日常に忍び寄る影(ヒロイン)6
無駄に肌色多めなので注意お願いします。
ギリギリまだ大丈夫かと思いますが、アウトかと思ったら教えてくださいm(_ _)m
なかなかヒロインちゃんが近寄ってこれない、ラブラブバカップルです。
「ただいま、ヒュー、ディア」
「ただいま、クオン」
(ただいまー)
狙っていた訳では無いが玄関を入った瞬間、綺麗に揃った挨拶に俺は嬉しくなってヒューバートの頬へ口付ける。
ちなみにまだ抱き抱えられたままだ。
ディアベルは俺達を真似て乗っかったのだろうが、ふわふわ飛びながらころころと楽しげに笑っている姿は愛らしい。
「おかえり、ヒュー、ディア」
そのまま戯れるようにヒューバートの顔のあちこちへ口付けながら、俺は迎える挨拶を口にしてヒューバートの首へ腕を回す。
「あぁ……おかえり」
俺はヒューバートのヤル気スイッチが怖いのであえて唇は避けて口付けていたのだが、ヒューバートから思い切り唇へ口付けされて、深くなる口付けに呼吸を奪われる。
「っ、ちょ、待てよ」
このまま流されると玄関で剥かれかねないので、俺は思い切りヒューバートの顔を手のひらで押し退ける。
「俺、ゴブリン焼いたりしたから臭いだろ。せめて風呂ぐらい入らせてくれ」
「では私も側にいたから臭いか?」
俺に手のひらで顔を押し退けられたまま、ニヤリと笑ってヒューバートが問いかけて来たので、遠慮なく胸元辺りに顔を埋めて匂いを嗅ぐ。
「……少し焦げ臭いが、いつも通りの匂いだな」
今まで意識していなかったが、ヒューバートから香る匂いは、前世から変わってない気がする。
思わず懐かしさから目を閉じてくんくんと嗅いでいると、お返しだ、と悪戯っぽく笑ったヒューバートが俺を抱き上げたまま首筋辺りに顔を埋めて思い切り匂いを嗅いでくる。
「恥ずかしいな、これ」
とりあえず甘過ぎる雰囲気は何処かへいき、擽ったさもあってあははと笑って俺はヒューバートの腕から抜けて出そうとしたが、ふいにヒューバートの拘束が強まる。
「なんだよ、もう歩いていいだろ? 風呂行かないのか? 俺も焦げ臭いよな?」
「………………くさい」
マジで恥ずかしいな、と内心思っていると、ヒューバートから聞こえてきた予想外の単語に目を見張る。
首筋へ顔を埋めたまま、低く吐き捨てられた台詞にヒューバートの不機嫌さを感じた俺は慌てて身を捩って離れようとする。
「え? そんなに臭かったか? ゴブリンには触れていないんだが……悪い、すぐ風呂入ってくるから離してくれ」
俺に激甘なヒューバートがここまでハッキリ言うなんて相当臭いらしい。背負って運んだミンシヤは何も言わなかったが、我慢してくれていたのかもしれない。
「ミンには悪いことしたな?」
自身へ『清掃』魔法かけてから背負うべきだったかと、思わずポツリと洩らして同意を求めようとディアベルを視線で探す。
先程までその辺をふわふわしていた姿は何処にもない。
「……ヤバいな、そこまで臭いか? 鼻が馬鹿になったか?」
悪臭過ぎて逃げたかと思った俺は、本気でヒューバートの腕から抜け出そうとするのだか、俺をガッチリと抱え上げている腕は微動だにしない。
顔は首筋辺りに埋められているので表情を見えず、俺は不安になってヒューバートの後頭部を撫でてみる。
「おい、大丈夫か? 臭すぎて気分悪くなったんじゃないか?」
「……くさい」
「もうわかったって」
やっと答えが返ってきたが、それは予想以上に不機嫌そうな声で、俺は苦笑いを浮かべるしかない。
「やはり女の方がいいか?」
なだめるようにぽふぽふとヒューバートの背を叩いていた俺は、ヒューバートの言葉の意味がわからず首を捻る。
