143 名工キンジューと流星の黒刃! 九頭竜の牙が導く最凶のマチェット
レン一行は、熱気と金属の匂いが立ち込める名工キンジューの鍛冶場を訪れていた。
今回レンに同行したメンバーは内政居残り組を除いた精鋭たちだ。
国王レンの護衛兼側仕えであるロジーナ。
そして直属護衛であるアハト(ワイマラナー)とドライツェン(ジャーマンシェパードドッグ)。
大将軍ヴァイシュラと、その相棒フィルツェン(ブラッドハウンド)。
軍師サンディと、彼女のたっての希望で護衛となったノイン(ボルゾイ)。
さらには前衛を固める将軍フェルダー、弓術士騎士団長エリー、魔法師団長ダリア、槍術士騎士団長ゲイルという、そうそうたる顔ぶれである。
「こんにちは〜! ここはキンジューさんの鍛冶場と伺ったのですが〜! キンジューさんはいらっしゃいますか〜?」
レンが入り口から声を張り上げるが、奥からは――
――カーン! カーン! カーン! ――
と、地響きのような、しかし極めて規則正しくリズミカルな槌の音が響き渡るばかりで、返事がない。
「レン、やっぱり事前に先触れを出しておいたほうが良かったんじゃない?」
「そうねぇ。職人魂に火がついている最中なら、私たちの声なんて全く聞こえてないでしょうね」
エリーとダリアが呆れたようにレンにつぶやく。
「いやぁ、直接アポ無しで訪問して、普段のガチの仕事ぶりをこの目で生で見たいって言い出したのは、そもそもエリーだろ?」
「うぐっ……そうだけどさぁ」
「よし、挨拶代わりに俺がちょっと奥まで行って声をかけてくるよ」
フェルダーがそう言って、豪快に鍛冶場の奥へと足を踏み入れて行った。
それからしばらくして、フェルダーが二人の鍛冶師を伴って戻ってきた。
驚いたことに、現れた鍛冶師は二人とも、全身が燃えるような真紅の鱗に覆われた「リザードマン」であった。
(へえ、リザードマンの鍛冶師か……。この世界じゃかなり珍しいよな)
レンは物珍しそうにジロジロとその姿を見つめる。すると、その視線に気づいたサンディが、レンの耳元へ口を寄せて小声で囁いた。
「レン様、キンジュー殿は世界でも極めて希少な『ファイヤーリザードマン』の生まれなのです。先代の偉大なる師セイシュー様の死後、そのリザードマンという種族を理由に、本国の無能な人間どもから迫害を受けてエチラルを追い出された過去があります。くれぐれも、その種族についての無神経な質問はなさらないでくださいね」
「あ、ああ。もちろん分かっているよ」
レンは静かに頷いた。
(僕にとっては種族が人間だろうがリザードマンだろうが、モフモフだろうが関係ないからね。要は、そこに確かな実力と職人の誇りがあるか否か。それだけが重要さ)
「――何だあんたら。儂等は今、手が離せんほど忙しいんじゃ。用のない者はとっとと帰れ」
低いドラゴンのような声でキンジューが威嚇するように言う。
「そうですよ! うちの親方が誰だか知ってて押しかけてきたんですか? 稀代の名工、あのキンジュー様ですよ!」
若い弟子らしきリザードマンも、新参の人間たちを追い払おうと語気を強める。
「ええ、もちろん知っているからこそ、こうして直々に最高峰の依頼に赴いたのですよ」
レンは一歩前に出て、キンジューの鋭い爬虫類の瞳を真っ直ぐに見据えて微笑んだ。
「ふん。……で、一体誰が使う武器を求めておるんじゃ? 儂の鍛え上げた武器は、使用者を厳格に選ぶぞい。軟弱者が持つような、ただの見掛け倒しの飾りじゃあない」
キンジューはレンの細い腕を見て、ジロリと値踏みするような視線を送る。
(あはは、完全に『お前みたいな戦えないひ弱な男の武器なんか作りたくない』って顔をしてるな。いいよいいよ、どうせ僕は戦いませんからねぇ)
「僕ではなく、この子たち――コボルトたちが使う武器です」
レンがパッと手を引くと、背後に控えていたアハトとドライツェンがすかさず前に出た。
「ガフガフ!」(どんな硬い魔物でも一刀両断に斬れる、最高の武器が欲しいワン!)
