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日常に忍び寄る影(ヒロイン)5

クオンは、甘えたい時に甘えるのを躊躇わないタイプです。


ヒューバートは泣き虫ですが、甘やかす時には全力で甘やかしてくれます。


このカップルは気をつけないと、すぐR指定入っちゃいます(。>﹏<。)

「私のいるお店はガルデニアっていう奥の方のお店だからね! サービスするから、絶対来なさいよ?」

 そう言ったミンシヤは、俺に断る暇も与えず衛兵に護衛されて帰っていってしまった。

「まさかのガルデニアか……」

 断り損ねたのは心揺れた訳ではなく、出て来た店の名前が前世で男娼として働いていた店で驚いたせいだ。

「あー、でもこれで姉さんに会えるかも」

 小声でそう呟いて、懐かしい記憶の中の『姉さん』を思い出していると、周りの衛兵達から微笑ましげに見つられている事に気付く。

「いやー、若いねー」

「身請けするんなら、早くしてやれよ」

「まぁガルデニアは良心的な高級店だ。酷い扱いはされてないから心配しなくていいさ」

 かけられる言葉から、俺とミンシヤがそういう仲だと勘違いされたと気付くが、訂正するのも面倒なので曖昧に笑っておく。

「日が暮れる前に、現場まで案内します」

「そうだったな。とりあえず犯人は一人で、ゴブリンは三匹だったか?」

 年嵩の衛兵の確認に頷いて返した俺は、ゴブリンの状態を思い出して一言付け加えておく。

「はい。ゴブリンは凍らせてありますが、現場で焼くことも可能です」

「ゴブリンは死体に使い道も無いからな。そうしてもらうか。まぁ、現場を見てから考えよう。私の他に三名付いてきてもらえるか」

「「「はい!」」」

 あの門番の男に爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいの仕事熱心な返事に、俺はなんとなく安堵の息を吐く。

 比べること自体こちらの衛兵達に失礼だと思い至った俺は、笑って誤魔化して衛兵達と連れ立って歩き出す。

 今日はもう依頼を受けるのは諦めた。

 まぁゴブリン三匹と、あの素行不良冒険者の捕獲で多少点数は稼げたのではないかと思いたい。

「君が捕らえてくれた冒険者の男は、何度か同じことをしでかして娼婦達からも訴えはあったんだが……」

 道すがら年嵩の衛兵からは、苦々しい表情でそんな説明をされた。

 その表情とあの男の態度から、娼婦達の被害の訴えは真剣に受け取られず揉み消されていたことを察してしまい、俺は気付かれないよう拳を握り締めて何とか笑っておく。

「今回は現行犯で捕まえられて良かったです」

「これで少しは懲りるといいんだがな」

 年嵩の衛兵の言葉に、付いてきてくれている三人の若い衛兵達も大きく頷いている。

「男の風上にもおけない奴だ」

「遊んで欲しいならきちんとお金を払わないと」

「そもそも娼婦だと蔑むのが間違ってるだろ」

 門へ向かう間、ずっとそんな会話をしていると、何処からかみゃーと鳴き声が聞こえて来て、肩の上にすっかり慣れた温もりと重みが帰って来る。

「お帰り、ディア。怪我はしてないか?」

(僕さいきょーだもんー)

