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不倫の神様  作者: 天狗
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63/70

LOG.63|じゃ、いっか|Time Capsule












あの夜の数日後、

突然ミカからLINEがきた。







ミカ

『シン、迎えに来て』

『出かけるよ~』








嫌な予感と、嬉しさが半々。








行先はひとこと。




『団地の公園』




それだけだった。








…理由なんて聞かない。




ミカに呼ばれたら行く。


それだけだ。









ーーー









迎えに行くと、

その日はやけに機嫌がよかった。





ミカが

車のドアを開け、

”ミカの香り”が車内に広がる。





ミカ

「やっほ!」

「ねぇねぇ、ドライブしよ〜」

「ちょっと遠いけど、いい?」





シン

「どこでも連れてく」

「……ん?」




よく見ると、

ミカが小さなスコップを持っていた。





シン

「なんだそれ?」

「何に使うんだ?」





ミカ

「ふふ♡」

「今日はこれで遊ぶの♡」





シン

「……」







これ。



タイムカプセル掘るんだろうな。






何故か、わかってしまった。








…絶対にミカには言わないけど。









俺はアイコスをくわえた。









シン

「……で、団地ってどの辺?」





ミカ

「団地はね、ここから1時間半くらいかな」

「運転がんばってね、わんちゃん」

「今ナビ出すね」










片道1時間半。


道中は

どうでもいい話をしていた。


テレビの話、

モデル撮影の裏話、

好きな曲の話、

SNSの話…







シン

「次の仕事いつなの?」





ミカ

「え?」

「モデルの?」






スマホを両手で、

タプタプ触りながら答えるミカ。




手が小さい。


愛おしい。






シン

「そうそう」

「撮影ってすぐあるの?」





ミカ

「しばらく無いかな」

「入れなきゃなーと思いつつ…」

「はぁ…」





珍しい…!


いつも明るいミカが、ため息…!






シン

「どうした?」

「仕事、紹介するか?」






ミカ

「あーうん、えっと」

「それはありがとうなんだけど」

「アタシね、上京したいの」

「やっぱり地方じゃさ…」

「デカイ仕事きても流されちゃう」

「だから今は引越し準備なんだ…」

「仕事と…引越しと…あぁ~…」

「うーん…って感じ」

「はぁ~…」







俺はアイコスをくわえた。




今、喉にある言葉、


どれを選んでもアウト。



そんな気がしたんだ。






シン

「な、なんか!」

「なんかごめん!」

「いつも!」






ミカ

「ぷ!はは!」

「なんで謝るの?」

「しかも、いつもごめんて何?」

「アホだねぇ、わんちゃん」






正解っぽかった…!



とりあえず、

笑顔見れてラッキー!






