第53話:勝敗の先にあるもの――競技から世界を変える制度と未来
《リオン式VR世界大会》の閉幕から一週間。
その余波は、世界中に静かで強い波紋を残していた。
かつて“軍事演習”と呼ばれていたものは――今や、“国際スコアランキング”に置き換わろうとしていた。
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王国育成庁・政策会議室。
「大会成績を、国際協定の調整材料とする案が浮上しています。」
「武力ではなく、“戦略・技術・連携”の点数で交渉順位を決める……なるほど、理に適っている。」
国境管理の緩和、貿易枠の配分、文化交流の頻度――
すべてが“得点”で計測可能になり、“競技”が国家の外交カードとなっていく。
この新制度は、《パフォーマンス外交評価基準(PDE)》として、正式に承認された。
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また、スポーツ部門の選手たちには、新たな役割が与えられ始めた。
・大会MVPの少女は「南大陸交流親善大使」に
・王国の11歳指揮官は、軍事アカデミーの“平和戦略特任講師”に
・アーグラの少年は、地方の教育改革顧問として各地を回るようになった
“競った者”が、“導く者”として尊敬される時代が、幕を開けた。
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RPG部門では、優勝チームの一員が王国首相に直訴。
「私たち、もっとゲームの中で学びたいんです!“次の迷宮”を、ぜひ作ってください!」
リオン式育成庁は即座にプロジェクトチームを立ち上げた。
《リオンクエスト・シーズン2:迷宮都市編》
・新テーマ:“社会制度と市民生活”
・都市経営型シミュレーション要素を追加
・他国との連携・交渉・リソース管理を仮想空間で体験可能に
現実を学び、ゲームで試し、再び現実に還元する“知の循環”が、体系化されはじめた。
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ユニオン・クロス都市では、ある小さな奇跡が起きていた。
“対立していた二国の少年たち”が、VRチーム戦を通じて親友になり、
互いの街に“お互いの国の旗”を掲げて“記念戦友像”を建てたのだ。
ニュースは全世界を駆け巡り、SNSではトレンド第一位となった。
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リオンは、相変わらず飴を口に放り込みながら言った。
「遊びの結果で、現実がちょっとだけ優しくなったら……それで十分でしょ。」
サーシャはふっと笑った。
「あなたの“遊び”は、世界を変えすぎるのよ。」
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リオン・フォン・エルトレード、6歳と8ヶ月。
遊び、学び、競い、導く――その循環が、“未来を作る力”になりつつあった。
そして、誰もがその輪に“参加できる世界”が、すでに始まっていた。
つづく。




