かった瘴気(しょうき)も嘘のように消えた。

 ぼくが手にしていた勇者の剣もいつの間にか消えていた。新たな持ち主=勇者の所へ行ったのだろうか?

 みんなが、ぼくの所に駆け寄ってきた。お互いの無事を喜び、健闘をたたえあった。

「トポロが無事で本当によかった」

 みんなの後ろで気まずそうにしていたトポロに母が声をかけた。

 なんとなく後ろめたそうなトポロ。

 ぼくは、トポロの側に行き、耳元でそっとささやいた。

「あなたが、ドラゴンの騎士だったことは、ぼくの胸にしまっておきます。母には内緒に。そのかわり、ぼくが女だったってことは、誰にも言わないで。ねっ」

 母たちには、アリ地獄に落ちて、ドラゴンの騎士に捕らわれていたトポロを、ぼくが助けたということにした。

 裏切り者の役どころは、ケルネス大神官に引き受けてもらった。

「まさか、ケルネス大神官が、炎のドラゴンの信奉者だったとは」

 予想だにしなかった事実に、ウルフ団長はかなりショックを受けたようだ。

「人は誰でも善と悪の二つの心を併せ持っています。大神官ケルネスの心にも欲望という(よこしま)な心があって、そこに炎のドラゴンがつけこんだのでしょう」

「これを・・・」

 母の言葉を側で聞いていたトポロが、唐突に母に短剣を差し出した。

「馬車で話してたよね。これって先の勇者様から頂いた思い出の品なんだって」

「どこにあったの?」

 言いよどむトポロに代わり、慌ててぼくがフォローする。

「ああ、それ。馬車の中で見つけてくれたんだよね」

「馬車の中で?でも、二人であんなに探したのに見つからなかったでしょ」

「いくら捜しても見つからなくて、後からひっこり出てくることってよくあるじゃない」

「そう?・・・」

 しばらく、納得がいかないような表情を浮かべていた母だった。

 しかし、にっこり微笑むと、それ以上は何も聞かず「ありがとう」と言って、短剣を受け取った。

 母は、何か感づいたのかもしれない。侮り難し母=女?の勘。


 ぼくたちは、エリオット国王と呪縛から解けた王国軍の兵士たちと共に帰還することになった。

 馬に乗って帰るよう勧められた。母は乗馬経験があるらしく、颯爽と馬を乗りこなしたが、ぼくは乗馬なんてしたことがないから遠慮して、周囲の警戒をするという名目で、空を飛んで行くことにした。

 ゆったりと空を飛ぶのは気持ちいいもんだ。しかも楽ちんだね。ヤッケ最高!

 帰路魔獣に遭遇することはなかった。炎のドラゴンの邪気が一掃され、魔獣と化した生き物たちも、本来のおとなしい姿にもどったのだろう。


 六日後、ぼくたちは王宮に帰ってきた。

 ぼくたちが帰ったという知らせを受け、オウル大臣以下、城に残っていた人たち全員が盛大に出迎えてくれた。

 その夜は、王と兵士たちの生還と、ぼくと母の送別会を兼ねて宴会が開かれた。遠征前の簡単な食事会とは打って変わって、盛大で華やかな会となった。

 ぼくと母は、短い間だったが、命がけのクエストを共にした同士との別れを惜しみつつ、ソーニョでの最後の夜を大いに満喫した。


 一夜開けて翌朝、ぼくと母はソーニョを発つことに。

 エリオット叔父(国王)、オウル大臣、ウルフ団長、トポロ、ハウンド、リンクス、ダスマンが、転移門のある王宮地下室に見送りに来てくれた。

 ぼくもだけど、ぼく以上に母は別れがつらそうだった。この世界への未練みたいなものもあったんだろうけど、弟であるエリオット叔父のことが気がかりだったようだ。

「国王として、しっかり務めを果たして、国民に愛される王になるのよ。でも、無理はしないで身体には気を付けてね」

「分かってます。皆と力を合わせ、必ずこの国を平和で住みやすい国にしていきますから安心してください」

 それから、名残を惜しむようにエリオット叔父をやさしくだきしめた。

 最後に母は、トポロにも声を掛けていたけど、何を言ったのかは聞き取れなかった。

 この時の母は、悲しみを心の奥にしまい、元王女として気丈に振る舞っていた。


 ぼくたちが、元の世界=我が家に帰って来たのは、出発当日の午後八時頃だった。

 父は、ぼくたちのことが心配で気が気でなかったそうだ。ぼくたちの顔を見て、ほっとひと安心ってところかな。


 これは、余談だけど、エリオット叔父のフルネームは、エリオット・ビスケット・クッキーだった。異世界での母の名前もサーヤ・ビスケット・クッキーなのかと思うと笑える。

 それから、もう一つ。ぼくの家にやかましい同居人が増えた。

 ヤッケが、ぼくと一緒にこっちに来たのだ。

 今後の生活が思いやられるな。

最後まで私の拙い作品にお付き合いいただきありがとうございました。

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