第31話:剣は走り、言葉が追う。そして、和平の兆しが灯る
帝国軍、総兵力十二万。そのうち先行して王国に侵攻したのは三万――
だが、彼らは今、散り散りにされた。
王国西方防衛軍は、帝国軍の動揺を見逃さなかった。
「第一砦制圧成功、敵将捕縛!」
「南部街道封鎖完了、包囲網形成!」
「敵主力部隊、補給線断絶!」
伝令が次々と駆け込む。
「陣形が崩れている今しかない!」
王国は、かつてないほど統率の取れた電撃戦を展開した。
その中心には、リオン式教育を受けた兵士や伝令士たちの影があった。
「“戦況地図”の読み方、あの子から習ったんです!」
「通信速度と正確性、すべて“育成所式”の訓練通りに!」
王都に歓声が響く。国全体が、一つの鼓動で前進していた。
---
だが、そのとき――
王都と帝都に、一本ずつの書状が届けられた。
送り主:リオン・フォン・エルトレード。
その封には、金の“育”の紋章。
---
書状の内容は、極めて簡潔だった。
『我らは戦を望まず。教育は人を救うためのものであり、倒すためのものではない。
この戦いは、誤解と恐れから始まった。
だからこそ、“学ぶこと”が平和への最短距離だ。
まずは停戦の場を。子供たちの未来を、剣の音でかき消す前に。』
それは、“勝者の余裕”ではなかった。
“敗者を作らないための、提案”だった。
---
帝都・軍議殿。
帝国将軍たちが顔を見合わせる。
「王国は我らの戦力を読みきっている……。」
「だが、和平に応じれば……こちらの面目が……。」
そのとき、年老いた戦功伯爵が言った。
「……学ぶことを“恐れて”始まった戦ならば、それを認めて終わらせるべきではないか?」
「我らが誇るべきは、無謬ではなく、“正す知性”であるはずだ。」
その言葉に、若い将校たちがうなずいた。
---
王都では、国王自身が書状を読み上げていた。
「……リオン・フォン・エルトレード殿の提案を受け入れ、停戦会談を招集する。」
歓声が上がる中、リオンは静かに筆を置いた。
「これが、“教育で勝つ”ってことだよね。」
---
リオン・フォン・エルトレード、4歳と10ヶ月。
剣ではなく、書で戦う。教育は、人を育てるだけではない。
争いを止める――未来を守る、“知の武器”にもなり得るのだ。
つづく。




