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68話 脱出



「あたしだけの王子様よ!あの人はあたしの事が好きなんだから邪魔しないで!」

「あんたが!あんたがあんたが!あんたなんかが居るから!あんたが邪魔するから!あの人があたしと一緒に居てくれないんだわ!」


 そう言ってアンナは、ギラつくナイフをこちらに突き付けてくる。


「あんたさえ居なくなれば!」


 そう絶叫すると共に、こちらへ突進してくる。「刺される!」と思った瞬間、攻略対象キャラが助けに来てくれて、アンナを返り討ちにする。

 そして攻略対象キャラが、ヒロインを抱きしめるのだ。


 その後のアンナの出番は無い。恐らく、退学になったのだとは思うけれど……。



 アンナさんの今手に持っているナイフは、ラブメモでアンナが持っていた立ち絵のナイフそっくりだった。アンナさん……普段から持っていたんだ……。


 

 遠い意識の中で、そんな事をぼうっと考える。ラブメモの事より、今はこの状況をどうにかすることの方が大切だ。そう思い直し、意識を切替える。


「それがあれば……通れそう?」


「これで格子を外せれば、あたしなら、通れると思います……」


 そう言うアンナさんは何故かモジモジと頬を染めていた。

 

 そうと決まれば3人で手分けして、通気口の周りに置いてある荷物を移動させる。どれほど高価な物か全く判断できないので、なるべく落としたり壊したりしない様に皆で協力して何とかスペースを確保した。



「それじゃあ、わたしがアンナさんを肩車するから、マリーは落ちないように後ろからアンナさんを支えてあげて?」


 ほんの少しではあるけれどマリーよりわたしの方が背が高いので、その方が良いだろうと判断した。そしてアンナさんがいくら軽いと言っても、格子を外すのに力が入ったり、反動があったりするだろうから、落ちないようにマリーに後ろからアシストしてもらう事に。


 ふたりの「わかりました!」の声を合図にわたしが屈み、アンナさんを肩車する為に両足の間に頭を入れ、ゆっくりと立ち上がる。するとアンナさんは「あわわわ……」と消え入りそうな悲鳴を上げながら、プルプルと全身が震えていた。

 もしかしてアンナさん……高い所が苦手とか!?それなのに、この窮地を脱する為に頑張ってくれてるのかな。ピエリック様からわたしを助けてくれた時も、あんなに怖がりで臆病で人見知りなアンナさんが、今もこんなに頑張ってくれている。嬉しさと申し訳なさが入り交じって、思わず目が熱くなる。わたしは今アンナさんを乗せているんだから、ちゃんと集中しなくちゃ!これ以上、危険な目には合わせられない!

 グッ!っとアンナさんの両足を支える手に力が入る。後ろから「気を確かに!大丈夫ですからね!」と言いながらアンナさんの背中を支えてくれているマリーの声がする。それに答えるようにアンナさんは「ひゃい……」と言う力のない返事を返していた。


 しばらくわたしの頭上で、アンナさんがグイグイと格子と格闘しているのが体に伝わってくる。その力に負けない様に転ばない様に、しっかりと下半身に力を入れていると、ガコン!という音と「外れました!」と言うアンナさんの声が響いた。

 外れた格子をアンナさんがそっと下のマリーへ手渡す。


「アンナさんどう?外へ出られそう?」


 わたしがそう声をかけると、アンナさんは少し頭上でモゾモゾしだす。


「もう、少し、上にあげて頂ければ……!」


「それじゃあ上に押し上げるけど、転ばない様に注意してね?」


 わたしは「せーの!」という掛け声と共に、肩車をしていたアンナさんを押し上げる。すると、今まで体に掛かっていた重さが、フッと消えた。


「ん、んんっ!行けました!通れました!」


 どうやら通気口に入り込めたアンナさんから声がかかる。よかった!と思ったのも束の間「きゃあ!」という声と、ドサドサっ!と大きな音が鳴る。


「アンナさん!?大丈夫!?」


 そうか、通気口を通り抜けたとしても、外側に踏み台があるとは限らない。きっとアンナさんはそのまま落ちてしまったのだ。その考えに至った瞬間、サァっと体から血の気が引くのを感じた。


「いたた……大丈夫、大丈夫です!必ず助けを呼んでくるので待っててください!」


 壁の向こうからそう叫ぶアンナさんの声と、遠くへ走り去る小さな足音が聞こえてきた。大きな怪我はしてないようで、一先ずホッとする。


「アンナさん、大丈夫だったかな……」


「心配ですが、戻ってくるまでわたし達は何もできませんね……」


 そう、わたし達には待つことしか出来ない。その事実が焦燥感を駆り立てる。ソワソワと落ち着きなく、同じ場所を往復してしまう。


「エマ、座って待ちましょうか?」


 マリーがニコリと微笑み、自分の隣に座るよう促す。

 

「そう、そうだね……うん、そうする」


 わたしはまだ落ち着きを取り戻せないまま、マリーの隣へ腰を下ろす。こんなにソワソワしていても、わたしに何が出来るかなんて思いつかないんだけれど……それでも焦らずには居られない。


 マリーとぽつりぽつりと会話をしながら、アンナさんを待つ。たわいもない話だけれど、なんだか心は少し落ち着いてきた。


 


 


 


明日も投稿します!

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