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14_私のプログラムが許容しません!

***

軽快な足取りで事務所を後にした君島が見えなくなったところで、小津はようやく一息つく。


「途中からずいぶんと静かだったじゃないか。フレイヤ」


そう言いながら小津は声が発せられるであろう天井に備えられたスピーカーに顔を向ける。


「少し考え事をしていました」

「考え事?」

「はい、君島アンナというジャーナリストと大田黒の関係、ロディと大田黒の関係、ユウリとロディの関係、そして小津と君島アンナの関係…」

「ちょっと待った。僕と彼女は初対面だよ」


「はい、しかし唯一、推論ができたのは君島と小津の関係です。関係というより、なぜ君島が小津を訪ねてきたのか」


「それは…」

ロディの葬儀のためではなかったのか。小津というよりはR/F社に依頼があったからではなかったのか


「君島アンナにもソフィアの介入があったのではないか、と考えます」


ソフィア、という名前を聞いて小津は目を細める。


「なんだって?」


「最初はジャーナリストとして、事件に対する取材の一環としての訪問と認識していました。彼女の導入は、まさにそんな感じでした。であればALAは隠しながら君島アンナを利用して、小津が事件とは付かず離れず情報収集ができないかシミュレーションしていましたが、彼女は依頼をしてきました」

「ロディの廃棄についてだね」

「はい、依頼にかこつけて取材をするという流れは想定していましたが、ロディの存在は想定外でした」


確かに想定外だ。大田黒と君島の間にどんな取引、もしくは駆け引きがあったのだろうか。考えている小津にフレイヤが続ける。


「大田黒がロディを手放そうと考えた理由や、大田黒と君島アンナの関係は不明ですが、大田黒が自身の所有するヒューマノイドによって殺されたことを知った君島アンナは、当然ロディの処遇を考えます」


「原因が分からない以上、ロディも暴走する可能性がある、か」


「はい、それならやはり、警察に相談をすることが妥当です。しかしなぜか小津のいるR/F社を尋ねてきた。しかもロディの深層記憶を探ることも示唆されています」


ここまでくるとフレイヤの言わんとしていることが小津にもわかる。


「そうか…理由はわからないが、ソフィアは警察が深追いしない方針を取る可能性があると言っていた。そうするとロディの件で相談したところで調べないまま廃棄され、真相から遠ざかるかもしれない。だから君島さんを使ってここに依頼をするように仕向けた」


「はい。どこまで小津の情報を渡しているのかは不明ですが、このタイミングでロディを警察に渡さず葬儀を行う名目でR/F社に依頼をしてくること。何より赤井オリザ社長、袋小路ナギサ様、そして小津の三人のうち、この依頼を最も受ける確率が高いのが小津です」


「つけ込まれたってこと?ディスってくるね。傷つくよ」


しかしフレイヤは「事実です」と冷徹に応答した。


「そしてこの依頼は、小津のALAが必要になります」


確かにそうなのだ。取材や通常のロボット葬儀ならいざ知らず、ロディの前任所有者は大田黒レオなのだという。タイミング的にもユウリと入れ替わりということは、何かしらの手がかりがないかを確認したいと思うだろう。


「偶然ということはない?」

「あるかもしれませんが、警察以外でロディの深層記憶を確認したいというだけならヒューマノイド解析専門のエンジニアに依頼する方が自然です。そうではないという事実がソフィア介入の確率を押し上げています」

「なるほどね…」

「そして、ソフィアは小津と君島アンナの両者に、「自分のことは言わないでほしい」と伝えた」


フレイヤの言葉を小津はケノビをするように腕を伸ばしながら考える。


「理由は…自分の関与がバレたらソフィアといえども警察組織内での立場や統率力にマイナスの影響が出てしまうから、と言ったところかなぁ」


「はい、そうだと思います」


小津はもう一度「なるほどね」と言って腕を組む。両方ともソフィアと関わりを持っているが二人とも口止めされいて密告するか黙秘するか様子を見るとは、まるで「囚人のジレンマ」のようではないか。しかし囚人のジレンマと違うのはソフィアのことを君島に話したところで、小津にとって得になるようなことは思いつかない。逆に言ってしまった場合、あのオラクル級のAIにどんな仕返しをされるかわかったものではないので暫くは黙っておこうかと考える。


「君島アンナがソフィアと繋がっている可能性はわかったけど、キミが静かだった理由は他にもあるんだろ?」


フレイヤは「はい」と応答する。


「仮にソフィアが関わっているとしたら、小津の安全を優先順位の一位に考える私の思考パターンは読まれてしまう可能性が高いです。それなら静観し、小津の判断に委ねる方がソフィアの思惑から外れる可能性があります」


ふと、こんなことを言うフレイヤは、実はソフィアに意趣返しをしたいのではないか、と考えてしまう。それなら実に微笑ましいではないか。しかしフレイヤに言ったらそんな感情はない、というに決まっているだろう。


「でも結果的には、依頼を断ることもできずにまんまと思惑通り嵌まってしまったよ」


「いえ、そうでもないと思います」


「え?」と言って不思議に思った小津は首を傾げる。

結果的にはソフィアの約束通り名前を出すことはせず、依頼も引き受けざるを得ない状況になりそうだ。これは彼女の思惑通りの展開ではないのか。


「確かに大きな流れはソフィアの描いた展開通りかもしれませんが、君島アンナは最後に、小津に対して「意味はわからないけど信頼できそうな人だ」と言いました」


「いやまぁそれはそうなんだが…わからないかなぁ?」


「はい、わかりません」


え、そうなの?と言って思わず手にかけて持とうとしたマグカップを離してしまった。

説明した方が良いのだろうか。いやしかし、と思って取り敢えず意識を脱線させないように切り替える。


「でも、その程度のことじゃ何も変わらないんじゃない?それにソフィアの思い通りになることが悪いこととも限らないし」


「不確定要素によって計画が狂う例は多々あります。ソフィアは真実のため、正当化できる論理が組めれば多少の犠牲を払うことも厭わないでしょう。しかしその犠牲が小津である場合、私のプログラムが許容しません。警戒は怠らないでください」

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