36 減税
大坂城大広間。
組頭以上の武将が集まり、むさくるしい空気で息が詰まりそうだ。
どの顔も誇らしげに明るく、士気の高さが伺える。
「先の戦での奮闘、見事だった。この大坂に集いし武士こそ、日ノ本最精鋭であると、この秀頼、改めて確信した。」
諸将をじっと見まわす。皆破願して秀頼の次の言葉を待っている。
集中力は切れていないようだ。頷いて、
「初戦は大勝であった。だが戦は始まったばかり。皆にはさらなる奮戦を期待したい。」
おう、おう、おう………諸方から声があがる。暫く間をおいて続ける。
「次は当然籠城戦となるが、それに当たり我が領内の年貢を下げる。」
? 皆の顔が困惑に染まり、場がざわつく。
「いきなりで戸惑うのは判る。よって、少し長くなるが説明するので、算術の苦手な者も我慢して聞いてほしい。」
喧噪が収まるのを待って続ける。
「その昔、前右府織田信長公は畿内を手に入れるや租税を3割5分ほどに減免した。その結果、元々商いが活発だった畿内は一気に活性化し税率を下げた2年後3年後には下げる以前よりもずっと多くの税収を得る事となった。」
ほう?、そうだったのか………あちこちで呟きが漏れる。
「我が豊臣家は現状五公五民である。が、これは他にも理由はあるが、主に朝鮮に兵を送る必要から重税になった。それがそのまま放置されている。」
豊臣家に参集した浪人衆は戦国生き残りも多く、五公五民に結構麻痺している。重税という感覚は薄い。
周囲の侍に目配せして、(そうなのか?)などと確認している。
「これから籠城戦になる以上、どうせ籠城中は税を収納できぬので、これを期に租税を3割5分に減免する。」
(まあ、どうせ収納できぬのであれば、それでいいか?)などと言う声も漏れ聞こえる。
「だが、勘違いしないでほしい。これは攻めでもあるのだ。減税された領民は当然喜ぶ。そこに幕府の連中が乗り込んで徴税しようとすればどうなるか?領民は皆逃げ出して幕府は一切徴税できぬ。」
(おお、成程!)
「そして、籠城中も時間が過ぎれば過ぎるほどに領内の商いは活性化し東国との格差はどんどん拡大するのだ。勿論、西国は豊かに、東国は貧しく………な。」
! 諸将に顔に驚きの色が浮かぶ。
「家康は高齢で後が無い。今回は石にかじりついてでも包囲戦を続けようとするだろう。2年、3年に及ぶ可能性もある。だが、我らはこの大坂城を守りさえすれば、どんどん地力を増す。幕府は長期の遠征で消耗し続ける。」
諸将が漸く納得顔になる。
「解ってもらえたようだな。この策はすぐに幕府側にも知れ渡るので、ここで公開した。他にもいろいろな策がすでに施してあるが、幕府も馬鹿ではない。当然、幾人もの間諜が紛れ込んで居る。侍大将達とその他の策は色々と図っているので、安心して皆、籠城戦に臨んでもらいたい。」
おーう、おう、おう………
大広間に諸将の声が響き渡った。
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「なかなかの演説で御座いましたな、秀頼様。」
重臣だけを残した小部屋で郡宗保が、半ばからかい気味に声をかけてくる。
「ああいった事は、実際に囲まれる迄に言っておく方が良いと思ったのでな。」
「確かに。」
「では、各々、進捗状況は如何に?幸村、どうだ?」
「はい。大坂城自体の防御力は、冬の陣の時よりも、寧ろやや上回りつつあります。南方総構の追加工事はほぼ終わり、さらに鉄壁となっています。」
「うむ。この短期間でよく仕上げてくれた。又兵衛はどうだ?」
「兵の士気、数、共に十分。いつでも戦えますぞ。」
「流石だな。だが籠城戦になると、どうしても士気が下がり勝ちになる。士気の維持は又兵衛が頼りだ。以後も頼んだぞ。」
又兵衛が鷹揚に頷く。
「治長(大野治長)どうだ?」
「兵糧、弾薬、その他消耗品は今もなお備蓄中ですが、数年は持たせられましょう。先の勝利もあり、囲まれる迄に、なお数回は船荷も入る見込みです。」
「うむ。やはり、初戦の勝利は大きいな。治房、どうだ?」
「秀頼様の秘策、困難を極めましたが、なんとか準備できました。」
「おお、そうか、出来るかどうか、この秀頼も半信半疑であったが、それは重畳。苦労を掛けた。」
大野治房が面目を施し満足そうに頷く。
「淡輪殿。」
「はっ。すでに島津殿の領内、志布志にて船台5つと、引き込み溝式の、船の修理も出来る新型船台1つを建造しています。また、新型船の図面も引き直して居り、それを縮小した小型船を造り、試して見る予定です。新型砲は防諜も予て大坂城内に鍛冶を集めており、試作に成功次第、量産にかかります。」
「うむ。新型船は、一隻だけでよいので、先に建造に集中してくれ。出来上がる頃には新型砲も出来て居るだろうから、出来上がった1隻の新型船で志布志に砲を運んで、後日出来上がる新型船5隻に艤装せねばならぬ。砲弾などは、志布志でも造れよう。残り5隻は志布志で臨戦態勢を完了させたい。」
「成程。新型船が出来た暁には何物も阻む事など叶いますまいが、一息に6隻揃って現れれば一瞬で幕府の士気は挫けましょうな。」
「それも有るが、最初の一隻での回航は奇襲になるので幕府も手は打てぬ。が、次の回航では幕府もなけなしの船を総動員して大坂湾を封鎖しようとするだろうからな。それを一瞬で粉砕したいのだ。」
陸戦専門の又兵衛や長宗我部盛親も納得の表情だ。
「最後に勝永(毛利勝永)。そなたにひとつ、検討してもらいたい案がある。」
「? それは?」
「大坂城の西側に入れてくるであろう、幕府の兵を始末する算段なのだが………」
毛利勝永を身近に呼び寄せ、秘策を耳打ちするのだった。




