ヴィルの魔技巧品
ヴィルが指に嵌めたルビーの指輪を見せてくれる。
「これは手をかざすだけで、鑑定魔法が使える魔技巧品だ」
チョコレートのショーケースを見る振りをして、問題ないか確認していたという。
あのとき、私はヴィルがチョコレートに興味があるものだと思い込んでいた。それくらい、さりげない様子で鑑定魔法を発動させていたのだろう。
「それにしても、鑑定魔法が発動されていたなんて、まったく気づきませんでした」
「これは装着者にだけ鑑定情報を見せる物なんだ」
手をかざすと、自動で発動するという。
魔法陣なども浮かばないため、装着者以外には何もしていないように見えるに違いない。
「便利なお品ですねえ」
「実を言えばルシーの分も買っておいた」
「えっ、私の分もあるのですか!?」
「ああ」
ヴィルの懐から取りだされたのは、眼鏡型の魔技巧品である。
銀のフレームが美しい眼鏡だった。
「わあ、ありがとうございます、嬉しいです」
「これはアイテムを見て、ウインクするだけで鑑定魔法が発動されるものだ」
「ウインク、ですか」
眼鏡をかけてやってみるも、ヴィルから「ふっ!」と笑われてしまった。
「ルシー、片目ではなく両目を瞑っていた」
「うう、そうでしたか」
人生でウインクをする機会なんてないので、できるかどうかもわからなかったのである。
「いいや、できなくてもいい。私の指輪と交換しよう」
ヴィルはルビーの指輪を外し、私の人差し指に嵌めてくれた。
なんとなく、ドキッとするようなシチュエーションである。
それはそうと、指輪がぴったりでびっくりする。
なんでも装着者によってサイズが変わる魔法がかかっているらしい。
小粒のルビーがひっそり輝く、かわいらしいデザインの指輪である。
「いいのですか?」
「ああ。ルシーのほうが、商品を手に取ったり近くで眺めたりするだろうから」
「ありがとうございます!」
そんなわけで、ヴィルから鑑定魔法を発動できる指輪を譲ってもらった。
続いて向かった先は、女性用のナイトドレスを販売するお店である。
レヴィアタン侯爵とヴィルはお店の外で待っているようだ。
「まあ、かわいらしいナイトドレスがたくさんありますわ!」
レヴィアタン侯爵夫人は少女のようにはしゃいでいた。
そんな様子を微笑ましい眼差しで見守っていたら、手に取ったナイトドレスを見てギョッとする。
「ルシー様、このナイトドレス、素敵ではありませんか!?」
あろうことか、それは腹部が血まみれになったようなインクで着色されたナイトドレスだったのだ。
そういえばレヴィアタン侯爵夫人はこういうホラーで不気味なアイテムが大好きだったな、と思い出す。
「あっ、胸に血が付いているのもありますが、ルシー様はどちらがよろしい?」
「えーーーっと、ハンナのお好きなほうで」
そんなわけで、私は腹部が血まみれになったナイトドレスをレヴィアタン侯爵夫人とお揃いで購入したのだった。
「他、何か見ますか?」
「そうですね」
なんだか怪しい雑貨を販売する店があるようだが、準備中になっていた。
店名は〝アイテムの森〟。
森というよりは、密林という印象だが……。
ヴィルが真面目な顔で、こういう店には行かないほうがいい、と助言してくれた。
「特に気になるお店はないみたいです」
「でしたら部屋に戻りましょうか」
「そうですね」
必要最小限の品を買ってから、部屋に戻ったのだった。




