第32部
藤堂夫人と欧井戸縫子の姉妹の所有する海辺の別荘において
欧井戸との子の水着は大人の小柄な女性用で白のビキニ(外国製のブランド物)
ジュノはポケットからなにやら女性の水着写真をガサゴソ雑誌のページを破いた物を取り出すと目がキラリと光り真っ赤なワンピース水着に着てる服がいきなり変わった。
藤堂は着ている上をいきなり全部脱いで半裸になると、履いているジーパンをハサミでジョキジョキ膝下を切り始め、半ズボンにしてしまった「俺はこれでいいよ」靴も脱いで裸足になるのを見て「そのジーパン高かったんじゃないの?」ととの子が眉をひそめる……のぶ美はママの中学生時代の水着……黄色に水玉のワンピース水着
最高の青空でビーチ日和であるが、のぶ美の顔は浮かない。
目の前に藤堂君がいるのに……
ーーのぶ美の脳裏に一昨日の記憶が浮かぶーー
一昨日、ファミリーレストランの外食から帰るなり
ママにいきなり言われた。「との子ちゃんからママにメールが来たのだけど、あなたとジュノちゃんを別荘に呼んで下さってるわ。スクール水着以外の水着と数日分の着替えを持って自宅で待っててくれって」
のぶ美はスクール水着以外の水着を持ってない。ママが買ってくれないのだ。
「ママ、私、もってないけど……」「そういえば持ってないわね、のぶ美は」
ーーあんたが買ってくれないせいだろうがっーー
「ママの若い頃の水着を出しといたからそれを使いなさい。あなたのお部屋に置いてあるわよ」
ーーひいっ!ーー
のぶ美の部屋に行くと、黄色に白の水玉のかわいい水着があったが、少しあちこち生地が傷んでいる。
着てみると、運悪くちょうどぴったりだった。
「じゃあ、それでいいわね。着替えをカバンかリュックに詰めときなさい。
明日朝8時に迎えに来るそうよ」
ママはジュノに言う「ジュノちゃんはスク水以外の水着を持ってるかしら?」
「はい、持ってますよ」「よかったわ♪」
「さあ、さっさとラブレター書けよ」と言われて、『ラブレター添削』が開始される。との子がまた横で爆笑している。ジュノもくすくす笑っている。
藤堂君の出したバインダーには、信じられないことに、のぶ美がこれまで藤堂君に出したラブレター18通が保存されていた。「ありえないよー」のぶ美は涙目で黒ボールペンを持って、藤堂君が渡した便箋にラブレターを清書している。
「おまえのラブレターは字は汚い、漢字が間違ってる、やたら平仮名が多い、の三点において中学生のレベルじゃねえっ。おれが赤ペンいれてやるから、おれが気に入るラブレター書くまでそこで書き直せっ!」
底が抜けるほど晴れた青空に真夏の太陽が輝き白い砂浜が輝いている。
ジュノととの子は遊びに行ってしまった。お昼には料理の上手なとの子が帰ってくるが、それまで別荘に藤堂君と二人っきりである。だのにのぶ美は涙目。
「いや~~んっ!!……とほほほほ」
ーーとうどうくん、はじめて巣型を視たとき、わたしはどきっとしました。今でもとうどうくんの巣型を視るたびにどきどきします。だいだいだいすきです。よかったらおつきあいおねがいできませんかーー昨日から、この文章を50回は書き直しした。
この文章のどこが悪いのか分からないのぶ美は、ーーもう勘弁してよーー!!と半泣きであるーー藤堂君も苦笑して実は頭を抱えているのだがーー彼はラブレターの文章の間違っている点を指摘してくれない俺様なやつだーーお前、この文章のどこが悪いのか分かんねえのかよ?!ーー
朝ごはんの後から3時間、100回目の同じ文章をのぶ美は書いた。
お昼過ぎにようやく、藤堂君は「仕方ないな。これで良しとしてやるよ」と言ってくれた。
のぶ美の方を向いて「ふっ、ほんと、見れば見るほど、ちびまる子のみぎわさんそっくりだな」
ーーちがうもん。わたしもっと可愛いもんーー
藤堂君はのぶ美を見ながら、右手を出した。握手のつもりらしいが
「ガールフレンドの一人にしてやるよ。ありがたく思え。よろしくな」と横柄な言い方をする。
ーーそこがまた、いいっ。好き♪♪♪♪(#^^#)♪♪♪♪好きーーsukiーー
何時の間にか帰ってきたとの子が、
「いまガールフレンド無し歴1か月の癖に、よくそういう言い方するわよね。相変わらず俺様な腐れ男ね」と「ふんっ!」と藤堂のことを鼻先で笑うと、エプロンを付けて台所に入って行った。
のぶ美はうつ向いてもじもじしていた。藤堂君はのぶ美の手をつかむと、「ひと泳ぎしようぜ」と強引に連れていく。
「わたしカナヅチなのよ~」とのぶ美は情けない声で言う、が藤堂君は波打ち際まで走って行く。
ざぶざぶ海に入って、のぶ美を抱えて、ザブンと海の深みにほり込んだ。
のぶ美は背が立たずに、アップアップしている。
藤堂君から少し離れてジュノが心配そうに様子を見ている。
「なんだ、おまえカナヅチなのか。よっぽどダメダメなやつだな」と横柄にニタニタ笑いながら、ザブンと潜ると、そのまま水中からグイとのぶ美を持ち上げた。
藤堂君が水中で立ってのぶ美をお姫様抱っこしてくれている。
のぶ美は藤堂君に「いや~~ん」と抱き着いている。
海水も涙も鼻水もぐちゃぐちゃだが、とにかく嬉しいのぶ美である。
「素麺ができたからすぐ来なさいっ!」ととの子のヒステリックな呼び声が聞こえる。
ジュノが真っ先に駆けて行く。
別荘のテラスの日傘の下には、時間きっちりに茹で上げられた素麺が氷に冷やされて涼し気にガラスの大きな器に盛られ、今朝下ごしらえをして、さっき仕上げた麺つゆと、薄焼き卵にきゅうりに薄切りロースハムがどっさり盛られている。全部いまとの子が手作りした料理。
との子の料理の腕前は絶品だ。12歳の女の子とは思えない料理の腕だ。
藤堂は当たり前のように、との子の料理をパクつく。
ジュノはすでにパクついている。
のぶ美もすぐ、割り箸をとっておもいっきり麺を大量にとり、麺つゆにつけてそのまま口にねじ込み頬張る。
それを見ながら、との子もエプロンをはずしておもむろに手を合わせてから、食べはじめる。
のぶ美は口に詰め込めるだけ素麺を詰め込み頬張っている。
「美味しい!くらいおっしゃったら?」ととの子が食べながら不満そうに言う。
藤堂君「ああ、美味しいよ。お前が作ったんだからあたりまえだろ」
ジュノ「素麺は時間を計って茹でてらっしゃいますね。氷で冷やすタイミングもすばらしいです。薄焼き卵も焼き具合が絶品ですね」
のぶ美「う・お・い・し・ひ」--口に素麺がいっぱいで何を言っているのかわからない。
藤堂がのぶ美を見て薄ら笑いを浮かべながら、一言「おまえ、窒息するなよ?」
ーーさあ、遊ぶのはこれからだっーー