第10話:試験会場でバレるお小遣いの真実。そして豪遊。
「侯爵家主催・若年訓練試験会に招待されました。」
ある朝、ロルフさんからのお達しが下った。
「なにそれ、やる気試験みたいな名前だな。」
「貴族間の子弟選抜交流会のようなものです。今回の主旨は“次世代の芽の発掘”。貴族の子供や、その付き人たちが集い、実技で才能を示すとのこと。」
「……なにそれ、完全にうちの部下に刺さってるじゃん。」
行くしかない。というわけで――
「行くぞ、お前ら!ついに俺たちが“本物の訓練”の場に殴り込む日が来た!」
「「「おおおおお!!」」」
部下たちは全員元気。
というか、試験会場が都市部で“おいしいパン屋があるらしい”と知ってから妙にやる気だ。
目的の半分が胃袋なのが少し不安。
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試験会場はでかかった。
広場には整備された訓練場。
そこにずらりと並ぶ貴族の子供たち。
そして、その後ろに控える“騎士見習い”や“専属訓練生”らしき少年少女。
「おい……全員、装備がピカピカなんだが……?」
「大丈夫です、リオン様。私たちは草の根で育った鋼鉄です。」
「サーシャ、そういうカッコいい言い回しどこで覚えた?」
「レオンのまね!」
「ボク!?お、おれ詩人だったの!?」
一方、試験内容はシンプルだった。
1. 体力走
2. 模擬戦
3. 知識筆記
模擬戦は流石に危険ということで、俺は「主君ポジ」として観覧席。
部下5人がチーム戦で挑む構図になった。
結果。
「勝ったぞー!やったー!!」
「おれ、1人で3人倒した!」
「ジル、ジルって叫ばれてたよ……!ヒーローみたいだった!」
圧勝だった。
体力走ではレオンが2位以下を半周差でゴールし、模擬戦ではミナが「捕まってからが本番だ!」と叫びながら5分間相手を足止め。
ダントは作戦参謀ポジションで奇襲を指示し、サーシャが目潰し魔法(合法)で圧倒。
完全に勝ちパターン。俺?応援してた。がんばれって。
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終了後、控室。
「うちの子、あの草だらけの娘に押し倒されてました……。」
「転がってる間に全員やられてたとか、初めて見たわ……。」
他の貴族たちが若干ざわついている。そんな中、一人の貴族の奥様が何気なく漏らした。
「……それにしても、あのお小遣い、月に銀貨2枚ですって?破格よね。私の夫でも月1枚よ?」
「……え?」
「リオン様?今、青ざめて……?」
「うち、毎週銀貨4枚ずつ渡してるよね?」
「「「えっっ!?」」」
どうやら、完全に“貴族のご祝儀超え”のお小遣いだったらしい。そりゃ全力で働くわけだ。
「……ご褒美だ!今日は全員、好きなもの食っていい!!」
「「「おおおお!!」」」
その後、街中のベーカリー、アイス屋、揚げ肉屋、焼き菓子屋に寄りまくり、貴族子弟の威光を全力で使った豪遊を敢行したのだった。
「最高……このパフェ、バターの味がする……。」
「それ、普通じゃない?でもうまい……。」
「ねえ、帰りにもう一回あのパン屋寄っていい?」
「許す!」
リオン・フォン・エルトレード、3歳。部下育成が戦力化して外でも通用し、お小遣い感覚がインフレしていたことを知った春の出来事である。
つづく。