ミカ

「はぁ~面白かった」

「………」





沈黙。


車のウィンカーの音が車内に響く。




カッチンカッチン




カッチンカッチン




カッチンカッチン




ミカ

「ねぇ、アタシさぁ」

「父親嫌いなのよねぇ」




シン

「パパ?」





ミカ

「うん。」

「父親がね、信用しないの」

「一人で住んだら夜やるだろって」

「お前は絶対に夜の仕事をするって」

「…何言ってんのよ!」

「誰がするもんか!」

「アタシはモデルで売れるの」

「絶対売れてやる。」

「金がない時こそ…!」

「オーディション行きまくる…!」




シン

「そうか。」





ミカ

「だから、恋リアも出れたし」

「脇役だけどCMも決まったし」

「これはオーディションに行ったから…!」

「ミカが行動しまくった結果なの!」

「そうでしょ!?」

「だから、」







シン

「もう、いい」

「もういいよ。」

「ミカ、頑張ったね。」





運転席から、

ミカの頭を撫でた。





ミカ

「……」





ミカは、

目を丸くして驚いたが、



すぐに、

安心しきった顔に変わった。







でも、意外だった。



こんなヘラヘラしてるし、


エロいイメージしか無かったけど、


思ったより、

しっかりしていた。



ますます…好きです。









ーーー





到着。





着いた先は、古い団地だった。


お世辞にも

綺麗とは言えない団地。




その中に小さな公園があった。

そこにミカは用事があるという。


遊具は、かなり錆びていて、

すみっこに木が生えていた。








大きな木のほうへ歩くミカ。







ミカ

「この木…」

「この木の下にね、カンカン埋めたの…」

「タイムカプセル…」

「もう、10年前…だなぁ」







シン

「10年前ってことは…」

「ミカ10歳?」








ミカ

「そ!」





10歳の…ミカかぁ。



ん?



目線を感じた。





ふと横目で

俺の表情を見るミカ。







ミカ

「…想像したら可愛いでしょ?」

「10歳のミカ♡」








片足をぴょこっと上げて、

アイドルポーズをするミカ。


可愛すぎて

アゴ外れちゃうところだった。


危ない危ない。



アゴ外れてて忙しい俺に、

ミカはスコップを渡してきた。







ミカ

「掘りましょう!」

「タイムカプセル!」






ほらな?





やっぱり、そうだ。







目をキラキラさせてミカは言った。


当然のように、

掘るのは俺だった。








ミカはベンチに座って、

コンビニのアイスコーヒーを

ちゅーっと飲んでいる。




俺は木の根元あたりを、

ひたすら掘った。






が…




30分たっても土。



土の感触しかこない。








シン

「はぁ…!」

「…ほんとにこの辺?」








ミカ

「このへ~ん」

「がんばれ〜」






足をパタパタさせながら、

笑って応援してくる。








すると、






ガチン!






シン

「お!」

「何か当たった!」





ミカ

「えぇ!?」





嬉しそうに立ち上がるミカ。






俺は、急いで掘り進めた。






…が、木の根っこだった。






ミカ

「なぁ~んだ…」

「残念…」







シン

「よし」

「飽きた」






早く帰りたい。



何この、凄くキモイ作業。


つまんなくてゲロ吐きそう。




アイコス吸いてぇ…








シン

「…ミカ」

「多分ないよ、これ」








ミカ

「そっか〜」

「じゃ、いっか」






じゃ、いっか。


俺の手は泥んこ、

服も土まみれ。


片道1時間半かけてきて、

掘って、何も出ない。








シン

「んじゃあ終わりな!」

「あー疲れた疲れた!」






俺は

すぐにアイコスをくわえた。




スコップを置きっぱにして

ベンチのほうへ向かった。







ミカ

「……」






ミカが小走りで

俺の横を通りすぎる。




スコップを手に取り、

土を手で、はらっていた。







シン

「ミカ」

「それ、百均だろ?」

「持ち帰らなくても、」






え?



なんでそんな睨むの…?








ミカ

「これがいーの!!」








……可愛い。














ーーー





手が泥だらけになったので


オンボロな水道で

俺は手を洗った。



古い水道独特の、

変に強い水圧の蛇口。






ジョバババ




シン

「石鹸が無ぇ…」




石鹸ぐらい置いとけよ…



この団地、人いねーのか?






ジョバババ





そして、

ミカは何故か、

今はとっても機嫌がいい。



ミカは数秒で、

コロコロ生まれ変わる。






ミカ

「ね、」

「今日はありがと、シン」

「なんかスッキリした〜」






手を洗う俺の横で、


ちょこんと

しゃがみこんで言うミカ。






おい……。



なんでそんなに

満面の笑みなんだミカ…。




ジョバババ




キュ






手を洗い終わって

2人で車に乗り込むと、



その瞬間、

俺のスマホに着信が届く。





ピリリリリリ






シン

「んだよ…」

「空気読めよバカが…」





俺はスマホの画面を見た。






シン

「あん…?」





リュウトじゃない…!?




