第16話:教える側になるって、案外、楽しいらしい
「ただいま戻りました。」
それは、何気ない朝の一言だった。
でも、そこに立っていたのは――
「サーシャ……!」
あの手紙から数ヶ月。彼女は、再挑戦のために“帰ってきた”。しかも、前より少し大人びた顔で。
「もう一度、学び直したい。そして……今度は、教える側に立ちたいの。」
俺は黙ってうなずいた。
すぐに“リターン・トレイル・システム”の第1号適用者として受け入れ、彼女に役割を与えた。
「今日から、お前は“導き手”だ。新世代の子たちに、自分の歩いてきた道を教えてやれ。」
「うん!」
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同じ頃、戻ってきた者はもう一人いた。
レオン。伝令学校で成績は優秀だったが、「街の空気があわなかった」とのことで帰還。
「オレ、速さだけじゃダメってわかった。でも、今度は“育てる速さ”に挑戦してみたい。」
「じゃあ、お前は“初動訓練班”の担当だな。」
こうして――育成所に“教える人”が生まれた。
ジル、ミナ、ダント……それぞれ別の地で頑張っているが、手紙には「もし必要なら、いつでも戻る」と書いてある。
少しずつ、“循環”が始まっている。
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そして、事件は起きた。
一通の封筒。それは、王都からかなり離れた、辺境の自治領からだった。
“リオン育成所殿
お名前は以前より存じております。
私どもの村にも、学びの光が欲しいのです。
身寄りのない子供たちが多く、読み書きもままならず、未来が見えぬまま育っていきます。
どうか、1人でも良いので、導いてくださる方を送り込めないでしょうか?”
差出人:名もなき農村の老教師
俺は、手紙を握りしめてつぶやいた。
「……ついに、こっちから“届ける”番か。」
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数日後。
育成所の掲示板に、こう書かれた新制度が貼り出された。
『出張教育制度・第1期試験運用』
●目的:リオン育成方式を地方へ派遣
●対象:指導者コース修了者
●期間:短期(3ヶ月)〜長期(無期限)選択可
●特記事項:本人の意志を最優先とする
「“教えた子供が、また教える”……俺の理想が形になってきたな。」
「ええ、“リオン式”はもう、1つの文化ですね。」
「文化って……俺、3歳だぞ?」
リオン・フォン・エルトレード、3歳11ヶ月。再挑戦者が育て手となり、地方にも希望が届き始めた、風が冷たくなる頃の出来事である。
つづく。




