未来の夢
「もし一晩だけ見たい夢に操れるとしたら、どんな夢を見たいだろうか。
過去の未解決事件の犯人の正体かね。
それとも、現代の身近な恋愛の果ての結婚生活かね。
あるいは、未来の出来事かね。
まぁ、どちらにせよ、夢を見るまでは分からないだろう。
私には、君が見る夢を知ることはできないのだからーー」
そう言って、黄昏時に出会った老人は私に何かしらの瓶を渡して去っていった。
その夜のこと、酒瓶の中身をグラスに移し替えた。中身は赤紫色の液体。つまり赤ワインである。
私はグラスに注いだ赤ワインを呷った。一口づつ丁寧に。口の中を転がすように。
なんて気持ち良いのだろう。鼻腔をくすぐるような感じはこのことだろうか。
とても美味しい酒だ。ぐいぐいと空かしかねない。丁寧に味わわなければ。
しかし、どこか眠気を感じている。微睡んでいる自分がいる。
確か、一晩だけ未来を視られると言う話だったけか。私はどんな夢を視るのだろう楽しみで笑顔になる。
その夜更けのこと。私が視た夢というのは、高いビルの屋上で人々が次々と墜ちていくものだった。生気を喪っているようにも思える。
これが未来の光景なのだろうか。
私は冷や汗で目が冴えてしまった。なんて怖い夢なのだろう。これは夢だとしても悪夢の類いでしかない。こんな夢は実現してほしくない。
なのに内なる私はあの夢を、あの人々が墜ちる夢を実現すると肯定している。否定しきれない。悪夢のダブルバインドに囚われている気がする。
未来なんて将来なんて、知るべきじゃなかったのだーー。




