42 学園祭
学園は現在、普段とは全く違う賑わいを見せている。
一番大きな庭にはテラス席が多く設けられ、その周りを固めるように屋台のようなテントが張られている。
その光景は日本の文化祭とそう変わらない。
違うものといえば、人々が身につけている服装ぐらいか。この世界にポロシャツやTシャツのようなラフな服は存在しない。
生徒は堅っ苦しくも制服を着ているし、客たちも基本礼服である。
日本のお嬢様学校の文化祭もこんな感じなのだろうか。ドレスコードとかありそうだし。
そんな賑やかな光景を、私は正面の校舎から眺めていた。
隣にはエレナーレとヴェラがいる。
「ロクサーナは学園祭初めてよね」
「はい。エレナーレ様は来たことあるんでしたっけ」
「ええ。ブラスお兄様が在学していた時に一度だけ」
長兄ということはだいぶ前か?
確か8個ぐらい離れていたはずだが。
当時の楽しかったことを思い出しているのか、窓の外を眺めながらふんわり微笑むエレナーレに見惚れていると、背後に人の気配を感じた。
「お待たせしたかしら」
そう言いながらやってきたのは、ヘンダーソン侯爵令嬢とその取り巻き2名。いずれも派閥発足の時の話し合いで見た顔である。よく一緒にいるから仲がいいのだろう。
その問いかけにエレナーレが答える。
「いえ、私たちも今到着したところですよ」
「ならよかったわ。そうそうロクサーナさん、聞きましてよ。ポーションサロンでの研究成果、好評のようね」
扇を広げて目を細める先輩の言葉に、薄く苦笑いをこぼす。
「あはは……、少し大袈裟な気もしますが」
例のポーションサロンでの研究は、学園祭での発表までがセットであったため、研究発表は人の少ない朝一に回してもらい、トンズラしてきたのだ。
数時間前の話なのにここまで噂が回って来るとは、恐ろしい世界である。
今回私が発表した研究内容は、1ヶ月ほど前まで薬草とポーションを好き勝手いじっていた記録の統計と、過去の先輩たちの研究成果をまとめたものである。
簡単に言えば、ポーション作成時の環境を一定の魔力下で行う研究について推論したものだ。
世界中で行われているポーション研究の大目標は、ダンジョン産のポーションにいかに性能を近付けるかである。
つまりその内容をこれまでの研究者たちが思いつかないわけもなく、擦られ続けてきた研究だった。
ということで、まとめただけなのだが……。
「ふふふっ。私も読みましたが、あれを偶然実現してしまったところが貴女らしいと思いましたわ」
エレナーレが言っているのは『一定の魔力量』の部分だろう。
魔力操作が得意でないとできない芸当だ。
故に理論上は可能でも実現が難しかった。
それを私は偶然実現できてしまったので、過去の研究をひっくり返してまとめたというわけだ。
そして多分ここまで好評なのは、誰でもできるように感覚的な操作を理論的に書いた所なのだろう。
そして最後の一言。
この研究の先駆者たちも同じ結論に至っていた『ある一文』を添えた。
「高レベルのダンジョン内で作れば、高品質なポーションを作ることが可能だろう、でしたっけ?」
そう。
ギルドがモンダールダンジョンで行っている研究に繋げておいたのだ。
モンダールではギルドが5階層に小屋を建てポーション作成のラインを作っている。
実際何度か覗いたことがあるが、さながら工場のようだった。
まぁ、一般人には都市伝説的に噂されているレベルなので、諸々の事情を知っているエレナーレからしたらグレーゾーンなのだろう。
ちょっとしたジト目を頂いてしまっている。
ハーバードとは大丈夫じゃないかという結論に至ったのだが。
まぁ、噂は昔からあるものだし、この文面については変に踏み込まれたりはしないだろう。
「しかしあの研究内容は、ポーション分野にとどまらないと思いますわ」
そう少し深刻そうに言うのは魔法が得意なヴェラ・エルヴェステイン伯爵令嬢。
つい先ほど、ものは試しにと、私の研究の中にあった魔力操作の理論を使って魔法を使ってみたのだ。
するとどうだろう。
魔力効率がぐんと上がったではないか。