 ディアベルに限って離れていて寂しかった訳ではないだろうが、やたらとスリスリと甘えてくるので遠慮なく撫でてやっていると、衛兵達から驚愕の視線が突き刺さってくる。

「すみません、俺の従魔です。ゴブリンの残党がいないか、少し周りを警戒してもらってたんです」

「賢くておとなしそうな魔獣だが、首輪はしてないのか? 間違えて攻撃されるかもしれないぞ?」

 心配してくれている様子の年嵩の衛兵からの忠告に、俺はしっかりと頷いて、ディアベルの首へひとまず青いハンカチを巻いておく。

「そう、ですよね……そこまで気が回りませんでした。今日のところは、こうしておきます。心配かけてすみません。ありがとうございます」

 おとなしくハンカチを巻かれたディアベルを抱いて頭を下げた俺は、年嵩の衛兵からポンポンと優しく頭を撫でられる。

「素直なのはいい事だ。さぁ、日が暮れるまでに帰って来るぞ。君はまだ走れるか?」

「大丈夫です」


「お前らも行けるな?」


「「「もちろんです!」」」


 体育会系な爽やかなノリで、現場までは走っていく事に決定したようだ。

 走ることに夢中になったおかげで、門にいた男の事など、全く思い出しもしなかった。

 夕日に向かって走れ的な事にはならず無事に夕暮れ前にはゴブリン(氷漬け)の現場に到着出来たのだが、そこには俺達以外に先客がいた。

「ヒューバート様、何故このような場所にいらっしゃるのですか?」

 年嵩の衛兵が緊張した面持ちで先客へ話しかけるのを視界の端に入れながら、俺は二人から距離をとるように氷漬けにしたままのゴブリンへと近づく。

(どうしたのー)

