船上パーティーへ
夜はフォーマル・ナイトと呼ばれる、格式が高いパーティーが開催されるようだ。
怪しい人物がいないか探るために、私達も参加するという。
ヴィルが用意し、レヴィアタン侯爵夫人が寸法直しをしてくれたドレスを纏う。
ドレスを着るのは、レヴィアタン侯爵夫人が手伝ってくれた。
以前も降誕祭の晩餐会に参加するときなど、こうして手伝ってもらったような記憶があるものの、上位貴族の奥方にこのようなことをさせて申し訳なくなる。
「こんなことまでしていただき、その、感謝します」
「ふふ、お気になさらず。昔、こういうのを毎日していたわ~って懐かしく思っていたところでしてよ」
レヴィアタン侯爵夫人は王妃殿下の元お針子である。
ドレスを着せることなんてお手の物なのだろうが……。
「実を言えば、娘にこうしてドレスを着せることを夢見ていましたの」
「そうだったのですか?」
「ええ。娘は無理でも、息子達のお嫁さんにドレスを着せたかったのだけれど、いつまで経っても結婚しなくて」
双子という存在は二人だけの世界があるらしく、もしかしたら結婚するときは同時かもしれない、なんてレヴィアタン侯爵夫人は話していた。
「二人が同じ女性を好きにならないといいのですが」
「ですね」
今日、私にドレスを着せることができて、大満足だと話していた。
「こういうのは、誰もさせてくれないから」
一度、侍女に下げ渡したドレスを着る手伝いをさせてくれないか、と頼んだことがあったらしい。
「きっぱりお断りされてしまって」
私が侍女の立場だったら、同じようにご遠慮していただろう。
今回もそうしたかったのだが、ドレスのボタンが背後にあるタイプのものだったので、一人では着られなかったのだ。
ジェムに頼めばなんとか着ることもできるだろうが、あの子は気まぐれなので期待してはいけない。
今も、窓に張り付いて真っ暗になった海を眺めているように見える。
一応、パーティーに行くか聞いてみた。
「ジェム、これから船上パーティーに参加するけれど、一緒に行く?」
振り向いたものの、再度窓に張り付く。
どうやら参加するつもりはないらしい。
「疲れたのかもしれませんわ」
「そうかもしれません」
慣れない船旅だが、三日間頑張ってほしい。
化粧を施し、髪を結ってもらう。
パーティーに挑む貴族令嬢の完成だ。
そうこうしている間に、ヴィルとレヴィアタン侯爵が迎えにやってきた。
二人とも、燕尾服姿がビシッと決まっている。
「ルシー、行こうか」
「はい」
ヴィルが差しだした手に、指先をそっと重ねる。
パーティーへ挑むこととなった。
船上パーティーは船内でもっとも広いと言われている、ダンスフロアで開催される。
すでに参加者が集まっていて、楽団がワルツの曲を演奏していた。
悪目立ちしないよう、一曲踊るという。
心臓をバクバクさせながら、円舞に加わった。
ヴィルのエスコートが上手いからか、思いのほか上手く踊れる。
ただ、くるくる回転し続けるので、目が回りそうだった。
普段よりもくらくらするのは、ヴィルがかっこいいから――なわけない。
おそらく船上だから、感覚がずれているのだろう。
しばらく何も食べないほうがいい。そんなことを考えている間に、ワルツの演奏が終わった。
続いての曲はテンポが速い〝ヴィニーズ・ワルツ〟だという。これ以上踊ったら立っていられなくなりそうなので、ヴィルと共に壁際に移動することとなった。
「あの、あちらにいる方々は?」
見目麗しい男性陣が、ずらりと壁際に並んでいた。
それを品定めするかのように、集まる人だかりもできている。
「あれは〝アンバサダー・ホスト〟と言って、ダンスの相手をする男性陣だ」
「そんな役割を持つ人達がいるのですね」
アンバサダー・ホストがいるので、一人で参加しても楽しめるという。
さまざまなサービスがあるものだ、としみじみ思ってしまった。