「だから俺の恋人はヒューバートだ。そんなに俺は女性とシたがってるように見えるのか?」
またモミジさんの話でも聞いたのかと思って苦笑いしていると、バッと顔を上げたヒューバートが涙目で俺を睨んでくる。
「ならどうしてこんな女物の香水の匂いをさせてる!?」
「は? 女物の香水……ああ、そういことか」
今にも泣き出しそうな顔をしているヒューバートの腕の中、俺はヒューバートの奇行の理由に気付いてヒューバートの首へ腕を回してしっかりと抱き締める。
本当は正面から向き合ってしっかりと抱き締めたいが、未だにヒューバートが離してくれないので仕方ない。
「疑われるようなことしてごめんな? あの吊るしてた男覚えてるか?」
「……ああ。まさか、あの男のつけていた香水の匂いなのか!?」
「なんでそうなるんだよ! あの男が襲ってた女の子助けて、その女の子を街までおぶって送ってあげたから、その子の香水の匂いが移ったんだ!」
「……そうなのか? 本当に浮気じゃないんだな?」
どう見ても年上の美人がおずおずと訊ねるてくる可愛らしい姿に、俺は大きく頷いてヒューバートの頬を撫でてやる。
「男娼してた俺が言える事じゃないけど、俺は好きになったら一途だからな? 浮気なんてしない。……させない自信はないけどな」
「しない! する訳がない! クオンは私の執着を甘く見ている!」
「そうかもな……。わからず屋な俺に、ヒューの愛を教えてくれよ」
ヤル気スイッチとか色々どうでも良くなり、今は不安になっているヒューバートを安心させるのが最優先だと、俺はヒューバートの頭へと腕を絡める。
「っ、止めろと言っても、止めないぞ」
「あぁ、構わないよ。ヒューに壊されるなら本望だ」
ぐっ、と息を呑んだヒューバートからは、噛みつくようなキスが返ってきて、俺はそのままヒューバートの力強い腕へと身を委ねる。
風呂に入るのは、ひとまず諦めることにした。
●
「……今何時だ?」
ふっと意識が浮上した俺は、ヒューバートに抱き締められる体勢で眠っていたらしく、目の前には美人過ぎる恋人の無防備な寝顔がある。
無性に甘えたくなり、ヒューバートの首筋に鼻先を擦り寄せて、思い切り息を吸い込んで恋人の匂いを堪能しておく。
ちなみに昨日……なのかはわからないが、まずは風呂場で二・三戦してからベッドへ移動したので、一応体は洗ったというか、全身洗われた。
つい悪戯心から、向こうの世界のピンクなお風呂屋さんの真似事(想像)をした結果、色々大変な目に遭った。
俺も楽しんだから強くは言えないが、腰とあらぬところが限界だ。
それだけヤッた訳なんたが…………。
「元気だなぁ」
裸で抱き合って寝ていたため、色々とバッチリ伝わってくる中で、朝(?)から元気な恋人の下半身に思わずため息を吐く。
今さら照れる事ではないので、健やかな二度寝のためにどうにかするかとモゾモゾしていると、いつの間にかパッチリと目を開けて俺をガン見しているヒューバートに気付く。
「起こしたか、悪い」
寝込みを襲ってるような今の状況に、さすがの俺もバツが悪くなり、笑って誤魔化そうとしたのだが、不意に視界が回って見える範囲はほぼヒューバートで埋まる。
「え?」
「……ヤり足りなかったのか」
寝起きで掠れているせいでいつにも増して腰に来るような低音で囁かれ固まっていると、そのままシーツへと押し付けられ、まるっと頂かれてしまった。
さっきの台詞は、ヒューバートに熨斗つけて返しておきたいと思う。
「本気で死ぬかと、思った……」
「煽ったのは貴様だ」
寝起きで一戦……いや、たぶん三戦ぐらい後にヒューバートに背後から抱えられて入浴中、そんな軽口を叩くと、生真面目な突っ込みと共に腹部に回った腕に力が籠もる。
