~Before the chapter1~
「………申し開きを…とは言わんが、せめて説明くらいはしてもらおうか…」
闇の中から声が響く。
「…いえ、あの…自分たちもあまり現状を把握していないというか…」
「知っている範囲でいい。何も知らないということはあるまい」
「は、はいっ!」
地べたに片膝をついて受け答えしているのは、大きな耳と鼻をもつ人のような者。
またその隣には、一つ目の巨人が同じように片膝をついて俯いている。
彼らは先ほどからガタガタと震えており、その額には冷や汗のようなものが浮かんでいる。
「わ、私はゴブリン。この者はサイクロプスと名乗っております…。またもう一人、オーガという者がおりましたが、今は行方不明です………」
「ふむ………で、だ」
「「‼」」
ひざまずく二人の体がビクンッと跳ね上がる。
明かに彼らはその暗闇の奥にいる存在に対して恐怖の念を抱いていた。
それはおそらく、自分たちへ与えられるであろう罰への恐怖か。
「私が留守にしていた間に何があったのか…話してもらうぞ」
「はい…」
ゴブリンは観念したように話し始めた。
「………彼らと各個戦うことでご命令通り、目標を一時的に生け捕りにすることが出来ました。しかし、目標とともにいたオーガがあれから行方知れずです…。彼に何があったかは、我々にも分かりません…」
「…ふむ…」
暗闇の奥で何かが動く。
確かにそこには、強大な何かがいた。
「………彼の価値は知られていないと思ったがな………」
そうぼそりと呟くと、その何かは暗闇より出でる。
「え…?」
「な、なんと…」
歩み寄って来るその気配に、これまで無言だったサイクロプスさえも驚きの声を漏らす。
それはその何かが、自分たちの目の前にやって来ていることに対する驚き。
しかもそれは、内在する恐怖をはるかに上回る喜びから成っていた。
下される罰に対する恐怖よりも、数メートルの距離まで近づけたことが、彼らの中で遥かに勝る。
それほどまでに彼らにとって、その『何か』の存在は大きいものだった。
「お前たちの処遇については後程伝える。それまでは待機しておくように」
「は、はいっ!」
「いつまでもお待ちしておきます‼」
「よし、下がって良いぞ」
「「ははぁっ‼」」
先ほどまでとは大違いで、その表情には笑顔さえ見られる。
ゴブリンたちは、このあと自分たちの処遇が決められることも忘れたかのように、元気よくその場をあとにしていく。
そしてそれと入れ違うように、一つの人影がやって来た。
「新入りか………だが、お前の出番はすぐに来る。もう少し待っていてくれ」
「………了解した」
浮かべる笑みと共に、ふと風が吹いた。
そして。
また別の場所でも。
開けた車の窓から、良い風が流れ込む。
「…ほら、着いたよ…」
「……………」
新たな物語が幕を開けようとしていた。
「ここが…お前の生まれた町なんだ…」
「………そう…」
出会い、そして別れ。
「…だから、仕事のことは忘れて、ここでゆっくりしよう…な?」
「………うん…」
日常と非日常。
「町の名前、憶えているか?」
「うん。ここが…………竹前町…」
それらは新しい風。
まさに新風である。




