027 お留守番部隊の役職任命式と、3匹のコボルト英才教育と、名無しのルール
翌朝、レンは街への出発を前に、広場に散らばっているコボルトたちを一箇所に集めることにした。
「はいはい、みんな集合! 大事なお知らせがあるよ!」
レンの声を合図に、35匹のコボルトたちが砂塵を巻き上げながら素早くレンの前に集まり、綺麗に整列した。その統率の取れた動きには、『朝焼けの光』の面々も「ほう」と感心したように頷いている。
「え〜、今日から俺とアインス、フンフ、ツェンの3匹は、『朝焼けの光』のみんなと一緒に一度街に戻ることにした。大工さんをスカウトしてくるためだ」
「ワォン?(マスター、もうここには戻って来ないのワン?)」
フラットコーテッドレトリバー風のコボルト・フィアが、心配そうに大きな垂れ耳をさらにペタンと寝かせて尋ねてくる。
「もちろん、大工さんを連れてすぐに戻ってくるよ。だから心配しないで。その間、俺がいない間のこの村の留守番は、ドライが臨時の『隊長』になってみんなをまとめて欲しい。ツヴァイとフィアは『副隊長』だ。二人でしっかりドライを補佐するように。その下にゼクス、ズィベン、アハト、ノインの4匹がついて各班を統率してくれ。それから、ヘレナさんもここに残ってくれるから、ヘレナさんの言うことはちゃんと聞くようにね」
「ワンワン!(僕も街に一緒に行きたいワン!)」
ツヴァイが寂しそうに前脚をレンの膝にかけようとするが、レンはそれを優しく受け止めた。
「ツヴァイ、フィア、ドライ。君たちの実力に期待しているからこそ、この大事な村の防衛を任せるんだよ。残されたみんなをゴブリンから守ってあげるんだ。ゼクス、ズィベン、アハト、ノインも、それぞれの班をしっかり引っ張ってね」
「ガウガウ!(なるほど、マスターがいない間、俺がこの場所とみんなを完璧に守り抜けば良いんだなワン!)」
責任感の強いドーベルマン風のドライが、キリッと胸を張って頼もしく吠えた。
「その通りだ。ドライ、みんなで協力してゴブリンなどの襲撃から防衛するんだ。それから俺たちがいない間は、村の片付けと並行して、しっかり訓練も続けておくように」
「ワォンワォン(もし、私たちが留守の間に新しいコボルトが来たら、仲間にしても良いのワン?)」
コボルトメイジに進化したフィアが、エルダートレントの杖を抱えながら質問してくる。
「フィア、いい質問だね。もしゴブリンから逃げてきた野生のコボルトや、ここに新しく住みたいって言うコボルトがやってきたら、どんどん仲間に迎え入れていいよ。その時は、アインスたちと同じように生活魔法の『クリーン』でピカピカに綺麗にしてあげて、お腹いっぱいに美味しい食事を食べさせてあげなさい」
「ワォン!(了解だワン! 優しいお姉さんとしてお世話するワン!)」
フィアが嬉しそうに杖を掲げる。
「ゼクス、ズィベン、アハト、ノイン。俺が街から戻ってくるまでに、さらにたくましく成長している言葉(姿)を期待してるぞ」
「アフ!(任せてワン!)」
「ウワン!(了解だワン!)」
「ガフ!(期待しててワン!)」
「ウォン!(頑張るワン!)」
超大型もふもふ新入り4匹が、それぞれ個性を爆発させながら力強く返事をした。
「それから、昨日みんなで集めた農具や工具の武器も、好きに使っていいからね。木の棒に括り付けて槍の穂先にしたり、マチェットの代わりに使ったりして戦力を強化してよ」
「ガフガフ!(俺はさっそくこれを使うぞワン!)」
ワイマラナー風のコボルト・アハトが、山林用と思しき頑丈な「鉈」を器用に手に取ると、それを見たアイリッシュウルフハウンド風のゼクスとグレートデン風のズィベンも、競うようにして大きめの鉈を手にとって構えてみせた。ずらりと並ぶ大型犬種たちが鉈を携える姿は、なかなかに威圧感がある。
