前年に二・二六事件が起き、日中戦争が始まった昭和12年、12才の小学生が書いた一年間の日記です。当時、東京澁谷に住んでいた小学6年生は、どんな日常生活を送り、どんなことを思い考えていたのでしょうか?
一 月
一月一日金曜 天候くもり
今日は昭和十二年の元旦の良き日。初日の出を拝もうと思って戸をあけたら、くもりだった。晴れるようにと思ったのにくもりだったので、がっかりした。だが竹がさわやかな風をうけてゆれている。日の丸の旗が今日に限って神々しく見える。おとそとぞうにで今日の良き日を祝した。
そして年賀式をすまして明治神宮を参拝した。売物やは今日はにこにこして品を売っている。僕は手品をかって内へかえってやってみたら、うまく出来たので、早速妹にみせたら「あらふしぎ」とふしぎがった。夜は早く寝た。
一月二日土曜 くもり
今日は朝早く起き書初めの用意をした。ごはんをたべてから始めた。所が中々うまくいかない。一回かいてお父さんにみせたら「なんだこの字は、なっておらん」といわれたので、こんどは新聞紙に練習して最後の清書はうまくいった。
三時頃飯森君と妹と家族合わせをしていたら、お母さんがみかんをもってきて下さって、かったものにこれあげるといってやったが、飯森君がかった。晩、おもちをいやという程たべてうんざりした。
一月三日日曜 くもり
今日は朝早くから遠藤さんの内へご年始に行った。なにしろはじめてのことで始めはまちがえて行きすぎてしまった。これはへんだと思って、またひきかえしてやっとわかった。中へはいりあいさつをして客間でまっていると、活動写真をうつしてくれた。じきかえってくる筈だったのに、二時頃かえってきた。その内の男の人は(陸軍)幼年学校の人で、僕もあのようになろうと決心した。
晩お客さんがくるというので、おつかいやらお手伝いをした。お客さんが来てどんちゃんさわぎをした。客がかえってお風ろへはいろうとおもったら、ぬるかったのでよした。夜寝たのが十二時。
一月四日月曜 晴
今日はめったにない日本晴れだ。昨日は遅く寝たので非常にねむたかったが、がまんして起きた。お日さまがぎらぎらとかがやいている。ごはんをたべて二階で遊でいると、お父さんがなにかなくしたようだ。内へかえって来てさがしはじめた。戸棚からタンスの裏や箱やらふとんをひっぱりだして、大騒ぎの末とうとうみつかった。
晩飯をたべているとお客さんがきた。それで手にほうきやはたきをもって、やっときれいにした。福わらいや双六をしてうんと笑った晩飯といって天どんをもってきてくれたが、飯のあとだからお腹いっぱいになった。夜はまた遅く寝た。
一月五日火曜 晴
朝起きて弟の孝を遊ばせていると、前の内の子が遊びにきたので、カルタやサーカスやお話をした。その子がかえるといったので僕たちも遊ぶのをやめて、昼飯を食べていると、お母さんが「今日はこれから活動(写真)を見にいきましょう」というので、澁谷の東横映画げき場へきた。
切符をかおうとしたら座席満員と書いてあったが、入ってみた。いるわいるわたくさん、身動きもできない。しばらく見ていたら、案内の人に席をおしえてもらってそこへ座った。帰りはもう晩になっていたので、急いでかえって寝た。
一月六日水曜 くもりのち晴
朝目をさましてから、床の中で妹と一問一答をやった。始め妹のすみ江が「ロシヤと日本どっちが兵隊多い?」ときいたから、「それはロシヤが多いよ」といったら「じゃ日本はどうして強いの?」と言われたのでまいった。起きて顔を洗い、ごはんを食べたのが十時だった。
それから弟と二階で遊んでいると、すみ江が「回覧もってゆく」と言ったので「いけない」と言ったら、二銭やるからと言ったのでよしとした。それからすみ江をむかえにいく途中、弟とかくれんぼをして、でんしんばしらのまわりをぐるぐるまわって、めをまわしてしまった。夜は十時に寝た。
一月七日木曜 晴
