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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱 灰


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両親への報告

視点:ベルタ


十分の一税、今年の貢納、去年の未払い、塩の購入、すべてが達成できたベルタが両親に報告しに行きます。

夏の騒がしさが、ようやくずっと遠くへ消えていった。

村を吹き抜ける風には、草木の匂いだけでなく、なんだかひんやりとした秋の気配が混じり始めている。あの泥臭い騙し合いと、怒る声と、汗の匂いに満ちていた広場での十分の一税のことも、そしてあの不思議な歯を使ってがんばった籾とりの日々も、すべてが無事に終わったのだ。


わたしの納屋にはいま、おにいさんが作ってくれた籾をとる歯のおかげで、とっても綺麗に外された麦の山が、こんもりと積み上げられている。虫食いもなく、ごみも混じっていない、麦だけでできた誇らしい山だ。


「ベルタ、行きますよ」


おにいさんが納屋の扉を軽く叩いて、わたしを呼んだ。

その手には、使い慣れた鎌や、きれいに束ねられた小枝がしっかりと握られている。

行き先は、わたしのお父さんとお母さんが眠るお墓だった。


わたしたちは並んで、お墓に向かって歩き始めた。

とはいってもお庭の端にあるからそう歩くこともない。わたしは自然と胸を張り、誇らしい気持ちでお墓に向かっていた。


今年の収穫は、今までにないほど大成功だった。おにいさんが作ってくれたあの大きな籠付きの大鎌で、広い畑の麦をあっという間に刈り取り、助祭様を前にしてわたしが数をかぞえながら正確に十分の一税を納めたのだ。

そして去年納めるのに足りなかった分だって全部納めることができた。代官様のところへ行ったおにいさんは、今年の分の麦、去年足りなかった分の麦を納めた上で、塩も買ってきてくれた。

白い、さらさらとした塩の詰まった箱の重みが、納屋のすみにしまわれている。それを思い出すだけで、頬がゆるんでしまう。


お父さん、お母さん。わたし頑張ったんだよ。


心の中でそうつぶやきながらお墓を見ると、春や夏の間すっかり放っておいたせいで、すさまじいことになっていた。


「わぁ……すごいことになってる」


わたしは思わず足を止めて声を上げた。

お墓の石碑の周りには、びっしりと草が生い茂り、特に背の高い雑草が一際目を引く。よく見れば、それは今年、おにいさんがお墓まわりに植えてくれた亜麻と、大麻だった。

夏になれば花が咲いくと言っていたっけ。


その言葉通り、亜麻の小さな苗からは信じられないほど鮮やかな青い花が咲いたのだ。朝の光を浴びた亜麻の花は、まるで空から落ちてきた欠片みたいに青く透き通っていて、風が吹くたびに揺れる様子があまりにも美しかったのをよく覚えている。おにいさんと一緒に「きれいだね」と眺めたっけ。


亜麻はとてもきれいな花だったが、少し離して植えられていた大麻の方は、青い花どころか、気がつけばわたしの背丈を遥かに追い越し、おにいさんの背すらも超えて、やたらと背が高くなっていた。夏の強い陽射しを浴びて、ぐんぐん、ぐんぐん空に向かって伸びていき、葉っぱを広げて緑の壁を作っていたのだ。

信じられないくらい背が高いので村はずれにあるわたしの家を見た時、いつでもお父さんとお母さんがどこにいるのか分かったくらいだった。


「大きくなりすぎじゃない?」


とわたしが首を傾げると、おにいさんは丈夫な茎になりますからと少しだけ笑っていたっけ。


その、夏の間中ずっと太陽を吸い込んで大きく育ちすぎた大麻や、青い花を散らしてすっかり役割を終えた亜麻の茎たちは、今すっかり枯れ果て、茶色く乾いたカサカサの姿になってお墓の周りを覆い尽くしていた。


「きれいにしましょう」


おにいさんは穏やかな声でそう言うと、お墓の周りに腰を下ろし、持ってきた道具を構えた。

そして、乾燥して硬くなった亜麻と大麻の枯れ茎を、手際よく根元からザクザクと刈り取り始めた。邪魔な枯れ草が取り払われていくにつれて、風通しが良くなり、お墓の周りがパッと明るくなっていく。

いや、思ったより黒いな。

おにいさんに聞くと夏の間に何度か炭の粉をかけていたらしい。炭の匂いで動物がお墓を掘り返さないということだ。わたしはそんなことも何も知らなかった。


じっとしていられず、おにいさんの真似をして、刈り取り集められた太い茎を束ねて端っこに積み上げたりして手伝った。大麻の茎は思ったよりも頑丈で、草というか棒の様だった。しっかりしていて驚かされる。これをどうやっておにいさんが使うのか、少し気になるところだ。


おにいさんが綺麗に草を刈り取ってくれるのを横で見ながら、わたしはそっと、一番きれいに実った麦の穂を数本、ポケットから取り出した。納屋の山から、お父さんとお母さんにおすそ分けしたくて、こっそり持ってきたものだ。


綺麗になったお墓の前に、その黄金色の麦の穂をそっと供える。

そして、わたしは両手を合わせた。


お父さん、お母さん、聞いて。

今年の収穫は本当にすごかったの。おにいさんが作ってくれたすごい道具たちのおかげで、畑仕事も脱穀も、村の誰よりも早く、完璧に終わらせることができたんだよ。

十分の一税もね、ごまかしたりなんかしないで、ちゃんと正確に収めたよ。去年払えなかった分だって全部まとめて払えたんだよ。助祭様も、わたしたちの麦を見てすごく感心していたの。「敬虔で聡い子どもだ」って褒められたんだよ。むふふ、ちょっと誇らしかったな。


それにね、全部納められたから、代官様のところで塩だって買えたの。これでおいしいスープがもっともっと作れるからね。安心して。

今年採れたこの麦の穂も、お供えしておくね。


心の中でそう語りかけてから、わたしは主にお祈りした。

ちょうどその時、丘の上を秋の澄んだ風がふわりと吹き抜けた。

それは冷たかったけれど、どこか心地よくて、まるでお父さんとお母さんが、頑張ったわたしの頭を優しくなでてくれているような気がした。供えられた麦の穂が、秋風に揺れてサラサラと優しい音を立てる。


「おにいさん、すっきりしたね」


作業を終えて顔を上げると、おにいさんは刈り取った亜麻と大麻の枯れ草をきれいに一箇所にまとめ、額の汗を手の甲で拭いながら、満足そうにうなずいていた。

お墓の周りには草一本なくなり、あたたかな秋の陽射しが、綺麗になったお墓と供えられた麦の穂、そしてわたしたちを優しく包み込んでいる。


わたしは、今年もちゃんと生きている。

十分に収穫して、税を納めて、しっかりと冬への準備を進めている。

去年のことを思えば奇跡みたいな現実をかみしめながら、わたしはふと隣に立つおにいさんの服の裾をキュッと掴んだ。


「帰ったら、お塩を少し舐めてみたい」


わたしがそう言うと、おにいさんは少しだけ目を丸くして、それからふっと柔らかく微笑んだ。


「そうですね。少しだけ、舐めてみましょうか」


わたしたちは青空の下、綺麗になった両親のお墓に最後に十字を切って、あたたかな家路へと歩き出したのだった。

おにいさんの服の裾をつかみながら、奇跡は手放さないと、わたしは心の中でお父さんとお母さんにそう伝えた。

次回、豚との闘い

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