睡眠薬入りの紅茶
これまでのキャロラインは少し気だるげで、生気がないような瞳をしていた。
けれどもルームーン国の名前を出した途端、目の色が変わる。
「あなた、今、ルームーン国から来たと言ったの!?」
キャロラインはヴィルに縋ってこようとする。
体に触れられたら男だとばれてしまうだろう。
阻止しなければ、と一歩踏み出した瞬間、ヴィルが思いがけない行動に出る。
立ち上がったかと思えば、寝台のほうへふらふら歩いて行き、ばたりと倒れた。
「ルシーお嬢様!?」
慌てて駆け寄り、顔を覗き込む。
キャロラインに背を向けて倒れ込んだヴィルだったが、瞳はらんらんと輝いていた。
おそらく先ほど睡眠薬入りの紅茶を飲んだので、それが効いてきたように思わせるために倒れたのだろう。
私は知らない振りをして、声をかけ続ける。
「ルシーお嬢様、ああ、なんてことでしょう!? こんなにも顔色を悪くして!! 持病が発症したのでしょうか!? あの、お母様を奪った、憎むべき病が!!」
少々演技が大げさだっただろうか。
ヴィルが笑うのを我慢しているのか、ぐっと堪えているように思える。
しばらく我慢してもらう他ない。
彼の目論みはわかっている。
緊急事態を装い、キャロラインから情報を聞き出すこと。
ルームーン国からやってきたという言葉にも反応していた。
様子から推測するに、助けを求めているように思えたのだ。
押してみるより、引いてみろ作戦を実行させる。
「すぐに、お部屋に戻ってお休みしましょう! 先生からいただいたお薬を飲んだら、きっとよくなるはず」
ヴィルの体を支えようと手を伸ばした瞬間、キャロラインが慌てた様子で引き留めてくる。
「ま、待って!! その子はきっと、病気の発作で倒れたのではないと思うの!!」
「あなたにお嬢様の何がわかるのですか!?」
少々強く出過ぎてしまったか。
そう思いつつキャロラインを見たら、血走った目で私の眼前に迫っていた。
「違うの! 違うのよ!」
「何が違うと言うのですか?」
キャロラインはパクパクと口を動かすも、なかなか紅茶に睡眠薬を入れたという言葉が出てこない。
もしかしたら、魔法か薬で発言を封じられている可能性がある。
どうしたものか、と思っていたらヴィルが欠伸をして目覚めた。
すると、キャロラインはホッとした表情を浮かべて言った。
「ねえ、ほら、大丈夫そうでしょう?」
その言葉に、ヴィルはこくこく頷く。
「少し、眠かっただけよね」
「ルシーお嬢様、そうなのですか?」
ヴィルのもとへ近づき、耳打ちされた言葉を聞く。
彼は私にしか聞こえないような声でそっと囁いた。
「もしかしたら言葉を封じられている可能性がある。ハンナの祝福で、なんとかなるかもしれない」
私の祝福――作った飲食物に解毒作用が付与されるもの。
それだ! すぐさま私はキャロラインのために、紅茶を淹れることにした。