「わんわん!」(じいさん、俺たちの体格に合う極上の武器を作ってワン!)
アハトとドライツェンが力強く吠えながら、キンジューの前にその逞しい身体をアピールする。
「……ほう。ただの魔獣かと思えば、随分と良い肉体、それに恐ろしく筋の通った腕が立つ構えをしておるな。武器の価値が分かりそうな眼じゃ」
キンジューの目が、職人としての鋭さを帯びる。
「わんわん!」(おいおい、俺の分も忘れてもらっちゃ困るワン! 武器を作ってワン!)
「ウォンウォン!」(私も大将軍の相棒として、最高の得物を所望するワン!)
それを見たフィルツェンとノインも、負けじと「僕たちにも作って!」とばかりに前へとアピールしに行く。
「この子たちが先般、あの凶悪な『九頭竜』と死闘を繰り広げたのですが、残念ながら今持っている武器の性能では、奴の強固な鱗と肉にあと一歩、歯が立たなかったのですよ。今回作って欲しいのは『マチェット(鉈剣)』です。アハト、いつも使っているマチェットをキンジューさんにお見せしろ」
「ガフガフ!」(これが普段使っているマチェットだワン!)
アハトが腰から愛用の得物を取り出し、キンジューの前に差し出した。
キンジューはその刃を手に取り、親指で軽く刃渡りを撫でると、鼻でフンと笑った。
「ふむ……腕の良い錬金術師が丁寧に作った武器なのは確かじゃな。じゃが、材質がただの『鉄』と『鋼』か。この程度の純度では、いくら腕が良くとも九頭竜の神話級の肉体には到底、歯が立つまいて」
「そうなんですよ。だからこそ、今回は材料をこちらで用意しました。これでお願いします」
レンはそう言うと、空間を歪めて超大型のマジックバッグから、先ほど解体したばかりの、禍々しくも圧倒的な魔力を放つ『九頭竜の牙』と『特大の爪』をゴトリ、と重々しい音を立てて頑丈な作業台の上に並べた。
「なっ……! ほう、これは紛れもない九頭竜の……! 本当にあの化け物を討ち取ったのじゃな。これほどの素材があれば、極上の属性武器が作れそうじゃ。……ふむ、見たところ希望する数は、ここにいる4匹の分の『4本』じゃな?」
「いいえ。予備も含めて、精鋭ナンバーズ全員分の『20本』を作って欲しいのです」
「に、20本だと……!?」
キンジューは驚愕のあまり、リザードマン特有の縦長の瞳孔を限界まで見開いた。
「馬鹿を言うな! 儂の作刀はそこらの安物とはワケが違うぞい! 必要な手間も、魔力も、対価も桁違いじゃ。そこらの大貴族ですら、一生をかけて1〜2本を特注するのが限界じゃろうて。おい若造、それほどの大金を本当に主の一存で払えるのか?」
キンジューが詰め寄るが、横から軍師サンディがふっと不敵な笑みを浮かべて、彼の前に進み出た。
「キンジュー殿、ご安心を。この方はアレス王国を統べる国王、レン様でございます。我が国の莫大な資金力とお支払いに関しては、何一つとしてご心配には及びませんわ。貴方が望む最高級の鍛冶環境と報酬を、今すぐいくらでもご用意いたしましょう」
サンディの堂々たる宣言とアレス国王の名を耳にした瞬間、キンジューとその弟子は、言葉を失ってただただ呆然と立ち尽くすのだった。