俺が苦笑しながらやけに力の籠もった腕を叩いていると、どろんという気の抜ける音と共に羽の生えた幼児が浴室へ現れる。
(クオンー、魔力ちょーだいー)
「あぁ、悪かった。ディアに食べ物出しとけば良かったな」
二人っきりを邪魔されたのが嫌だったのか背後で思い切り舌打ちしたヒューバートに、ディアベルはベーッと可愛らしく舌を突き出している。
(ひどーい、僕、気を使って我慢してたのにー)
「ん、ありがとな、ディア」
頬を膨らませて拗ねて見せるディアベルの方へと手を差し伸べて魔力を練ると、すぐに手を掴まれて、指先へ吸い付いてくる。
「……普通に吸えないのか?」
あむあむと指先を咥えているディアベルを微笑ましく見ていると、明らかに不機嫌そうな声音のヒューバートから今さらな疑問が飛んで来る。
「普通に吸うって、どう吸うんだ? 口からとか?」
(僕はそっちでもいいよー)
「な!? 駄目だ! クオンの唇に触れていいのは私だけだ!」
俺の素朴な問いに返ってきた、冗談とも本気ともとれるディアベルの言葉に、俺より顕著に反応したヒューバートの手により、俺の口元は背後から覆われてしまう。
「む……ぐ……」
鼻は塞がれてないので呼吸は問題ないが、ちょっとした悪戯心から俺は唇の隙間から舌を覗かせ、ヒューバートの手をくすぐるように軽く舐める。
「なっ!?」
先ほどとは少しトーンの違う驚きの声を上げたヒューバートは、すぐ覆っていた手を引っ込めようとしたので、俺はすかさずその手を捕らえて、ニッと笑って見せる。
(あーあ)
俺の次の行動を読んだのか、ディアベルからは何故か同情するような眼差しと呆れたような言葉が飛んでくる。
ディアベルのリアクションは気になったが、俺はせっかく捕らえたヒューバートの手をにぎにぎとマッサージするように触れていく。
本気を出せば簡単に俺の手なんて振り払えるだろうが、ヒューバートは俺の好きにさせてくれるようだ。
美人さんな見た目に反し、ヒューバートの手は結構男らしい。指が長くて綺麗でもあるが、剣だこは出来てるし、小さな傷もある。
几帳面なヒューバートらしく、爪は短く切り揃えられ、しっかりと整えられている。
「ヒューは、爪の先まで几帳面だな」
「……クオンを傷つけたくないからだ」
俺がそう感心していると、背後でふんっと鼻を鳴らしたヒューバートから、やけに甘ったるく熱のこもった囁きが耳へ吹き込まれる。
(僕、空気読める悪魔だからー)
俺が何となくヤバいなと思うと同時に、ディアベルはそう言って、どろんと姿を消してしまう。
「またのぼせて鼻血出すなよ?」
背中に感じる熱に、諦めてため息を吐いた俺は掴んだヒューバートの指先を、ディアベルを真似てあむあむと甘噛みして弄ぶ。
途端に背後から、ぐ、と妙な声が聞こえて、肩の辺りにお湯ではない何かが落ちて来て、俺は慌てて咥えていた指先を離して取り出したタオルをヒューバートの顔面へ押しつける。
「だから、のぼせる前に言えって……」
呆れを滲ませた俺の言葉は、一気に変わった視界によって途切れてしまう。
「貴様のせいだ!」
ダラダラと鼻血を出しながら俺を抱き上げたヒューバートは、そう声を荒らげて浴槽から立ち上がる。
「ディアベル、濡れたとことか頼んだー」
(頼まれたー)
のんびりとしたディアベルの答えを聞きながら、なんかこの間もあったなぁ、と既視感を抱きつつ、タオルをしっかりとヒューバートの鼻へ押し付けておいた。
お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m