日常に忍び寄る影(ヒロイン)4
ご注意ください!
今回は自分で書いておきながら、胸糞悪いのでご注意ください。
主人公愛され主義ですが、時々主人公痛めつけたくなるタイプで申し訳ありません。
直接的ではないですが、過去に主人公がお相手以外にあーれーされた表現の匂わせがあります。
自分で書いたのに、相手をぶん殴りたくなりました。なんで書いたのでしょう。
苦手な方は、本当にご注意ください。私は苦手なのに、何故か書いてしまいました。
あと最後はグロ注意です。
反動で次話はラブラブ予定です。
「あー、どうするか……っても、見たからには助けないと気分悪いよな」
(正義の味方ー?)
「そんな高尚なものにはなる気はないさ」
俺とディアベルが枝の上で気配を消してそんな会話をしている間にも、少女は捕まってしまいそうだ。
それに気のせいでなければ、少女の悲鳴に惹かれたのか、森の奥の方から何かがやって来ている。
「さっさと片付けて、冒険者ギルドへ行くぞ? しっかり掴まってろ」
(りょー)
ディアベルの気の抜ける返事を聞いてから、俺は枝の上から飛び降りる。風魔法で勢いを殺しつつ、追いかけられていた少女と男の間へ割り込む形で着地する。
「お兄さん、ナンパならもっと穏やかに安全な場所でした方がいいと思いますよ?」
(そのいい子モードまだやるんだー)
ディアベルの俺にしか聞こえない突っ込みは無視し、血走った目をしている男を油断なく見つめながら、人懐こく見えるように笑って見せる。
俺が笑って見せたのは男を煽る目的も少しはあるが、背後で怯えている少女を落ち着かせるためだ。
少女もそれを察してくれたのか、俺の背後に隠れるような位置へ移動してくれている。
「邪魔するな! その女は体を売って生きるような下賤な女なんだ! どうしようが勝手だろう!」
冒険者らしい鍛えられた体つきのむさ苦しい見た目の男は、地団駄を踏みそうな勢いで叫んで、俺の背後に隠れた少女を振り返る。
「……こう言ってるけど、この人お客さんでこういうお遊びの最中でした?」
「違うから! 確かに私は娼婦だけど、いきなり道で絡まれて、連れ込まれそうになって逃げてたのよ!」
今の俺と同年代ぐらいに見える可愛らしい少女は、ぶんぶんと大きく首を横に振って、俺の服をしっかり掴んでくる。
「てことで、お兄さん、こういうお遊びしたいなら、きちんとお店でお金を払わないと」
「うるせぇ! この際、お前が相手をしてくれてもいいぞ? なかなか可愛い顔してるじゃねぇか」
(クオン、もってもてー)
からかってくるディアベルの額を小突いた俺は、ため息を吐いて男を見やる。
「残念だけど、俺は面食いなんで。あと、弱い相手にしか強がれないような奴は、人としても付き合いたくない、んで!」
語尾を跳ね上げさせた俺は、地面へと一気に魔力を流す。変化はすぐに起こる。
「な、うぇ、ぎゃーっ!?」
先程の少女より大きな悲鳴を上げた男は、足下から突然生えてきた複数の太い蔓に締め上げられ、そのまま中空へと持ち上げられてしまう。
「なにこれ!?」
「俺の魔法ですから、慌てないで」
怯えて背中から抱きついてきた少女に優しく告げ、俺は持ち上げた男をぐるぐる巻きのまま枝から吊り下げておく。
これぐらい持ち上げておけば、しばらくは大丈夫だろう。
「申し訳ないですが、もうしばらく俺にしっかりしがみついててもらえますか」
「な、なによ、あなたもそういう類だったのね……」
ガッカリしたのが丸わかりの声音の少女に、俺は苦笑いするだけで何も答えない。
それより気にかけるべき存在が足音を立てて近づいてきていたからだ。
「な、なに!?」
「俺から離れなければ大丈夫ですから、落ち着いて」
「わ、わかったわ」
幸いにもこの少女は頭のいい子らしく、パニックになりかけても俺の言葉にきちんと従ってくれた。
聞こえてくるのは複数の足音と、ギャギャ、という可愛げの全くない複数の鳴き声だ。
「……ディア、恨むぞ?」
(えへへー)
何故かドヤ顔をしている黒猫の鼻先をくすぐってから、俺は鳴き声の主であるゴブリンを油断なく待ち構える。
木の枝からぶら下げられて、ほげほげいっている物体はとりあえず完全に思考の外へ追いやる。
「お嬢さん、目を閉じててくださいね」
「……ええ」
何かが来てるのは少女にも理解出来たらしく、おとなしく俺の背中へ顔を埋めてくれたようだ。
それを待っていた訳では無いだろうが、計ったようなタイミングで少し離れた位置の茂みを掻き分けて、数匹のゴブリンが姿を現す。
この距離でも臭いそうな見た目の愛らしさの欠片もない緑色の小鬼達は、悲鳴を上げていた少女を探しているのかキョロキョロと辺りを見回し、濁った目に俺の姿を映す。
ああ、気付かれた。
