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トップギア  作者: 小林 彰人
デリバリーレース編
12/18

12話 試練

 


『新城、今日の17時から空いているか?』

 17時なら55分後か。なんだろうな。

 岡さんからの連絡は重要な話だろうと思い、『空いています』と返した。

 公園がある方にロードバイクを走らせると1分もしないうちに返事がきた。

 邪魔にならない所に止めて見る。

『新城、白銀ラーメンは分かるか?』

『ビル群を抜けた場所にあるラーメン屋ですね』

『合ってる。なら白銀ラーメンの前で集合しようか』

『分かりました』

 会話はそこで終わったため注文を受け始めた。


 あれから白銀ラーメン周辺のエリアに絞って5件ほど回っていた。

 集合時間の7分前に現地に着くと岡さんが店の前で待っていた。

 遅刻はしていないが、先輩よりも遅くきたことに罪悪感を感じる。

「遅くなってすいません」

「まだ17時になっていないから大丈夫だ」

「なら良かったです」

「せっかく来たし入るか」

「はい」

 そう言って岡さんと共に入店した。


 入口近くのテーブル席に座って頼んだ料理を待っていた。

「前はここで昼食を取っていたのか」

「はい。その後に八夫篠に行ったら体が重くて大変でした」

「災難だったな」

「はい」

 あの時はゲリラ豪雨に雷でどうなるかと思ったな。

「そういえば、岡さんは軽食で済ませていると言っていたんですがどのようなものを?」

「今日はこれだな」

 背中のポケットを探って取り出した。

羊羹(ようかん)だ」

 パッケージにはスポーツようかんと書かれている。

 ようかんか。学生の時によく食べたな。

 ロードバイクに乗る多くの人は軽食を携帯している。

 バー状のお菓子だったり、エナジーゼリーだったり、スイーツだったり。

 種類は様々だ。

「ようかんは定番ですね」

「そうだな。腹持ちがいいからおすすめするよ」

「お待たせいたしました。小さな白銀ラーメンです」

 女性の店員が料理をテーブルに並べる。

 前回の失敗を教訓として量は少なめにしておいた。

「岡さんはここに来たことあるんですか?」

 割り箸をわりながら質問する。

「あるよ。たまに来る。ここのラーメン美味しいからな」

 そう言って麺をすすった。


 仕事の話を交えながら食事を終える。

「ラーメン代は俺が払うわ」

 岡さんは伝票を片手に立ち上がる。

「流石にそれは――」

「奢りだ。配達頑張れよ」

 そう言って岡さんはレジに向かった。


 外に出ると雲ひとつない紺色の空が広がっていた。

 上にはほんのりと光る三日月が浮かんでいる。

 金曜日の夜だけあって人や車の通りで賑やかになっていた。

 時間を見ると17時27分だ。

 この時間からの注文多そうだな。

 スマホホルダーにスマホをセットする。

 岡さんが店から出てきたのを確認して話しかける。

「岡さん、ラーメンありがとうございます」

「おう。こっちから誘った話だし気にしないでくれ。ところで新城はデリバリーレースについて知っているか?」

 デリバリーレース。今一番聞きたくない単語だが、嘘を吐くわけにもいかない。

「はい。詳しい話は内田さんから聞きました」

「そうか」

 頷いてから話を続けた。

「内田さんから新城がどういう走りをするのか見てほしいと頼まれてな。

 コースの下見をかねて16日の14時、和泉広場に来てくれないか?」

 岡さんとガチで走ることになるのか?

 そうだとしたらまた筋肉痛になりそうだ。

 出来ればゆっくり走りたいが、奢ってもらった手前断れない。

「分かりました」

「突然で悪いな」

「いえ」

 苦笑いで返した。

 岡さんはロードバイクに乗り道路に出た。

「新城、16日和泉広場でな」

「はい」

 そう言い残して夕闇に消えていった。


 16日の13時48分、和泉広場に到着した。

 午前中は配達をしていたためデリバリーバックを担いでいた。

 今日はいくつか薄い雲が浮かんでいるものの晴天だ。

 配達もしやすいし、レースの下見をするのに持ってこいの天候だ。

 和泉広場はビル6棟を長方形になるように置いたような広さはあり、地面にはカラフルなタイルが敷き詰められている。

 両端には木とベンチが並んでいて、反対側からも入れるようになっている。

 レースでスタートして通る入口のそばで待っていると、2分後にこちらに向かう岡さんの姿が見えた。

 広場に着くと暑かったのかヘルメットを外した。

「来てくれてありがとな。もう1人来るしもう少し待っていてくれ」

「あ、はい」

 もう1人? 今日は俺だけじゃないのか?


 それから8分が経ち。

「来たか」

 岡さんの視線の先からロードバイクに乗った男性がこちらに向かってきていた。

 ブルーグレーの髪を揺らす男性は水色のサイクルウェアに同色のサイクルパンツを履いている。

 見た感じ青年だ。同い年か年下だろう。

 体型は細く、程よい筋肉がついている。

「遅くなりました」

 彼はそう言って寄ってきた。

 身長は170cm前半だろうか。

 フレームには”Bionchi(ビオンキ)”と書かれており、ファイートのデリバリーバックを担いでいる。

「こんちは。水河 獅(みずかわ れお)です」

「新城 回です」

 なぜ彼がここに? 

 どこか蓮と似たような匂いがする。

「新城、水河」

 岡さんの方へ視線を向ける。

「今日は2人の走りを見ることとコースの下見も兼ねて誘った。だが」

 直感した、気軽に走らせてもらえないと。

「俺を抜かすつもりでついてこい」


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