と言うことがあったのだ。
「魔法理論の研究者に見つかると面倒なことになりますかね……」
魔力操作についての研究もあるにはあるのだが、結局は感覚的なことになるので、そこまで深い研究はされていない分野なのだ。
そこに喧嘩を売ってしまったわけだ。
「アルベニウス教授に任せておけば大丈夫よ」
そう楽観的にいうのは、教授の授業を受けたことがあるヘンダーソン先輩。
まぁ、そういうことにしておこう。
我々は揃って思考を放棄し、大講堂へ向かうのだった。
この学園祭にも大規模な出し物がある。
大講堂の舞台を使い、演奏サロンによるオーケストラ、演劇サロンによる演劇、オペラサロンによるオペラ公演などなど。
プログラムは分単位できっちりと決まっているので、興味がある分野だけ大講堂に行き鑑賞するシステムになっている。
もちろんお金は取られる。これだけでもまあまあな収益だろう。
私たちが観に来たのは、演奏サロンによるオーケストラである。
クオリティも高いので毎年人気の演目らしい。
時間も丁度良かったので、待ち合わせして観に来たのだ。
大講堂にやってくるのは、暇をしている生徒や出演する生徒の保護者、そしてスカウト目的でやってきている関係者である。
取り分け、魔術サロンと剣術サロンにより行われる披露講演はスカウト目的の人間が多いようで、外の出し物をもそうだが、この学園祭は生徒の将来を左右する一大イベントとなっている。
まぁ、オーケストラの後にあった魔術と剣術の演目には興味がないので、ヴェラ一人を残して我々は出てきたのだが。
楽屋として使われている区画の廊下の脇では、名刺を何枚もらったか嬉しそうに話し合っている男子生徒たちがいた。
それを横目に、中庭に出る。
「では、ごきげんよう」
そう言ってヘンダーソン先輩は取り巻きと共に寮の方に戻って行った。
この学園祭、Sクラスの人間は基本暇なのだ。
このあとは寮で優雅にお茶会でもするのだろう。
一緒にいると他派閥から嫌がらせをされないので、たまにわざとくっついてくれている優しい先輩である。
「この後どうしますか?」
「表の出し物を回ってみたいわ」
「ふふっ、なら行きましょう」
手を差し出すと、嬉しそうに握ってくる。
大変可愛らしい。
最近忙しくてエレナーレとデートができていないとは思っていたので、いいタイミングである。
その後1時間ほど、エレナーレの関心の赴くまま出し物を回った。
食べ物系が多いだろうか。
残りは工芸品の販売だったり、魔道具の製作体験なんていうのもあった。
魔道具の製作体験はエレナーレも気になっていたようでやってみたのだが、どうやら物足りなかったようだ。
そりゃ、私も何度か教えたことあるから学生の体験コーナーでは物足りないだろう。
膨れた顔は可愛いが、理不尽に不機ハラされた学生が可哀想なので、どうにかフォローしておく。
そんなことがあり飲み物片手にテラスでのんびり話していると、声が掛かった。
「あれ?バートンじゃないか」
そう声をかけてきたのは、剣を携えたエトだった。
平穏に楽しむためにこっそり隠密スキルを使っていたので、見つけられたことに心から驚く。
え、……は?
もしかしてエト、察知スキルが生えた?
最後にダンジョンに潜った時にはそんな兆しはなかったのだが……。
……、もしかして、私を探してたから、とか?
「……マジか」
「?なんか言ったか?」
「あー、いや。なんでもない、です」
「?」
めちゃくちゃ複雑な気持ちである。
察知スキルは持っているだけで冒険者として勝ち組である。
そんなスキルを、今までの血の滲むような命がけの戦闘の中でではなく、隠密をうっすら使った私を探し当てる過程で獲得してしまうとは。
申し訳ないというかなんというか。
「ロクサーナ」
「……分かってますよ」
ここ最近、エトの健気さに絆されそうになっている自分がいる。
これはまずい傾向である。
本当にやめてほしい。
私の腕は2本しかないのだ。
すでに王太子とエレナーレで埋まってしまっている。
あー、いや、なんかそう言うと頭おかしい奴みたいだな。
二股に、なるのだろうか?