「いや、なんか今顔まともに見たら、抱きついて離れられなくなりそうだ」

 年嵩の衛兵が呼んだ名を聞くまでもなく、恋人である美人さんの姿は見つけていたが、思いの外甘えたい気分になっていた自分に気付いて少し凹む俺。

 そんな落ち込んだ俺を見た付き添い組の三人の衛兵達は、見た目迫力美人な恋人に怯えていると思ったらしく励ますように三方向から遠慮なくバンバンと叩いてくる。

「あの方は身分をひけらかすような方じゃないから心配するな」

「見た目は美し過ぎて恐れ多いけどな」

「おいおい、聞こえたらどうするんだ」

 そんなフォローなのか励ましなのか微妙な台詞と三人からの心遣いに、俺は自然と頬を緩める。

 そんな俺の様子を見た衛兵達の顔にホッとしたような色が浮かび、そのままの表情で一気に凍りついた。

「っ、申し訳ございません、しっかりとこちらで指導いたしますので、どうかお叱りは私へ……」

 首を捻った俺の耳に聞こえたのは、背後で年嵩の衛兵の謝罪する声と、向かい側で凍りついた表情をした三人が小さく息を呑んだ音だ。

「クオン」

 名前を呼ばれただけで少し泣きそうな気分になった俺は、もう開き直って思い切り甘えることにした。

 どうせ今の見た目は年下なんだし、多少甘えても構わないだろう。

「ヒューバート」

 振り返ると年嵩の衛兵がヒューバートの隣で何か言ってくれているが、俺は気にせず数歩の距離を一気に詰めて思い切りよく抱きつく。

 脱いだらすごいバッキバキな肉体としっかりとした体幹のヒューバートは、微動だにせず抱きついて来た俺をギュッと抱き締めてくれた。

 気にしていないつもりだったが、まだ少しだけ纏わりついていた過去の残滓が、全て消えていく気がして俺はほぅとため息を吐く。

「……どうした?」

 初対面の相手ならともかくヒューバートが俺の異常に気付かない訳がなく、大きな手が頬を撫でてくれる。

「甘えたい気分だったんだよ。駄目か?」

 先程のディアベルのようにヒューバートの手へ頬を擦り付ながら、前世より物理的に少し離れてしまった美しい青の瞳を覗き込んで甘えてみた。

「いや、可愛い」

 返ってきたのは優しく蕩けるような微笑みで。嬉しくなった俺はそのまま甘やかしてくれる手に存分に甘えておく。

「ご、ごほん、ごほんっ」

 そんな時間を終わらせたのは、わざとらし過ぎる咳払いで、俺はやっと今の状況を思い出す。

 状況も忘れて甘えてしまった照れ臭さに、俺は笑って誤魔化しながら、顔だけで咳払いの主を振り返る。

「すみません、日が暮れるまでに帰らないといけませんでしたね」

「いや、その、まぁ、そうだ……ですね」

 咳払いしていたのは、強張りまくった表情をした三人組の一人で、咳払いのちょっと前にはじゃんけんをしてたっぽいから、彼が負けたんだろう。

 その彼がどもりながら、ヒューバートを気にして妙な口調で答えながら、壊れた人形のように頷いている。

「ヒューは、多少口が悪いぐらいは気にしませんよ」

 どれだけ怖がられてるんだ、と美人過ぎる恋人を振り返った俺は、その表情を見て納得してしまう。

「なんて顔してるんだよ。衛兵さん、怯えてるだろ」

 振り返ってみるとヒューバートは、何人かヤりましたと言わんばかりの顔で衛兵達を睨んでいたので、手を伸ばしてその頬をむにむにと揉んでいく。

 ディアベルに比べて柔らかさはいまいちだが、手触りは最高だ。

「どうします? 砕くか、このまま焼き尽くしてしまいますか? そういえば、あの男の人もいましたね」

 ヒューバートの表情が少し緩んだので、俺はゴブリン(氷漬け)の方へ歩きながら、未だに動きの悪い衛兵達を振り返る。

 ちなみに俺が歩くと、雛鳥のようにヒューバートも付いてきている。その手はがっちり俺の腰を掴んだままだ。

「ヒュー、歩きにくい」

「駄目だ。また触られるかもしれない」

「男同士なんだし、あれぐらいよくやるノリだろ。ヒューだって、学生時代とか……」

 俺に叩かれてたと言いかけて、衛兵達の不審げな眼差しに気付いて、言葉を飲み込む。どう見ても今の俺はヒューバートの同級生には見えないだろう。

「私は貴様以外に触らせない」

 背後からギュッと抱き締めてきたヒューバートによって動きを封じられてしまったので、俺は視線だけをゴブリン(氷漬け)へ向ける。

「燃やしちゃっていいですか?」

(僕あっち殺りたいー)

 おとなしくしていたと思ったら、ディアベルがそんな事を言い出して、すっかりグッタリして動かない中年冒険者の方へ行こうとする。

「駄目だ。……すみません、うちの子が遊びたくなるみたいなんで、先にあの男落としますね。たぶん動く元気はないと思いますが……」

「了解した。やってくれるか」

 年嵩の衛兵は何とか元のような態度に戻ってくれ、素早く指示を出してカチコチな三人を配置につかせる。

「……多少痛い方が抵抗しなくていいか」

 枝から落とす方法を一瞬悩んだが、もともと犯罪者なんだから気を使う方がおかしいな、と思い直して一気に男を拘束していた蔓を解いてしまう。

 魔力量が増えたおかげで、これぐらいの芸当ならほとんど魔力が減った気がしない。

 ドスンといったり、ぐぅふ、とか聞こえたりしたのは、気のせいだろう。

「疲れているところ悪いが、ゴブリンは燃やしてもらいたいのだが頼めるか?」

「大丈夫ですよ」

 あの冒険者は衛兵達からしっかりと拘束されてしまい、ディアベルは不満げに鳴いている。万が一逃げてたら、ディアベルが間違えちゃった(てへ)で殺していたかもしれない。

 逃げ出しそうなのでディアベルを抱えながら、俺はゴブリン(氷漬け)へ改めて視線をやる。

 かなり念入りに凍らせてしまったので、火力はしっかりと、内部から燃やし尽くすイメージでいくことにする。

「衛兵さん達、近づかないてくださいね。ヒュー、延焼はしないと思うけど、警戒だけしといてくれ」

 衛兵とヒューバートへ注意を促してから、ゴブリン(氷漬け)へ向けて手をかざすと、地面から立ち上がった青い炎が一気にゴブリン(氷漬け)を飲み込む。

(燃ーえろー燃えろー)