気付かれたからには、殺すしかない。
木に吊るした男の方は、空気を読んだのか静かになったため、ゴブリンにはまだ気付かれていない。
「ディア、他に気配は」
(ないよー)
「じゃあ、一気にいくか」
リーダー格らしい少し大きめのゴブリンが何事か指示を出すが、当然俺に待つ義理はなく、一気に魔法を行使する。
少女がいるので、あまりグロい殺し方はしない方がいいだろうと俺が選択したのは──。
「凍りつけ」
シンプルに一気に凍らせてしまう方法だ。
無駄に透明度の高い氷の中、ゴブリンが三匹。体の内部まで凍らせたつもりはなかったのだが、様子を窺った限り一瞬で絶命したようだ。
(中まで凍ってるー)
「……冷凍マグロ想像したせいか?」
(魔力量増えたせいもあるかもー)
「あぁ、そうか。力加減気をつけないといけないな」
少女を背中に張り付けたまま、ゴブリン(氷漬け)に近寄って足下に落ちていた適当な石で氷を叩くが、ほとんど削れる気配もない。
「誰と喋ってるのよ?」
安全になったことで独り言めいた俺の呟きが気になったのか、少女から不審さを隠さない視線を向けられて、俺は苦笑いしながら少女へ向き直り、黒猫姿のディアベルを撫でて見せる。
「すみません、コイツとです。俺の従魔なんですよ」
(従魔だにゃー)
あざと可愛らしい仕草で猫らしくみゃーと鳴いたディアベルを見て、怯えていた少女の表情が緩む。
アニマルセラピー様々だ。
「猫の魔獣?」
「ええ。知能が高く、人の言葉を理解してくれますし、索敵も得意なので頼りになる相棒です」
(僕さいきょー)
言葉がわかるアピールなのか、たしっと右前足を挙げて挨拶をしたディアベルに、少女は今度こそ小さく笑ってくれる。
「歩けますか? 街から衛兵を呼んで来ようと思うんですが……」
「ゆっくりなら大丈夫よ」
ディアベルの前足にちょんと触れて挨拶をしていた少女は、少し疲れた様子ながらも大きく頷いてくれたのだが……。
「……少し急ぎたいので、俺の背中に乗るのは大丈夫ですか? お嬢さんをここに置いていく訳にもいきませんし」
「いいわ。君が……えぇと、私はミンシヤよ。ミンって呼んで。話がそれたわね。君が今さら何かするとは思わないから、甘えさせてもらえる?」
本来は勝ち気な質らしく、少女──ミンシヤさんはふん、と顎を持ち上げて悪戯っぽく笑って見せる。この様子なら大丈夫だろう。
「名乗るのが遅れましたね。俺はクオンです。駆け出し冒険者してます。よろしく、ミンさん」
「呼び捨てで構わないわよ。同い年ぐらいでしょ。私もクオンって呼ぶから」
「では、遠慮なく。ミン、しっかりしがみついて、舌を噛むのでなるべく口は閉じていてください」
「わかったわ、クオン」
不快ではない勝ち気さの垣間見えるミンシヤの返事に小さく笑った俺は、ミンシヤへ背中を向けて身を屈める。
躊躇う間もなくしがみついてくれたのを確認して、俺はゆっくりと立ち上がる。
場合によってはこっそり魔法で身体強化をしようかと思ったが、問題なく走れそうだ。
(僕飛んでくねー)
ミンシヤがしがみつく時に飛び立ったディアベルは、そう宣言するとパタパタと翼を動かして俺達から少し離れた位置へ移動する。
「では、行きます。なるべく揺らさないようにしますが、具合悪くなったりしたら遠慮なく合図してください」
「ええ、わかったわ。こちらこそ、街までお願いね」
(僕はモンスター追い払っとくー)
ディアベルの言葉に目線で頷いた俺は、頼む、とだけ唇を動かして、街へと向かい走り出した。
●
背中にしがみついているミンシヤへ気を遣い、なるべく全速力という言葉にすれば意味がわからなくなりそうな事を心がけながら走った結果、思ったよりは早く街の入口まで辿り着けた。
「ミン、具合は大丈夫ですか?」
背負っていたミンシヤをそっと地面へ降ろしてあげながら、そっと顔色を窺い見ると、思ったより元気そうな笑顔に迎えられる。
「ええ、クオンが気を遣ってくれたから、馬車より快適だったかも」
ペロッと舌を出して見せる顔は、年相応で可愛らしい。その笑顔を見ていた俺は、ふと思いついて、まだ少し離れている街の入口でもある門を見やる。
「それは何より……で、今気づいたんですが、門を通って外へ出たなら、何故門番は助けてくれなかったんでしょう?」
「たぶんあのゲスな男が金を握らせたか、私が商売女だからって放置したんじゃない? 助けてくれたクオンの方が変わり者なのよ」
ふん、と鼻を鳴らして明らかにムカつくといった表情で門の方を睨むミンシヤ。
ミンシヤの視線を追った俺は、そこにあった見覚えのある顔に、思わずため息を吐く。
「……まだ生きてたのか」
俺の反応に気付いたのか、ふわふわと漂っていたディアベルが、俺の目の前へと飛んでくる。
(知ってるのー?)