私はクズ女だった?
「なあ、冒険者サロンに来ないか?今なら空いてるぞ」
「あー……」
興味はあるがエレナーレもいるし、と考え言い淀んでいると後ろから服がクイッと引かれた。
「行きましょう?」
「いいんですか?」
「あら、私も興味があるわ」
「そうですか……」
それは分かるのだが、私がいつもエレナーレに聞かせている冒険話はかなり綺麗めに脚色している。冒険者は上澄でなければかなり泥臭い根気のいる職業なのだ。
そんなサロンに侯爵令嬢を連れて行っていいものか。
まぁ、本人が行きたいのなら断る必要もないか。
そうしてやってきた冒険者サロン。
普段使っている教室の半分ぐらいの大きさの部屋であった。
空いているとはいえ、それでも人はいる。
皆、エレナーレを見てギョッと身を固めていた。
そりゃ武闘派のエレナーレとはいえ、冒険者とは程遠い上位のお貴族様である。
視線が刺さる中、気にした様子もなく歩みを進めるエレナーレに付いて歩く。
掲示物はポスターだったり、ダンジョンから出てきた武器だったり。
冒険者へのインタビューなんかもあるな。
冒険者に興味がある人ならそれなりに楽しめそうである。
「あら、これ……」
そう言って立ち止まったエレナーレが見つめる先には、ポスターが一枚。
それをみてゲッと心の中で呟く。
「お、これはティレイナ・アルミニウスのですよ。あいつ、ロキのファンクラブに入ってますから」
マジか。
ポスターの内容は、ロキの今までの行動をまとめたものだった。
いつ冒険者を初めて、いつランクを上げたなんかを時系列として書いている。ギルドと揉めた時期もきっちり書かれていた。
そんなこともあったなーと感心する。
「性格が出ますね……」
細かすぎではなかろうか。
もしかして、冒険新聞全号さらっているのでは。
「それに、ハーバード先生がいるから色々聞いてるみたいです。ほら、これなんかも、冒険者新聞に載ってなかったらしい」
そこに書かれていたのはハーバードたちとモンダールダンジョンに潜った時の失敗談が書かれていた。
ハーバード達と揃って落とし穴に落ちた時の話だな。
本当にやめてほしい。
プライバシーとかないんか?この世界。
反応が気になりチラリとエレナーレを見ると、ふふふとおかしそうに笑っていた。
まぁ、エレナーレが笑ってくれるならそれでいいのだが……。
「お、噂をすれば」
そんな言葉に振り向くと、ティレイナが出店の食料を買い込んだ状態で帰ってきた。
そして、私の横にいるエレナーレの顔を見るや否や、目をこれでもかと見開いてその成果物から分かりやすく手を離した。
それをどうにかギリギリでキャッチするエト。
距離もあったのに素晴らしい反応速度である。
「おい、俺の金で買ったんだから落とすなよ……」
「エ、エレナーレ様ぁッッ」
エトの言葉はティレイナの叫びによって掻き消される。
ティレイナは何かに感激したように口元を手で押さえていた。
周りの人も、その大きな声になんだなんだと再び視線をこちらに向けてくる。
その反応に心当たりのない私とエトは首を傾げ、エレナーレは分かりやすく苦笑いしている。
どうやら見当はついているらしい。
そしてティレイナはエレナーレの元に駆け寄り、スライディングでその足元に両膝をつき、指を組んだ状態でエレナーレを見上げた。
さながら崇高する神に遭遇した信者である。
「お初にお目にかかりますッ。冒険者サロン所属、Aクラスのティレイナ・アルミニウスと申しますぅぅッ」
「ええ、初めまして。エレナーレ・アスティアよ。よろしくね」
「はうっ、眩しい……」
笑顔にノックアウトされたらしいティレイナは、大袈裟に項垂れた。
既視感のある光景である。
「あー、そっか。アスティア様ってロキの彼女か」
「あー、なるほど。そういう……」
推しの彼女なら推しも同然ということか。
リアコではないようで安心である。
たまにいるからなぁ、付き合ってほしいって擦り寄ってくる女性。
それを思い出して思わず苦い表情になる。
「ロキのこと、よくまとめていますね」
「いえいえッ、大部分はファンクラブからの引用なので、私のオリジナルは、先生からのタレコミぐらいでッ」
「なるほどね」
そういうことだったらしい。
ファンクラブ、恐ろしや。
「私には聞きに来なかったのね」
「ッッ、エレナーレ様への過度な接触は、ファンクラブの規定に反しますので……」
「あら、そうなの?」
私は初耳だが、反応的にエレナーレは知っていたようだ。
今の所、一定の民度は保たれているらしい。
暴走するのは一部だけか。
「ふふっ、あなたの研究でロキの失敗談を知れて良かったわ。あの人、いつも綺麗な話しか話してくれないもの」
ばれてーら。
「今のロキを形作っているのは、そのたくさんの小さな失敗だと言うのにね。本当に、格好つけなんだから」
うおーい。
本人ここにいますがぁー?