朝床の中で本をよんでいると、お母さんが「もう起きなさい」といったので、起きた。冬休みも今日で終わった。冬休みをふりかえってみると、面白いことやうれしいことなどがさまざまと頭へ浮かんでくる。朝めしは少し遅かった。あすから學校だ。
昼飯をたべていると、お客さんがあったのでカルタや家族合わせをした。紙しば居で帳面をあてた。内へかえり勉強して晩飯をくってから 角力やなんかをした。夜寝たのが十時。
一月八日金曜 くもり
今日から學校へいくのだ。書初めと通信ぼをもって学校へきた。みなにこにこしている。しばらくして鐘がなった。校長先生のお話をきいて、教室に入り、先生の話をきいて大そうじをした。
内へかえってみると、ラジオが観兵式の実きょう放そうをしていた。いさましい學の音・爆音の音をきくと、血はおどり肉がひきしまるようなかんじがした。尊き大元帥陛下の御まえにおこなわれた分列式。「つづいて(近衛歩兵)第四れんたい」といったとき、お父さんもあの中にいるのだと思った。
一月九日土曜 はれたりくもり
今日から授業が始まるので、朝早く起きて本を見ていたら、遅くなってしまった。急いでごはんをたべようとしたら、ごはんがあつかったのでしゃくにさわった。學校に来て入ろうとしたら、鐘がなった。始まり早々おくれたのでへんな気持ちになった。一時間目は算術して、二時間目は地理、三時間目は級長選挙をしたが、結局松田・金川・佐竹の三君がえらばれた。
帰ってみると、お母さんが「今日は早い」といった。そのはずだ、妹がかえってこない。夕方よその人を弟が「お父さん」とよんだので、その人がふしぎそうな顔をしたので、僕はふき出してしまった。夜寝たのが八時。
一月十日日曜 雨後くもり
朝起きてみると雨がふっていた。つまらないので床の中で寝ていたら、お母さんが弟をつれてきたので遊ばしていると、妹のえり子が「ごはん」といったのでごはんをたべて、二階をしめて青山会館に来た。
ずいぶんこんでいたが、席にすわれた。活動を見て、かえったのが二時であった。ごはんをたべ用があったので、がま口から二銭だしたが、一つの方が大きい。へんだと思ってよく見たら満州のお金一分だった。夜いんばんを、いろ々なかみにおした。風呂にはいって寝たのが十時だった。
一月十一日月曜 晴
朝起きて顔をあらい朝飯をたべてから、學校へいった。今朝はたいそう寒い。みなはなが赤い。學校へ来てみると、みな遊んでいた。それからお話をきいて書初めを見た。六年から一年まで全部見て、外で角力をした。
學校から帰ってみると、二階で妹のすみ江達がおままごとをしていたので、外へ出て遊びなとおい出し勉強した。飯をくい、お父さんとぐちょきぱーをして、五回かち一銭もらった。夜寝たのが九時。
一月十二日火曜 晴
床を出て戸をあけ室内を掃じした。きたなかった室がとてもきれいになった。今朝は非常に寒い、井戸の水が出なくなってしまった程だ。どの内の屋根も真白だ。昼はとてもあたたかかった。
學校からかえると又ままごとをしている。こんどはおい出せない。仕方がないから、本を見たり歌をうたったりした。夜は九時から十時半まで勉強して、寝たのが十時半すぎてからであった。
一月十三日水曜 晴
起きて戸をあけると、さっと太陽の光がはいってきた。今までくらかった室内は、急にあかるくなった。朝飯をたべ學校へ来ていよ〱べんとうとなった時、べんとうがない。よくかんがえてみたら、内へおいてきたのだ。それで僕はべんとうを内でたべてきた。
學校から帰ってあそんでいると、お父さんがトマトをもってかえってくれた。夜は勉強して、寝たのが十時半すぎてからであった。
一月十四日木曜 晴
暗い六時頃「お兄さんおきなよ」といったので「ううん」といっておきて、ねむい目をこすってかいだんの方を見ると、弟がいたので「ずい分早くおきたなあ」といってかんしんしてしまった。
學校から帰り道、途中までくると町井君が學校でよんでいるいったので、すぐいったら二十銭のおつりをとるのを忘れていた。晩お父さんとぐちょきぱーをしてさんざん負けた。あすは早起会なので、晩は早く寝た。