「ああ。俺が生きてた頃にも、同じような目にあって、その時はアイツも参戦してきたんだよ」
もふもふなディアベルの脇腹に顔を埋めてボソボソと呟くと、何故かディアベルの体が膨らんだような気がして、俺はディアベルから顔を上げる。
(へぇー……。──ゲス野郎が)
常の鈴を転がすようなディアベルの声の後、とんでもない低音の声が聞こえた気がしたが、持ち上げてみたディアベルから聞こえるのはいつものんみゃんみゃな可愛い声だ。
「なんて言ったんだ?」
(クオンなら返り討ちにしてそう、って言ったのー)
ふわふわなディアベルを抱き締め、纏わりついてくる過去の残滓を振り払った俺はただ無言のまま微笑んでおく。ディアベルなら、わざわざ抉っては来ないだろ。
ヒューバートなら、遠慮なく全てを暴いてこようとしそうだが。
「行きましょう、クオン」
しばらく門の方を睨んでいたミンシヤは、つんっと顎を持ち上げて、ズンズンと門へと向かい歩き出す。
続いて俺も歩き出すが、ディアベルは飛びたい気分なのか、少し離れた中空をパタパタと飛んでついてきている。
「さっきはどうも!」
通行証を見せながら、あの男へ嫌味たっぷりな挨拶をして通り過ぎるミンシヤを見て、俺は重くなりかけた足を無視してゆっくりと歩いていく。
ミンシヤが通り過ぎる時に「失敗したのか」と聞こえたあたり、本当に相変わらずらしい。
「どうもご苦労様です」
俺を見て脂下がった男の顔を確認した俺は、ヒューバートの威光を使って少々脅させてもらうことにする。
「……先程は俺の友人が、大変お世話になったみたいですね」
ヒューバートの名前が刻まれた特別な通行証をわざとらしく見せつけながら、俺はにっこりと笑って男を見つめておく。
真っ青になった男を見て、ほんの少しだけ溜飲が下がる。ついでに、とてもヒューバートに会いたくなった。
呼び止められる事もなくミンシヤと共に門を通り抜けた俺は、そのまま衛兵の詰め所へ向かいかけて足を止めてミンシヤを振り返る。
「俺はこのまま衛兵の詰め所へ向かいますが、ミンは一人で帰れますか?」
「事情の説明には私がいた方が良いでしょ? そのまま衛兵さんに送ってもらうわよ」
門の方を睨んでいたミンシヤは、ふん、と顎を持ち上げて笑顔で喋り出した。誰かに聞かせるようにあからさまな大きめの声で。
小悪魔なミンシヤの可愛らしい仕返しに、俺は思わずプッと吹き出してしまう。
「その方が良いですね、ミンみたいな可愛い子は変態に追い回されるかもしれませんから」
さすがにミンシヤほど目立つのは無理だが、俺も乗っかって辺りへ聞こえるように返してから、ミンシヤの手を取って歩き出す。
「もう行くの?」
「逆恨みされても面倒でしょう?」
物足りないと顔に描いてあるミンシヤにクスクスと笑って返すと、それもそうね、と素直に頷いて俺の手をしっかりと握り返してくれる。
そのまま連れ立って歩き出したのだが、何かに気付いた様子でミンシヤがキョロキョロと辺りを見回す。
「猫ちゃんは?」
「え? ディア?」
ミンシヤに指摘されて初めてディアベルの不在に気付いた俺は、歩く速度を緩めて周囲を見渡すが、ディアベルの姿は何処にもない。
鳥と違って魔法で飛んでいるディアベルは羽ばたく必要がないため、羽音がしなくても違和感がなく不在に気付けなかった。
「……呼べば帰ってきますから」
ディアベルに限って何かにやられたりはないだろうし、もしかしたら何かヤバいモンスターがミンシヤの悲鳴で寄ってきてしまっていたのかもしれない。
あとすっかり失念していたが、今度黒猫姿の時は首輪を着けておこう。
最悪の場合ディアベルなら姿を消せるが、念には念をだ。
どうせなら、あの鈴を転がすような可愛らしい声のような、本物の鈴の付いた首輪がいい。
「そうよね、魔獣なんだもの」
そんな事を考えていると、ミンシヤは俺の言葉に納得した様子でうんうんと頷いている。
「見た目は可愛らしい猫ですけどね」
すっかり先程までの恐怖と怒りを忘れたようにころころと笑うミンシヤに、俺へ纏わりついてきた過去という名の暗闇も薄れていく。