アンニュイなエレナーレも綺麗だが、身の置きどころがなくなるのでやめていただいてよろしいか?
「まぁ、そんな所が良いのだけれど」
あーーーーっ、いけませんいけません。
そんなセリフ、そんな顔して言わないでッ。
エレナーレの呟きを正面から受けたティレイナも赤面である。
さてはわざとだな。
普段そんなこと言わないのに。
「あら、ごめんなさい。変な空気にしてしまったわね。私はこの後用事もあるし、これでお暇させていただくわね。ロクサーナはまだ残っていて良いわよ」
そう早口で言い残し教室を後にする。
すれ違いざまにその小さな耳がほんのり赤く染まっているのを見て、思わずグッと来て思考が止まる。
言い逃げかよッ。
そう思いながら赤面して視線を逸らしていると、エトが覗き込んできた。
「大丈夫か?バートン。顔が赤いぞ?」
「大丈夫です……」
今度覚えてろよ。
そんなことを心の中で叫びながら、ずり落ちかけた眼鏡を指で押し上げる。
深呼吸をしてどうにか気持ちを落ち着かせるのだった。
***
学園祭には多くの部外者がやってくる。
スカウト目的の企業の人間だったり、近所の人だったり。
一応入場する時に身分証と招待状はいるのだが、逆にそれさえあれば普段は関係者しか立ち入れない場所に入れることになる。
そのためSクラスは出し物はないし、学園祭に出席する義務はない。
王族や公爵家に限っていえば、何があっても怖いのでタウンハウスに帰るように言われている。
つまり、今日は王太子はいないし、リーゼロッテもいない。
学園祭は2日にわたって行われる。
ポーションサロンの研究発表は終わったし、ある程度エレナーレと回れたので、明日は1日オフにして、塔のダンジョンでも潜ろうかと考えながら、私は寮に戻るため、ティレイナと共に夕日のさす廊下を歩いていた。
エレナーレが立ち去った後のダンジョンサロンでは、ティレイナがエトのお金で買い込んできた食事をお裾分けしてもらった。
ちょうど帰ってきた他のサロンメンバーとも話したのだが、みんな冒険者資格を持っているようで、ノリが何ともここの学生らしくない。貴族家出身者もいたが、完全に下町に毒されていた。
あれだとクラスで相当浮いているのではなかろうか。
「ティレイナさん、付き合わせてしまってごめんなさい」
「かまいませんよ。そう大した距離でもありませんし」
ティレイナには護衛として私を寮まで送り届けてもらっている。
大丈夫だと言ったのだが、エトが首を縦に降らなかったので諦めて送られているのだ。
日に日に過保護になって行っている気がするのは気のせいだろうか。
しかし知り合って1週間ぐらいの女の子との会話は難しい。
どうしても気まずい時間が流れてしまう。
共通の話題、共通の話題……。
「その……、ロキのファンクラブがあるなんて、最近知ったんですが、ティレイナさんは入って長いんですか?」
結局はロキの話題になってしまった。
余計に身の置き場がなくなる。
「私は入ってまだ2年ぐらいですね。最古参で4年でしょうか。夏の公式戦以降加入する人も増えているらしいですよ。王都に事務所があって会員証が発行されるんです。紹介しましょうか?」
「あ、いや、遠慮しておきます……」
「そうですか。エトも言ってましたけど、バートン領のご令嬢なのに、興味ないなんて不思議ですね」
その言葉に曖昧な笑みで返す。
本人だからな。
自分のファンクラブに入るとか、カモフラージュのためとはいえメンタル的に無理すぎる。
