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聖剣~プロローグ~  作者: 霜月音闇
20/20

夢を見たあとで

「飢餓、飢餓か」

 小さく呟いてから、ジョーカーは肩を震わせて笑う。

「誰が餓えている? この世界で、誰が平和を欲しがる?」

 その問いにJは真っ直ぐ答えた。

「少なくとも、彼女はそれを欲しがっていたぞ」

 途端にジョーカーの顔が険しくなる。

「欲しがったが、望んじゃいない。やはりお前とは、話すだけ無駄だな」

 そう言うとジョーカーは踵を返し、Jに背を向けた。

「俺はひっくり返す。止めてみな」

「あぁ、今、ここで……」

 剣に伸ばした手をスフィアが掴んで止める。

「冷静になれ、J。勝てる見込みは薄氷より薄い」

「…………」

 二人が押し黙る中、ジョーカーたちは悠々とその場を後にした。

ジョーカー達の影すら見えなくなった後、Jは重い口を開いた。

「お前、スカルか」

 そうスフィアに問うとスフィアは不敵に笑った。

「死にそびれたってわけじゃないが、剣を介して俺の魂がこっちに入っちまったらしい。まぁ、仕方のないことだ」

「いいのか、お前は」

「まぁ、いいさ。スフィアには悪いが、暫く居候させてもらうよ」

「そういう意味じゃ……」

 そこまで言ったところでスフィアが言葉を制止した。

「物語の先が読めるんだ。結末まで見れなくても先が読めるのなら生きる価値はあると思うが……っと、そろそろお姫様がお目覚めだ」

「スカル」

 寂しそうに言うJにスフィアは笑いかける。

「生きろ。どんな答えも、その先にある。またな」

 そういうとスフィアの体から力が抜け、膝を落として荒い息を突き出した。

「はぁ、はぁ、はぁ、……此処は?」

 周りに広がる荒野を見渡し、スフィアは力なくJに聞いた。

「ここは、ラジアだ」





 高野の真ん中で、三人と一人が向かい合う。

「行くのか?」

 Jがそう聞くとスフィアは笑顔で答えた。

「瓦礫も何もない街じゃ、英雄は出来ないからな」

「あたしたちとくればいいじゃーん。楽しいよ~、ほら、夜とかさぁ」

 包帯だらけのヴェルガがニヤニヤしながら手をこまねく。

「お前は黙ってろよ、重傷人」

 ソリッドはそういうとヴェルガを反対側に向かせる。

「スフィア」

 Jが口を開く。

「お前の体は死んでいる。スカルの聖剣の力で魂を定着させているだけに過ぎない。肉体は腐るが、剣がある限り滅びることはない。それでも、一人で行くか?」

 神妙なその言葉にスフィアは言葉なくうなづく。

「そうか、死にたくなったらいつでも俺のところに来い。俺の剣なら、スカルの剣を折れる」

「あぁ、死にたくなったら、いつでも行くよ。それまで、世界を旅でもしようかな。私は世界を知らな過ぎる」

 そう言って笑うとスフィアはJ達に背を向けた。

(どんな世界が待っているんだろう)

 今まで生きてきたこの世界から出る不安とドキドキでスフィアの表情は自然とほころんでいた。

 二本の聖剣を腰にさし、一人の英雄は外の世界へと歩み出していった。

 どんな未来が待っていても。






「さて、俺たちも行くか」

 スフィアを見送り、Jは二人に声をかける。

「おう」

「はーい」

 Jは荷物を手にし、ソリッドは腹に穴のあいた重傷人であるヴェルガの乗った椅子を担いだ。

「はすはす」

「?」

「ヴェルガ? お前何嗅いでるんだ?」

 ソリッドがそう聞くとヴェルガは嗅いでいたものから顔を離し、広げた。

 白い……パンツ……。

「記念に一枚、ね」

 それを見て、Jは小さく笑った。

「咄嗟に嘘を付けるか。まぁ、こっちのことも教えなかったし、イーブンだな」






 吹き荒ぶ荒野の風の中、スフィアはノーパンの割には堂々とした歩みで、未来に向かっていった。




Fin

プロローグ1はここで終了です。

プロローグ2は続きかなぁ?


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