一月十五日金曜 晴
今日は早起会だ。朝六時にめがさめた。あたりを見回すとまっくらいから、いこうといって、妹のすみ江とえり子を起こして早起会に来た。お池は氷がはっている。石をなげるとひゅうといってすべってゆく。學校からかえって遊んでいると、お父さんにいいつけられ矢原さんの内へいった。始めはさっぱりわからず、あちこちまわってやっとわかった。さてはいってみてわからない。さがしまわった末とうとうみつけ、用をすまして帰り、夜は勉強して寝たのが十一時。
一月十六日土曜 晴
學校へ来てみると今日はわりと早い。一時間目に算術の試けんをした。昨日やったためすらすらできた。やっぱり勉強するととくだと思った。二時間目は映画をみて地理をして、内へかえって松田くんと東横へ児童作品展らん会を見に行って、かえり本を見てかえった。
今日は僕のたん生日だ。内の人皆が祝してくれた。そしておばさんから三十銭もらったら、妹のすみ江が口惜しがったので面白かった。明日は日曜だから、あした勉強しよう思って寝た。寝たのが十時だった。
一月十七日日曜 晴
今日は日曜なので朝寝坊してしまった。起きて顔を洗い朝飯たべて二階で勉強していると、すみ江達が遊んでいたので、やめて弟をつれて飯森君のうちで遊んだ。あまりむ中で遊んだので、すみ江たちは帰ってしまった。
内へかえってみるとお父さんがかえっていた。昼飯をたべ勉強して、夜早く寝ようと思ったら、弟が遊ぼうといったので遊んだため、寝たのが九時。
一月十八日月曜 晴のちくもり
床の中で弟を遊ばせていると、お母さんが「もう起きなさい」といったので、すぐ起き戸をあけると太陽の光がさっと流れこんできた。ごはんをたべ、學校へ来てみると今日は早かった。お話はかみくずをすてないこと、起こされたらすぐ起きること。それから、ある区役所の小使のお話であった。
學校から内へかえった頃は、くらくなっていた。夜は勉強をしたり、地ずをかいたたりして寝たのが十時であった。
一月十九日火曜 晴のちくもり のち雨のち雪
朝起きて顔を洗い、飯をくい内をでた。荷物が重くて學校まで来てへたばってしまった。今日は列長試けんがあるので、昨日はうんと勉強したため、すら々できた。読方は九十てん、算術が八十てんでパスした。僕は清水のくみの副列長になった。
内へかえってばん飯をたべていると、お父さんが幼年學校の話をしていた。夜は勉強し体操をして、寝たのが十時。
一月二十日水曜 雪のち晴
朝起きて戸をあけると一面の銀世界、どこの内もまっしろだ。飯をくい内を出た。雪があるので、よくすべる。時々木から雪がおっこってくる。今日は少し遅かった。四時間目席をかえ、僕は一組になった。ほうかご松田君達とかくれ家をさがしたので、家へ帰るのが遅かった。
内へ帰り遊んでいると、「お風呂ですよ」といったので入って、寝たのが九時半。
一月二十一日木曜 くもりのち雨
朝弟と二階で菓子をくいながら遊んでいると、「ごはんですよ」といったので下へおりた。ごはんのじゅん備ができていたので、たべてから學校へ来た。今日も内遊びだ。ストーブのまわりにたくさん人があつまっているので、僕もあたっていた。手工の時間、一時間半かかって絵をかきあげてほり、糸のこできったため、内へ帰るのが遅かった。
夜はすみ江のため白鬼のもけいをつくってやったら、よろこんだ。寝たのが十時。
一月二十二日金曜 くもり
朝起きて學校へきた。今日も内遊びだ。今日は僕は当番だったけれども木曜の当番がしてくれたので、外で遊んだ。内へ帰る途中、村田が本をとったといって怒ったので、本をかえそうとすると怒るので弱ったが、結局本を渡した。
内へかえってごはんをたべお風呂に入っていると、やけどをしてしまった。晩おじいさんにだす手紙を描いた。寝たのが九時であった。
一月二十三日土曜 くもりのち晴