「エレナーレ様ともお友達なのに……」
分かりやすく「いいなー」と顔に書いてある。
確かに、エレナーレが友人ならロキについて聞き放題か。
ーーそんなことを話しながら最後の角を曲がろうとした時のことである。
角から音もなく人影が現れた。
シャツを着た人相の悪い男が2人。
目からはそこはかとなく怪しい光を放っている。
まるで私たちを待ち伏せしていたかのように立ち塞がっているのを見て、ティレイナが警戒して私の前に立った。
殺意は感じないが、害意はこちらを向いている。
何かをするつもりで待ち伏せていたのだろう。
「何者ですか。道を開けてください」
「お前に用はない。後ろの女を渡せ」
明らかに今までと嫌がらせの質が違う。
この男たちは学園の人間ではない。
誰かに雇われたのだろうか。
「誰が」
ティレイナはそう言っていきなり男に飛びかかり、拳を振り上げた。
その素早い動きに、男は虚をつかれたように後ずさりその攻撃を避けた。
そういえば体術が得意なんだよな、この子。
「チッ、これだから学園生は面倒なんだ」
動ける生徒が混じってるからな。
ティレイナが諦めずもう一撃喰らわせようとしたところで、私の背後から音もなく歩み寄る2名の気配を感じた。
なるほど、挟み撃ちか。抵抗したとしても多勢に無勢である。
その男たちに私は後ろ手を取られた。
もちろん無抵抗である。
「ティレイナさん」
「ッッ」
呼びかけに振り向いたティレイナは、私が拘束されていることにやっと気づいたらしい。
こう言う時は諦めるに限る。
殺意がないので死ぬことはないだろう。
私は、だが。
「ーーあなた方の目的は?」
淡々とした私の言葉に、男は意外そうに片眉をあげながら口を開いた。
「お前の誘拐だな」
セキュリティが緩んだ弊害か。
今までは未然に防がれていたのだろう。
その事実にため息をつく。
「そうですか。応じましょう。その代わりティレイナさんに危害を加えないでください」
男たちは殺すことに抵抗はなさそうな空気感を放っている。
裏の人間か、それに近い仕事をしている男たちだ。
私を殺すつもりはなくても、ティレイナが抵抗すればあっさり殺してしまうかもしれない。
「さぁ、それはどうかな」
「ーーッ」
男がニヤリと笑った瞬間、後ろから伸びてきた手に強く口を塞がれた。
布で覆われ言葉を発せない状態となる。
それを見て咄嗟に駆け寄ろうとするティレイナ。
いやいや、この人数を君が退けるのは無理なんだから、大人しくしていてくれ。
その背後から、ナイフを突き刺そうとする別の男を見て、水魔法を放つ。
柄に命中し、手から離れたナイフは宙を舞ったが、男は慌てることなく手刀を作り、そのままティレイナの首に落とした。
なるほど、私が魔法で抵抗するのも織り込み済みか。
意識を失い地面に倒れ込むティレイナ。
その惨状を見て、やっぱり一人で帰った方が良かったかと後悔する。
そんなことを考えていると、ふいにピィーーンと耳鳴りが響き、意識が遠のく感覚がした。
力が抜けぐらつく体をどうにか支えながら、焦点を定めていると、気付けば男が一人目の前に立っていた。
「やっと効いてきたか」
冷たい視線と共に発したその言葉で、この口を覆う布に仕込みがされていることを察する。
なるほど、少量の薬なら私にも効いてしまうのか。
大量の薬なら毒と判断されて浄化されるんだけどな。
そんな考察を呑気にしながら、私は諦めて意識を手放した。