一緒にいたのがミンシヤで良かったと、あの男には感謝してもらいたいものだ。
もしヒューバートなら──、
「跡形もなく消してくれそうだな」
冗談にならなそうな気がして、俺は不思議そうに見てくるミンシヤへ、なんでもないです、と返して緩めていた速度を戻して歩き出した。
●
↓
↓
顔馴染みの中年冒険者が、年若い商売女を追い立てて森へと消えたのをいつも通り『見送った』が、どうやらしくじって返り討ちにあったらしく商売女は見覚えのない若い冒険者の男と帰ってきた。
俺もたまに美味しい思いをさせてもらえるので見逃していたが、そろそろ潮時かもしれない。
何よりさっきの中年冒険者とは絶望的に趣味が合わないのだ。
俺の好みは青年になりかけぐらいの少年で、昔別の男と組んで襲った少年はまさに理想的な獲物で……。
そういえば、先程通った若い男の冒険者は、あの時の少年とよく似た瞳していて、なかなか──。
「なぁ」
思い出した煽情的な光景に興奮して無意識に唇を舐めていた俺は、突然声をかけられて思わず飛び上がる。
いくらボーッとしていても、近くには誰もいなかった筈だ。まだ交代の時間でもない。
慌てて辺りを見渡すが、誰もいない。
「なぁ」
また聞こえた。
やたらと響きのいい低い青年らしき声だ。
「誰だ! 何処にいやがる!」
叫んで腰の剣に手をかける。前線を退いたとはいえ、その辺のゴロツキには負けない自信はある。
気付くと周囲から音が消えていた。
まだ夕暮れには早いはずだが、やたらと暗い。
その暗がりの中から、ゆっくりと歩み寄って来る人影がある。
黒衣で全身を覆い、その髪までも真っ黒い長身痩躯の男。
近寄って来てやっと確認出来た顔は、人ならざるモノと言われても信じそうな金の瞳を持つ美しい男だ。
「僕は別に嫉妬深くはない。恋人が出来ても気にはしない。どうせ最後は全て僕の物になるとわかっているから」
歌うように意味不明な言葉を紡いでいくのは、先程から聞こえていたのと同じ声だ。
「な、なにを言ってやがる……っ」
思わず抜き放った剣先を向けても、男はその場から微動だにしない。
本物の黄金のように輝く金の瞳は、俺を映しているようで全く見ていない気すらする。
「──だからといって、僕の『物』を傷つけたゴミクズを許せる訳じゃない」
『出来るだけ苦しんで死ね』
それが俺が知覚出来た最後の言葉だった。
●
「おい、交代の時間だ……って、いないのか」
サボりかよ、と毒づいた男は、持ち場につこうとして異臭に気付いた。
立場的にも色々な修羅場くぐっていた男は、すぐに何の臭いか察してしまう。
異変を察して応援を呼んだ結果、異臭の原因はすぐに見つかった。
見つかった物は、もしかしたら・たぶん・おおよそ、それほどの言葉を重ねたくなるぐらいに損壊された人らしき肉片だった。
少しだけ残った頭髪や、爪のない指先などが、その肉片だったモノがかつて人だったことを辛うじて語っていた。
少しだけ騒がしくなったが、森の方で捕り物があったらしくこちらはあまり目立つことなく混乱は少なかった。
もともとモンスターに人間が食い殺される事は日常茶飯事の世界なのだ。
門番が一人死んだ事などすぐ忘れられるだろう。
同僚だったらしい死体の片付けをしながら、男は深々とため息を吐く。
その近くを年若い男冒険者が、肩に黒猫を乗せて通っていく。
「ざまぁみろー」
なんだか黒猫がそんな声で鳴いた気がし、男は大きく頭を振って、再び作業へ戻っていく。
遠ざかる冒険者の肩で、また黒猫がみゃーんと鳴いた。
──まるで嗤っているかのように。
気分を害した方がいたら、本当に申し訳ありません!
大まかなプロットだけ決めて、自由に書いていくスタイルなのですが、気付いたら書いてしまってました。
主人公は引きずるタイプではないので、ヒューバートに甘やかされればすぐ忘れると思います。奴と出会ったので、思い出しただけなので。
逆に、ヒューバートは……。
お読みいただき、ありがとうございました。
あまりに生理的拒否な方が多いようでしたら、サクッと削ってストーリー変えますのでm(_ _)m




