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37 荒木宗太郎、上坂

「秀頼様。折り入って、ご相談いたしたい義が。」


珍しく木村重成から面会の申し出だ。


「珍しいな、改まって何事だ?」

「は。例の淀川の浮き橋で淡輪殿などと色々相談していた折りに気が付いたのですが、淀川、浅く御座います。」


浅い?………!そうか!邪魔なのは橋脚が林立している橋だけでなく、根本的に淀川自体が浅いのか。

たしかに、大河の末端付近は堆積物が多く浅くなりがちだ。


「なるほど、現状のままでは大型船が遡行できぬか。」

「はい。」

「ならば、南岸付近だけでも川底を浚えて大型船が遡行できるように水路を造っておかねばならぬな。実は大野治房に命じて淀川に仕掛けを作ってある。その工事も粗方終わったようなので、治房が今握っている作業員をそのまま利用するとよかろう。」

「治房殿がよくお留守だったのは、その工事が原因だったのですね。」

「うむ。冬の陣では淀川の堤を切って小規模な水攻めも行ったが今一つ効果が薄かった。今回は今少し発想を変えた水攻めを工夫している。………ああ、もちろんまだだれにも言うでないぞ。重成。」


重成が頷く。


「一通り水路を深く出来る迄は日数もかかるだろうが、なに、籠城中でも工事は出来る。船が出来上がる頃には水路も仕上がっているだろう。」


その時、近習の声がかかる。


「秀頼様、長崎より荒木宗太郎様の使いの方が参られておりまする。」

「おう、表御殿ではなく、奥の私室に通しておいてくれ、重成も付いてまいれ。たぶん、朗報だ。」


重成が黙って頷き後に続く。


「で、御使者はどのような風体で有った?」

「は、色浅黒く長身の筋肉質、無精髭まで荒々しい、如何にも海の男と言った風情で御座います。」


ん?それは………重成を見ると重成も気が付いたようだ。

すぐに奥御殿の私室に着く。

部屋の中央やや出口寄りにドッかと胡坐をかいている男が一人。


「お待たせいたしました。あいや、そのままで。」


上座に回り込み正面に着座する。重成はやや左後ろに座を構えた。


「遠路はるばる、よく大坂に来てくだされた。()()()()()…殿。」

「ふっ。流石、若君(秀頼)様。すでに正体を見破られて居られましたか。」

「御使者殿であれば、荒木殿に恥をかかせぬように、精一杯の身なりを繕いましょう。普段の有りの侭に近い姿で参る事が出来るのは、ご本人のみでありましょう。」


荒木宗太郎がニヤッと笑う。


「如何にも。某は荒木宗太郎に御座います。以後、お見知りおきを。秀頼様。」

「して、安南、シャムなどとの交易の現状は如何に?」

「一応はまずまずといった処でしょうか。現状は自分ぐらいしか直接乗り出しておりませぬ故、日ノ本の物産も安南の物産も双方に希少で御座れば。」

「利は出ているが、拡大には足枷が多い………ですかな。」

「ご明察。」

「やはり。あの方面の海は鑑真和上が幾度も難破したほどの荒海。遣唐使船も渡航は困難を極めたと聞き及びます。されば南蛮船と同等以上の船があれば、如何で御座ろう。」

「ふむ、南蛮船。あれが有れば大いに助かりますが………。」

「これは内密だが、薩摩の秘密造船所で豊臣水軍の中核となる最新式の南蛮軍船の改良型を建造中だ。」

「!」

「豊臣家では長崎と海外の交易をさらに発展させたいと考えている。そこで、建造中の軍船が仕上がれば、次に輸送型の改良型南蛮船を建造にかかるので、それの貸し出しを受ける気はないか?」

「輸送型?とは?」

「来日している南蛮船は、実は交易型なのだ。交易型といっても、知っての通り自衛用の備砲もそれなりに装備している。だが、南蛮同士の戦争で用いられる軍船はもっと備砲が多い戦闘用なのだ。」

