1.蘇った男
ガナハ マコトは今、自由主義大国の首都にいる。そして首都のホテルから現地での虎符支持者と売国伝支持者の衝突を偏向せず伝えようとしている。
さっきも米人女性が言っていた。「自分の国なのに、何が起きているのか、分からない。」
マコトも、彼女の言っている事に同意する。
「全くその通りだ。大手のテレビも新聞も、平気で嘘をついて報道し、売国伝を大統領にしようとしている。」
マコトが彼女と話をしているとBKMと思われる黒ずくめの男たちがやってくる。
マコトたちを守ろうとプライドボーイズが黒ずくめの男たちに立ちはだかる。その時、悲劇が起きる。
黒ずくめの男がプライドボーイズを刃物で刺したのである。
マコトが叫ぶ。「止めろ!」
叫ぶマコトも、刺され意識を失う。
「既にお前は死んでいる。目を覚ませ。」
マコトはいきなり呼ばれて目を覚ます。刃物で刺された記憶があるが、体の痛みがない。
そして、目の前には宇宙服に似たものを着た犬のような存在がいる。
「転生の希望は?」
マコトは、体の痛みがないので、これは夢だと判断して言う。
「カウボーイ。」
マコトは子供の頃、悪人を倒して去るカウボーイが夢だった。これが夢の中だと思っているマコトは子供の頃の夢を言う。
マコトの意識が消えていく。
目を覚ました時、目の前には驚いた表情の中年の女性、コリー犬族の女性と少女がいる。
そして自分自身の手が毛で覆われてある。手だけではない。どうやら全身が毛で覆われている。
中年の女性が言う。「まあ、神様、あなたは生きかえったの。」
犬がしゃべった。あるいは犬のぬいぐるみを被った人なのか?
しかも、コリー犬族だと判断している。どうやら違う世界にいるようだ。しかも、記憶が曖昧だ。分かる部分と分からない部分がある。
同じコリー犬族の少女が言う。「もう少しで、棺桶に釘を打つところだったわ。」
よく見れば、確かに棺桶の中にいる。
そしてまず、自分の名前を聞くことにする。
「俺の名前は、何だっけ?」
中年の女性がこめかみに手を当てる。
少女が言う。「ビル、コーギー犬族のビル・クインだよ。」
ビルが言う。「ありがとう。どうも記憶がおかしいのさ。」
とにかく何が自分に起こり、今はどういう状況かを
更に目の前にいる二人に聞く。「二人の名前も教えて欲しい。」
中年の女性は呆れた表情をしたが、少女が答える。
「こっちはエリザベス、私はパル。親子でこの安宿をしているの。」
エリザベスが再び神様に祈る。
エリザベスが言う。「ああ、神様。」
パルが言う。「うちの食堂で、いきなり倒れて、脈を見たらもう心臓が止まってた。」
つまり、いつものように、食堂で朝食を食べていたら、突然倒れたらしい。そしてここは、前の刃物で刺された世界に似てはいるが、かなり違う並行世界らしい。つまり、転生したのだろうと理解する。まさか自分が異世界へ転生するなんて考えてもいなかった。そしてビルは事情を聞く。
既に死んでいると思ったエリザベスが葬儀屋を呼び、棺桶に入れて後は釘を打つところだった。ただ、パルがまだビルが温かかったのでもう少し待とうと言ったので、棺桶が閉まっていなかった。
ビルは事情を聞いてあらためてパルに礼を言う。
「ありがとう。」
そこでパルが思い出して言う。
「ユーチューブにアップしないの?」
どうやらビルはユーチューバーで生活しているようだ。
本来は、テキサスのカウボーイのような正義のヒーローを目指す新聞記者が夢だったらしい。だから胸の上にカウボーイの帽子があるのだろう。
しかし、地方新聞社は既に採用できる余裕がないので、ユーチューバーとしてほそぼそと生活しているようだ。
パルは事情を聞いて、棺桶に入ったところをユーチューブにアップするための動画を撮る。とにもかくにもユーチューブで登録者数を上げないと、棺桶代さえ払えない。
ユーチューブ用の動画をパルに撮って貰った後、棺桶から出て、エリザベスの知っている範囲で話を聞くことにする。
パルは少し離れた場所にあるスーパーにアルバイトに出かける。
エリザベスが言う。「気をつけてね。最近、行方不明が多いからね。」
パルが言う。「歩いて行ける場所よ。大丈夫よ。」
パルが手を振って出ていく。
パルが出て行った後、エリザベスが言う。
「本当は、ここで手伝って貰えればいいのだけど全くお客さんが来なくてね。」
ビルが聞く。「ここはどこで、今は何日?」
エリザベスが言う。「ここは、スイートウオーター、ノーラン郡テキサス州の潰れかけている安宿。今日は4月12日、2020年よ。」
ビルが思わず聞く。「今日は復活祭か?」
エリザベスが言う。「ええ。あなたは復活祭で蘇ったのよ。」
なるほどエリザベスが神様に祈るわけが分かる。
その後、ビルはこの安宿の宿泊客で、この町で色々な話題をユーチューブにアップして生活していることを知る。
まさか、自分が異世界からの転生者であることを説明するのは、状況を理解してからでなければ危険だ。
しかも、約8カ月も日付が戻っている。もし、この世界で同じような事が起きるなら、既に敵があちこちに浸透しているはずだ。
ビルはエリザベスが知っている限りの事を聞き出すと、自分の部屋に戻ってパソコンを開く。
そして、パスワードを知らない事を思い出す。
これでは、ユーチューブ用の動画さえアップできない。
ビルは呻く。「どうすればいいか、これが問題だ。」
あれから、数時間の間、ビルは深層観でやっとヒントを見つけて、パソコンのパスワードを見つけてログインしている。
やはり毎日繰り返していた作業の記憶は、深層意識に残っている。
そして、復活祭の蘇った事件についてユーチューブにアップして一息ついた頃、ドアがノックされた。
コン、コン。
既に時間は深夜である。
ビルがドアを開けるとそこには、エリザベスがいる。
エリザベスが叫ぶ。「まだ、パルが帰らないの。」
ビルがアルバイト先で、まだ残業中ではと聞くが、既に店からは随分前に帰えったと主任に言われたらしい。
ビルが言う。「警察には?」
エリザベスが言う。「ええ。事情を話してさっき帰ったわ。」
エリザベスが泣き崩れる。
「パルが人攫いに連れていかれたら、どうすればいいの?」
ビルはどうやら、自分の事でいっぱいで他の事は気がつかなかったようだ。
エリザベスは、最近起きている行方不明で誰も戻ってきていないので、心配になりビルに相談に来た。
パルは、棺桶の釘を打つことを待って貰った少女だ。ビルは何とか手がかりを見つける事を考える。
ビルが聞く。「パルの写真をユーチューブで公開してもいいかな?」
ビルは、ユーチューブで目撃者を見つけることを提案する。
エリザベスが言う。「分かったわ。お願いする。」
ビルはすぐに、さっきの動画に写っているパルの写真をアップして行方不明の少女の目撃情報を集めることにする。
ビルはエリザベスに言う。「何としてもパルを見つけよう。」
登場人物のビルは、『ウォルマートがアメリカをそして世界を破壊する』 ビル・クィン著 大田直子訳 成甲書房 から、インスピレーションを得て構成した架空の人物です。
特に参考にした箇所は、参考付録部分になります。