朝起きてつめたいから、床の中で妹のすみ江に、きびがらでおちゃわんやひばちなどをつくってやったら、よろこんだ。「起きなさい」といわれて起きて、つめたいのをがまんして顔を洗い飯をくって、學校へ来た。學校から帰る途中、荒川達とけんかをしてぼたん二つをとってやった。
内へかえって留守居をしていたが、中々帰ってこない。遊んだりしていると夜になったから、おこたにはいっていると、地震があった。やっと帰ってきて、寝たのが十時半。
一月二十四日日曜 晴
朝起きて朝飯をたべて二階へ上がって勉強してから、外へ出てめんこをして遊んだ。背をさす暖かい光。だん々している内に、かってきた。昼飯をたべていると安雄おじちゃん達がきたので、僕は参道にお餅をかいにいった。それから、かみしばいもみた。安雄おじちゃんが帰ってから、夕飯をたべて寝たのが九時であった。
一月二十五日月曜 くもり
今朝の新聞をみると、宇垣大将が総理大臣になられたそうだ。飯をくい學校へきて朝礼の時、校長先生が「姿勢をよくせよ」ということをお話して下さった。予習をして当番をしてから角力をして、内へ帰ったのがくらい五時頃。
今日で春の場所はおわりだと、ラジオで放送している。双葉山が全勝だ。夜二階で勉強していると、お父さんが、四連隊での今日の幼年学校の試けんの話をしていた。夜勉強して、寝たのが十一時。
一月二十六日火曜 くもり
朝起きて飯をくい、學校へ来た。今日は、校長先生がお話をしていらっしゃる時についた。二時間目算術の試けんをして九十てんをとった。唱歌の時間はラジオをきいた。其の時ストーブのそばにいたので、顔が真っ赤にになった。
内へかえっておこたの中で遊んでいると、号外がきたので見てみたら、宇垣大将は総理大臣になるのはむつかしいそうだが、僕はあの人でよいと思う。 勉強して寝たのが十一時。
一月二十七日水曜 くもり
今日はどんよりとした、わるい天気だ。時々晴れ間をみせた。朝、「文天祥」のところを朗読し、朝飯をたべて學校へきた。二時間目の球算の本をわすれたので、急いでとりに帰ってみたら、あと五分あったのでうれしかった。体操の時間は角力をした。
内へ帰って遊んでいると、お父さんが幼年學校の試けんのかみを全部もって帰ったのでやってみたら、たいそうむつかしく中々出来なかった。夜はお風呂に入り、寝たのが十一時半。
一月二十八日木曜 くもり
今日は朝起きて顔を洗い、學校へ行く時、手工の道具やら重いかばんなど持ちきれないほどあったのでいやになった。學校へついて勉強し、お昼のべん当の時間、箸をわすれてしまった。お昼から手工をやった。手工が長かったので、内へ帰るのが遅かった。
内へ帰ってごはんの時、お父さんが支那でかってきたなべでたいてたべた。もう大分古いものだ。夜は勉強して寝たのが十一時半頃。
一月二十九日金曜 あめ・くもり
今日は朝早く起き勉強して、おとこをあげ戸をあけた。今日もくもりだ。飯をくい學校に来た。お昼又箸をわすれたので、さがしたらあった。今日も又手工を昼からやりはじめた。にかわがうまくつかないから、三回もやりなおした。
内へかえってごはんをたべ、夕刊をみると、宇垣大将はとうとう内閣をやめたそうだ。まことにお気の毒だ。夜は勉強し、寝たのが十時。
一月三十日土曜 くもり
今朝の朝刊を見ると、林銑十郎大将に大命が降下したそうだ。これから、このさわぎもしずまるだろうと思った。ごはんをたべ學校へきて勉強をし、三時間目には手工をやったが、なか々できなかったので帰るのが遅くなった。
晩お風呂から上がってみると、お母さんが林ごをくれた。あとから甘酒をくれた。奈良漬けもくれたのでうれしかった。晩はすぐ寝たのが九時。
一月三十一日日曜 くもりのち晴
今朝起きてみるとどんよりした天気だった。十時頃から太陽が見えはじめた。僕たちが二階で遊んでいると、お母さんが「ごはんですよ」といったので下へおりごはんを食べた。外で遊んでいると、お父さんが明治座の入場券をもってかえった。昼ごはんをたべて、お母さんが松田さんの内へいったので留守居をした。しばらくしてお父さんがきじをもってかえった。夜寝たのが八時。