「アインス、もしもの時のために、残るみんなに回復薬を置いていこう。それから、いつもの焼き肉用の謎肉はマジックバッグに入ってるんだよね?」
「ワフワフ(そうだワン、ばっちり大量に入ってるワン)」
「じゃあ、回復薬と謎肉も置いていかないとみんなが困るから、そのマジックバッグごとドライに預けるか。ドライ、預けたよ」
「ワフ(分かったワン)」
アインスは首から提げていた小ぶりなマジックバッグを外し、ドライの首へと手際よく掛け直した。これで留守番部隊の兵糧と医療体制は完璧だ。
「ああ、それからみんなに最後にもう一つ。……ツェン(10)まで順番に名前をつけたけれど、これからはコボルトの数もかなり増えたからね。今後はただ仲間になっただけじゃなくて、訓練や防衛で目覚ましい『頭角』を表した優秀な者にしか、新しい名前は付けないことにします! みんな、俺に名前を認めてもらえるように頑張ってアピールしてね! ――以上!」
その言葉に、まだ名無しの新入りコボルトたちが「ウォン!」「キュン!」とモチベーションを高めて目を輝かせた。
「――ところでレンくん。ツェンの『従魔の首輪』はどうするのかな? 流石にそのライオンみたいな超大型コボルトを首輪なしで連れて行ったら、街の城門に入る前に衛兵に一斉に矢を射掛けられるわよ?」
出発の準備を見守っていたヘレナが、手元にカチャカチャと金属製の首輪を携えてレンに尋ねてきた。
「あ、そうですよね。街の冒険者ギルドに戻ったらすぐに買おうと思ってました」
「ふふん、テイマーズギルドを侮らないで。これでも元々はうちのギルドが専売で扱っていた定番商品なのよ。予備ならいくらでもあるわ」
「ああ、そうなんですね。それじゃあ、ツェンの分を一つ売ってください」
「ふふ、お金は良いわよ。お留守番のお礼代わり、持って行きなさいな」
「え、良いの? 有難うございます!」
レンはヘレナから気前よく譲り受けた頑丈な従魔の首輪を、チベタンマスティフ風のコボルト・ツェンの立派な首周りのタテガミをかき分けながら、しっかりと装着して固定した。ヘレナは過去に冒険者ギルドと一悶着あったようだが、レンはヤバいマシンガントークを警戒して、あえて深くは聞かないように努めた。
こうして留守番部隊に村の未来を託し、レン、アインス、フンフ、ツェンの4人は、『朝焼けの光』の馬車に再び乗り込んで辺境の開拓村を後にした。
帰りの道中は、行きと違って一切の寄り道をせず、馬車は街へと向かって真っ直ぐに突き進んだ。
しかし、その短い野営や休憩の僅かな時間すらも、コボルトたちの修行の時間に充てられた。
「ほらツェン! 懐に入られたら、その巨体と長い毛を活かして体当たりで押し返すのよ!」
「アインス、薬草の匂いを嗅ぎ分けながら、周囲の敵の気配にも常に耳を澄ませなさい!」
フェルダーとエリーの二人が、秋田犬風のアインスと、新入りのライオン顔・ツェンの二匹に対して熱心に英才教育(指導)を行い、
「フンフ、槍の突きはこうだ。――よし、今の軌道は完璧だ」
ゲイルは、お気に入りのシベリアンハスキー風コボルト・フンフに対して、道中仕込んできた槍術の仕上げ(マンツーマンレッスン)を黙々と施していく。
プロのBランク冒険者たちから直々に濃厚な指導を受ける三匹は、恐ろしいほどの速度でメキメキと戦闘技術を上達させていくのが、素人目のレンから見てもはっきりと分かった。
ちなみにレンはというと――。
「よし、みんなが訓練でお腹を空かせて戻ってくる前に、謎肉の特製スープとホルモン焼きを大量に仕込んでおかないとな!」
大所帯の食事係(料理番)としてひたすら大忙しだったため、今回も戦闘訓練には一切参加させてもらえないレンなのであった。




