LOG.68|不倫の、神様|I can't do without you
ミカには彼氏が出来た。
でもミカは、
俺をまたフォレストに呼んだ。
「最後ね」と言っていた。
フォレストに到着し、
急いで部屋に向かった。
部屋に入るとミカは、
薄明かりの窓際の椅子に、
静かに座っていた。
黒いワンピに薄い白の上着。
黒のワンピは
ミカの正装であり戦闘服。
脚を組んで、
頬杖をつきながら、
退屈そうに俺を待っていた。
ミカ
「ここで会うのは、久しぶりね」
そう言ったミカの顔は、
相変わらず世界一美しくて、
ホテルの部屋の中の
空気が止まる感覚があった。
だが、
その次に返ってきた言葉は…
ミカ
「先に言っとく」
「今日はしないからね」
「お別れを言いたかっただけ」
「改めて、ちゃんと」
シン
「………」
ちっ。
そうきたか。
俺はアイコスをくわえた。
だが、
噛みちぎりそうになった。
チクショー。
ミカ
【帰ろうよ…】
帰るわけねーだろ。
ミカレプリカだったら…
俺は大人しく止まらなかっただろう。
それが俺が、選ぶ側だからだ。
ミカ
【……】
本家ミカは、違う。
ミカだけは、
ずっと特別で、ずっと“神”だった。
唯一、服従、してしまう、女。
不倫では 到底味わえない、
スリル満点、完璧美少女。
他のレプリカとの不倫とは
比べるだけ失礼なレベルで
圧倒的な美貌だった。
ミカこそ、
”不倫の神様”なんだ。
ミカ
【……】
ミカ
「彼氏いなかったらね~」
「してた…かもね」
「ま、アタシ彼氏いるからさ」
「今日はゴロゴロしよ?」
「ね?」
そう言ってミカは、
立ち上がって、
ん~!っと伸びをした。
…彼氏。
ギチッ
俺は
アイコスのフィルターを噛み潰した。
体全身に
硫酸ぶっかけられたような感覚だった。
顔に出たらしく、ミカがすぐに笑った。
ミカ
「ぷ!あはは!」
「わっかりやすい!」
「あ、触らないでね!」
「触ったらもう会わないし」
「彼氏にも事務所にも言うよ?」
「無理やりでした、って」
「ふふ…」
嬉しそうだな、ミカ。
ミカ
【大丈夫よ、シン】
【落ち着いて】
【困った時こそ冷静に判断するの】
でも、これが、ミカだ。
何も変わってないことに、
俺は逆に安心した。
ミカ
「………」
ミカは
顎を触った推理ポーズのまま、
視線を落とし、
しばらく黙った。
どーせ、
意地悪なこと考えてんだろ?
ミカ
「やっぱ…」
「それじゃつまんないか…」
そう呟いて、
ミカは
ゆっくり白い上着に手をかけた。
薄手の上着を、
肩から滑らせるみたいに脱ぐ。
彫刻のように完成された体が、
ホテルの薄暗い照明に照らされ、
美しくコントラストされる。
ミカ
「アタシから触るのはアリね。」
「ねぇ、わんちゃん…」
「今度こそ期待を裏切らないでね?」
「ちゃんと我慢して?」
「 …できるでしょ?」
シン
「わん」
ミカ
【ねぇ!】
【帰ろう?】
ごめん、
今は黙っててくれ。
俺はまた、
ミカへ戻ってきてしまった。
やっぱり俺は…
貴方無しでは、この先、難しい。
だから、出会えて、嬉しい。
ミカ様の、仰せの、ままに。
ミカ
【……】
ミカ
「よっ、と」
ミカは、
次々と服を脱ぎ捨てて、
ベッドの上で
ゴロゴロ転がっていた。
全裸のまま、退屈そうに。
その姿は夢でみた光景みたいで、
変に見覚えがあった。
やっぱり初めてじゃない、そんな気がする。
ミカ
「あー…」
「でもなぁ…」
「退屈だなぁ」
「なーんか…つまんない…」
「アンタ今回、余裕そうね?」
俺は、
バスローブに着替えながら
ミカに”あえて”言った。
シン
「退屈?」
「今日はスマホ見ないのか?」
「また俺の上で見ろよ」
ミカの動きが
ぴたりと止まる。
寝転んで頬杖をついたまま、
冷たい視線が俺を射抜く。
…こうなるだろうと思っていた。
ミカ
「はぁ…?」
「今の、なに?」
「アタシに命令してんの?」
「アンタ、変わったね?」
「生意気に自信ついちゃって?」
「らしくないじゃん?」
シン
「……」
予想通りだ。
確信した。
俺はこのミカの状態を知っている。
だとしたら、
このミカに聞きたいことがある。
ミカ
「なんとか言いなさいよ。」