「なんとっ!」

「その戦闘用軍艦に対抗できる軍船を建造中なのだが、それをそのまま交易に使っては、効率がわるいので、備砲を自衛用にまで減らし、空いた空間を倉庫にして、大量の荷を積めるように改造した輸送船を貸し出そうという訳だ。だが、勿論、次々完成する輸送船は荒木殿以外の商人にも平等に貸し出す。そこから先は荒木殿の腕次第ではあるが、すでに安南との交易に乗り出している荒木殿に真っ先に声を掛けたという訳だ。」

「なるほど。それは願ってもない事。されば、その輸送船を運用後にさらに我らの手で改良を加えても?」

「勿論、それも大歓迎だ。その詳細も逐一報告は不要。それぞれの商人が考えるべき事項、お互い切磋琢磨されたい。」

「ならば、是非にも借り受けたく。南蛮船であれば東シナの荒海もより安全に航海できるようになりましょう。しかし驚きましたな。まさか若君様が斯様に海に詳しいとは。く、く、く。これは家康殿は再び追い返されそうで御座いますな。」

「勿論だ。家康には西国に手を出させる訳にはいかぬ。あやつが日ノ本全部を抑えては、商家の息が詰まってしまうであろうに。」

「左様ですな、家康殿には東国をせっせと開発して頂くのがよろしいでしょう。」

「さすれば、荒木殿の販路も広がろうというものよの。」

「お見通し。なれどなんら恥とはおもいませぬ。」

「うむ。売り手、買い手、双方に利があってこそ長続きする。現状では東国との商いは効率が悪いので後回しになるのは当然じゃ。」


そこで重成が割って入る。


「あ、あの、よろしいでしょうか。」

「おう、どうした重成。」

「南蛮船の輸送船であれば、犬吠埼も越えられましょう。ならば、伊達殿と直接交易が叶うのでは…。」

「! よくぞ気が付いた。荒木殿。伊達政宗相手であればどうじゃ?」


話を振られた荒木宗太郎がしばし考える。そして…


「…確かに。伊達政宗殿は東国に在りながら進取の気概あふれる御方。(われ)自身が伊達領まで余裕で荷を運べるとなれば、港の整備も厭いますまい。成程、幕府領は見込み薄でも伊達領であれば早期に商いも成り立ちそうでございますな。しかし、港の整備を早めに掛かって頂くには、この計画を伊達殿にお伝えせねばなりませぬが、よろしいので?」

「構わぬ。いや、すでに匂わせてあるので荒木殿からも後押ししてもらえると助かる。」

「く、く、く…それは、それは、手回しの良い塩梅で………。そうそう、先ほど島津様の所で造船中との事でしたが、さすれば当然島津様もその南蛮船を保有されるので?」

「うむ。島津殿にも大いに働いてもらおうと考えている。おそらくはすでに交易に乗り出されているルソンや琉球付近が相手となろうな。」

「島津様が益々強大になりますが、豊臣家はそれで問題無い………と?」

「無いな。商家がそれぞれ切磋琢磨するのと同じく、大名家もそれぞれ切磋琢磨してこそ日ノ本全体の底上げに繋がる…そうは思われぬか?荒木殿。戦はなにも弓矢鉄砲を打ち合うだけでもあるまいに。ああ、そうそう、せっかくの知己を得た荒木殿故、先にお伝えしておこう。薩摩はこれから急激に力をつけるだろう。今までは桜島の火山灰で農業に不向きな土地が多く、農産がふるわない薩摩大隅であったが、それが一変する。」

「は?」

「火山灰土でも水と日光があれば育つ芋を既にお伝えしてある。島津殿であれば必ずや入手されて数年内に大規模な栽培が始まるだろうな。やせ地で育つ芋であるが、寒さに弱く北国では栽培できぬのが残念だが。」

「…すでに売り物まで手配済とは………その暁には島津様は豊臣家に力を惜しまず与力なされましょうなぁ。」

「そうよの、その為にも船の建造は急務でもある。」

「今日は遥々上坂した甲斐がありました。豊臣様とは、長いお付き合いを期待いたしたく。」

「うむ。こちらこそ、よしなに願う。」


その後はさらなる無礼講となり、安南の話で盛り上がったのだった。





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