「気が抜けそうなんだが」

 気の抜けるディアベルの歌声に突っ込みながら、俺はしばらく炎へ魔力へ注ぎ続けて維持し、揺れる炎越しにゴブリンの様子を窺う。

 氷は全て溶け切り、氷漬けだったゴブリン達も燃え尽きたようなので、俺は炎を消す。魔法で生み出した炎は消えるのも一瞬だ。

 制御も上手くいったのか、焦げたのは最小範囲で済んだようだ。耳まで焼き尽くしてしまったのは、仕方ないと諦める。

 衛兵達から離れて周囲も延焼してない事を確認していると、相変わらず雛鳥のように付いてきていたヒューバートが背後から抱き締めてくる。

「料理をしていた時にも思ったが、魔法の腕も魔力量も上がってるな? こんな短期間で一体何をした?」

 他の人間が聞けば詰問されているような厳しい声音だが、俺にとっては心配してくれているのが丸わかりの不安そうな声にしか聞こえない。

 そうにしか聞こえてないのだが、その質問は今はなかなかに答えにくい質問だ。

「家に帰ってからでもいいか? ちょっとここだと答えにくい」

 異世界転生からの転移者だとかもあまり聞かれたくない内容だが、ヒューバートの体液云々という事の方が俺としては第三者のいる前では話しにくい。

「わかった。……私達はもう帰っても構わないな?」

 言い淀んだ俺に、俺に関してだけ心配性拗らせているヒューバートは、思い切りマイナスな想像をしたらしく、抵抗する間もなく横抱きで抱え上げられてしまった。

「はい、後処理はお任せください」

 年嵩の衛兵が苦笑いを隠さずに答えてくれたが、その途中でもうヒューバートは動き出していた。

 一気に変わる視界の中、三人の衛兵達に拘束されて歩かされる中年冒険者が見えたが、すぐに見えなくなった。

「ヒュー、歩けるというか、全然元気なんだけど、俺」

「私がクオンと触れ合ってたい」

 そう言われてしまうと俺も抵抗しづらく、おとなしく抱えられたままヒューバートの顔を下から眺めておく。

(クオン、何見てるー?)

「うん? どの角度から見ても美人さんな俺の恋人の顔だな」

 ディアベルの問われたので素直に答えただけだったのだが、明らかに俺を抱えるヒューバートの手に力がこもったのがわかる。

(僕も見てー)

 ドロンッという久しぶりに聞いた気の抜ける効果音と共に黒猫は姿を消し、蝙蝠のような羽根の付いた美幼児が姿を現す。

「はいはい、ディアは可愛いよ。こんな可愛い幼児は初めて見たなー」

(えへへ、照れるなー)

 少々おざなりながらも褒め言葉は事実なので、ディアベルは嬉しそうな表情で俺の腕の中へ飛び込んでくる。

「そうだ、今度首輪買いに行こうな? 黒猫姿だと、別行動する時(周囲が)危ないかもしれないから」

 ドロンした時に外れたハンカチをポケットにしまいながら、俺はディアベルへ向けて自らの首を突いて見せる。

(いいよー。クオンもお揃いで着けるのー?)

「いや、俺は……」

 苦笑いで否定しようとした俺だったが、俺を抱えて走るヒューバートの挙動不審過ぎる視線に気付いて言葉を途切れさせる。

「ヒュー、もしかして、俺に首輪着けたいのか?」

 前世でも今世でもそういう趣味嗜好の人間がいるのは知っていたが、ヒューバートがそうだとは思わなかったので、純粋に驚いてヒューバートの整った顔を見つめてしまう。

「ちが……わなくもない……いや、やはり違うな。私はただクオンが私のものだという証が欲しい」

 駆け抜ける速度を緩めたヒューバートの指が、俺の首筋を撫で、耳を撫で、最終的にそっと俺の指へ絡んでくる。

「……俺の恋人が可愛過ぎるんだが」

 思いがけず可愛らしいヒューバートの行動に、俺は思わず空いてる方の手のひらで赤くなっているであろう顔を覆い隠す。

「可愛いのはクオンだ」

(耳赤いー)

「……肉体言語的なのは慣れてるけど、こういうあからさまな恋人っぽい扱いは慣れてないんだよ」

 二人がかりでのからかうような言葉に、俺は手のひらで顔を覆ったまま照れ混じりにボソボソと力なく反論しておく。

 まぁヒューバートは素なんだろうけど。

 俺の答えを聞いたヒューバートの方から、ぐっ、と堪えるような声が聞こえ、内心首を捻って指の隙間から様子を窺うが、ヒューバートの視線はすでに進行方向へ向けられていた。

「……速度を上げる。舌を噛まないようにしろ」

「あ、ああ」

 今の発言の何処かに心配を増させる要素あったか、と内心首を捻っていると、お腹の上に乗せているディアベルからジトーッと見られていた。

(クオン、なんで時々ポンコツー?)

「……悪かったな」

 前世でもたまに言われていた『頭いいが馬鹿なやつ』という悪口が脳裏を過ぎっていく。

「クオンはそこを含めて可愛い!」

「……えぇと、ありがとう?」

 別に傷ついた訳ではないが、ヒューバートから全力の反論という名の褒め言葉が来てしまい、俺は複雑な気分でお礼を言う。

(クオン、真っ赤ー)

 思いがけず自分の弱点に気付いてしまった俺は、さらに真っ赤になった気がする顔を手のひらで隠しておいた。

お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m


ヒューバートがあそこにいた理由は、クオンの魔力(氷漬けゴブリン)を変なところで感知したので、気になって見に来た←本編に入れ忘れました。

次話以降に入れられたら、コソッと入れたいデス。

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