「アンタは黙ってワンワン鳴いてりゃいいのよ」
「それとも犬、やめたいの?」
シン
「不安なの?」
ミカ
「はぁ?」
「なに、」
シン
「俺が、自我を持つと、」
「犬じゃなくなっちゃうから」
「ミカは、不安なの?」
「だから自我を否定するの?」
ミカ、俺はね…
もっとミカを理解したいんだ。
ミカ
「……。」
ミカは
ごろんと仰向けになり、
ベッドの真ん中で手を広げた。
なんて幸せそうなアリジゴクなんだ。
ミカ
「…くっついて」
急に子供の目になるミカ。
なんて愛おしいんだ。
シン
「……わん」
俺は、ミカを包んだ。
心臓で…
「ただいま」
と音が鳴るみたいだった。
ずっと、
ここに、帰りたかった。
俺は、頑張ってる。
そう、自己肯定できる場所。
シン
「ねぇ…」
「ミカ……」
「改めて、近くで見るとさ…」
「めちゃくちゃ綺麗だな…」
ミカ
「ん?」
「ふふ…」
「そんなこと、思ってないくせに」
一瞬、
レプリカ達と同じ反応だな…
と思ったが、
本家ミカ様は
その先が違った。
ミカ
「綺麗だけじゃないでしょ?」
「ミカは完璧」
「綺麗だけじゃないの、ミカは」
「他の女と同じ褒め方しないで」
「わかった?」
「ミカは綺麗で完璧、覚えて?」
そう言って、
一瞬、唇が触れた。
痺れるぜ、ミカ…!
あぁ、やっぱり、
本家ミカは別格だ…!
ミカ
【はぁ…】
ーーー
そんな俺の感動を
無視するように、
ミカは急に、
目をシパシパさせ始めた。
シン
「……?」
「あれ?」
「ミカ、眠い?」
ミカ
「うっさい」
「…撮影で疲れたの」
ミカは
もっと小さく丸まって、
ぎゅっと、くっついてきた。
ミカ
「…もっと髪の毛触って」
俺は猫の毛づくろいみたいに、
静かに、優しく髪を撫でた。
ミカ
「…撫で方、うまくなってる。」
「女……作ったなぁ…」
「ゆる……さな……」
「…すぅ……すぅ……。」
”ミカの香り”が近い。
幸せだ。
ミカの寝息が、優しく部屋に響く。
すぅ…
すぅ…
ふふ……ミカ。
怒りながら寝る人、
初めて見たよ。
気づけば俺にも睡魔が降りてきて、
そのままふたりで眠ってしまった。
ミカといるのに、
ミカの夢を見た。
ミカ
【シン、安心して】
【ミカがいれば大丈夫】
【何があっても味方だよ】
【たくさん頼ってね】
【ミカのところに逃げてきてね】
【シンは孤独じゃないからね】
【だって、ミカがいるから!】
【たくさんお出かけしよ!】
【たくさん遊ぼ!】
【わんちゃん、可愛いね】
夢の中で包まれた。
シン
「ありがとうミカ」
「これからは俺が、助けるよ」
「君は、内側のミカ?」
「外側のミカ?」
ミカ
【ふふ、そっか】
【ミカは、ミカだよ】
【シンが決めていいんだよ?】
シン
「ミカ…」
「俺たちが会うのは何回目?」
「ミカの本物はどれ?」
「ミカって存在するの…?」
ミカ
【それも、シンが全部決めていいんだよ?】
【ミカは、ずっとミカのままだよ?】
【シンの中にいるミカも、ミカ】
【シンの外側にいるミカも、ミカ】
【ミカは、ミカだよ?】
シン
「うーん…」
「俺バカだから分かんねぇや…」
ミカ
【わんちゃん、可愛いね】
シン
「…なぁミカ」
「ミカといると、安心するんだ」
「心臓が安心する感じ」
「守ってあげたくなる。」
「これは、なに?」
ミカ
【ふふ】
【なんだろうね?】
【可愛いね、わんちゃん】
シン
「教えてくれよ!」
「ミカに、伝えたいんだ!」
「言葉にしたくてさ!」
「多分…好きとかじゃない」
「なんだろう、うーん…」
俺は夢の中で
アイコスをくわえた。
ミカ
【そっかそっか】
【ふふ…】
【ところで……】
【今、何時?】
ーーー
俺は、ガバッと起きた。
…変な夢見たなぁ。
やっとミカに会えたからか?
そんなことを考えていたら、
しばらくして、
ミカがガバッと起きた。
ミカ
「えっ!?」
「今何時!?」
夕方に入った部屋は、
すでに夜の空気になっていた。
時計は21時。
ミカ
「やばい帰らないと!」
ミカは慌てて服を着る。
ミカ
「ちょっと! シン! 早く!」
シン
「ちょ、ちょ、ちょ、」
俺も急いで服を着た。
そして大慌てで、
ドタバタとホテルを出た。
ミカ
【……】