名前を見た瞬間、

深い海溝に沈められた気分になった。



それは…

ミカの事務所の番号だった。



出たくねぇ~……






シン

「……もしもし」









事務所

『おう、ちょっと確認な』

『お前さぁ、うちのモデル…』

『連れ回してねぇよな?』






なんだコイツ…。




撮影のクルーとは別な人なのか?


怒りで口調が変わってるのか?




とにかく

ピンチなのは変わりない。





シン

「……連れ回してません」







めっちゃ、嘘。


でも、

それ以外の言葉が出てこなかった。






事務所

『そうか、言ったな?』

『今、言ったかんな?』







シン

『……』







イライラしてきた。


このガキ、前歯全部折ってやろうか?



ふと、イライラしながらミカを見ると、


ミカは、外を眺めていた。








事務所

『 …まぁ、だったら、』

『そういうことにしといてやるよ』

『ただ……お前よぉ、』

『メイは大事な商品だからな?』

『気をつけろよ、ガキ』

『じゃ』









通話が切れる。







シン

「ガキだぁ…?」

「誰に口聞いてんだ!」

「バーーーカ!」





もう一度言うが、

通話は切れている。




ミカは

笑ってもくれなかったし


こっちすら見ない。








車内は、

外から聞こえる、

工事の音だけが響いていた。

















ガツーン… ガツーン…
















ガガガガ…



















しばらく工事の音を聞いた後、

ミカがぽつりと言った。












ミカ

「……シン」








シン

「ん?」









ミカ

「帰りたくない」

「ミカ、ひとりはイヤ」









どこか、

ひどく疲れている声だった。









ミカ

「お願い、どっか行こ」









シン

「どっか……って?」








ミカ

「…くっつけるところ」

「早く」

「お願い」








その瞬間、

俺はハンドルを切っていた。


行き先は、

もう決まっていた。









フォレスト。









ーーー









フォレストの部屋に入ると、

ミカはベッドにダイブした。




ミカ

「はぁ~…」

「疲れた……全部」







ごろごろ転がりながら、

俺と目を合わせず、ミカは言った。






ミカ

「ねぇシン」

「アタシがどっかいっても…」

「嫌いにならない?」








シン

「ならないよ」









ミカ

「アタシのこと忘れない?」









シン

「忘れない」




ミカ

「何回でも、迎えにきてね」




シン

「迎え?」

「…あぁ、もちろ、」




ガバッ


ミカは俺の唇を捕食した。



ロマンチックなキスではない。


完全に肉食獣の捕食だった。
















そしてまた、首を絞めた。


心も、身体も、

ひとつになった。



















結局、

その日は泊まらずに、

22時くらいにホテルを出た。


駐車場で別れるとき、

ミカは窓越しに手を振った。








ミカ

「バイバイ。」










さっきまでと、

同じトーンのはずなのに、

なぜか急に遠く聞こえた。








ーーー








家に帰り、

シャワーを浴びて、

ベッドに倒れ込んだとき。





スマホが震えた。





ミカからのLINEだった。












ミカ

『彼氏できたから会えません』

『LINEも電話も全部消します』














え?

彼氏いらないって言ってたじゃん。


彼氏じゃなくて、

犬が欲しいって言ってたじゃん。



何がどうなって、

急に「彼氏できた」になるんだよ。










なぁミカ。



ちゃんと説明しろよ。


俺、バカだから分かんねーよ。







心底、

自分にイライラしながら


アイコスをくわえた。










俺は、1人は好きだ。


でも、独りは、嫌だ。





…それに、



誰かと、約束した気がするんだ。




独りになっちゃダメ、ってさ。





だから、

孤独にならないようにしてる。





今、ほんの一瞬、ミカの顔が頭によぎった。






…ミカと約束したのか?





そんなことを考えていたら



また、

あっという間に1箱消えた。







ーーー







俺は、

この日の後から…


人妻と関係を持ち始めた。



そう、”不倫”だ。





ミカの代わりを、


永遠に、探し続けて。





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