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【ブラッシュアップ版】史上最弱のコボルトテイマーが異世界を征服するらしいっす〜最弱スキルの犬たちは、最強の軍勢になりました〜  作者: ボルトコボルト


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001 二度目の人生の終着点。無能と呼ばれた少年、静かに首を縊る

 広大な領土を誇る大帝国があった。しかし、後継者を巡る争いが大帝国を二つに分け、血で血を洗う骨肉の争いへと発展した。終わりの見えない長い戦乱が続き、大地は荒れ果て、民の涙は乾く間もない。

 

 その混沌の中で、地方の領主たちは次々と覇を唱えて独立し、自らの国を興していった。そうして世界は、誰もが明日をも知れぬ過酷な戦国の時代へと突入したのである。

 

 ――ズズン、と重低音が響く。勇壮な軍楽が頭の中で微かに鳴り始め、少しずつ、少しずつ大きくなっていく。

 

 画面が切り替わる。魔物と戦う勇猛な騎士の姿。天地を揺るがす大魔法を連発する魔法使い。そして、傷ついた人々を癒やす可憐な聖女が次々と現れる。

 

 視界はさらに、数万の兵同士が激突する大戦争の場面へと移った。弓兵が放った無数の矢が豪雨のように戦場へ降り注ぎ、凄まじい土埃を上げて騎馬兵たちが縦横無尽に駆け巡る。前線では歩兵同士が剣と盾を手に、雄叫びを上げてぶつかり合っていた。

 

 高橋蓮たかはしれん、15歳。

 

 薄暗い部屋の片隅で、彼は最後に自分が熱中したゲームのパッケージを見つめていた。脳裏に蘇るのは、幾度となく見返したそのゲームのプロローグだ。

 

 家庭にも学校にも居場所がなく、恵まれない境遇への苛立ちをぶつけるようにして掴んだ馴染みのゲーム。少しでも心の平静を取り戻せるようにと、無意識のうちにのめり込んでいた異世界戦国シミュレーションゲームだった。

 

「……画面の中なら、戦略次第でどうにでもなったのにな」

 

 現実の自分の人生は、どうあがいても詰んでいる。

 蓮はゲームのパッケージからゆっくりと目を離し、視線を天井へと向けた。そこには、不格好に結ばれた一本のコードがぶら下がっている。

 

「お母さん、……ごめん。……俺、もう限界だ……」


 この世を去った最愛の母へ向けて、蓮はぽつりと呟いた。目尻から一筋の涙が零れ落ち、頬を濡らす。彼は震える手で、天井から吊るした電源タップの延長コードをそっと首に掛けた。


 ガタタン、と踏み台が倒れる音が響く。


 翌日。学校での陰湿な苛めを苦にした15歳の少年が自殺したニュースが、テレビから淡々と流れた。昼のワイドショーでほんの数分だけ取り上げられ、コメンテーターたちがもっともらしい顔で同情を口にする。だが、それも「いつものこと」として消費されていく。


 世の中は、何一つ変わりはしない。


 高橋蓮という少年がこの世界にいたことも、やがて誰もが忘れ去っていくのだろう――。


  ◇◇


 大きな山脈の西に位置する、小さく貧しい山国。その地もまた、世界を覆う戦国の嵐の中にあった。


 その国の南部を所領とするミッキー侯爵家。その当主であるヨショリは、ただの地方領主で終わるつもりは毛頭なかった。隙あらば下剋上を成し遂げ、天下をこの手に収めんと虎視眈々と狙っていた。


「この戦国乱世、我が家をさらに大きくせねばならん。そのためには、強力な『個の力』が必要だ」

 この世界では、15歳の成人を迎える儀式において、神から与えられた「スキル」を確認する決まりがあった。


 強い戦闘スキルを持つ者が多ければ多いほど、そのまま家の戦力になる。それが血の繋がった身内であれば、裏切られる心配も少ないため都合が良い。自分の息子ならなおさらだ。


 そのような理由から、この世界の王や領主は、正妻や側室のほかに多くの妾を囲うことが常識となっていた。ヨショリ卿もその例に漏れず、何人もの妾を囲い、少しでも優れた血統を残そうと躍起になっていた。


「フフ、正妻の子である長男様も、側室の子である次男様も、戦に有用な素晴らしい戦闘スキルを発現されましたな!」


「うむ。これで我がミッキー侯爵家の次の世代は安泰よ」


 家臣たちの言葉に、ヨショリは満足げに頷く。


 本命の二人が期待通りの力を示した。あとは、数多くいる庶子(妾の子)たちの中に、少しでも有用なスキルを持つ者が現れ、長男と次男を支える手駒となってくれれば言うことはない。


 ところが。


 庶子の一人である三男、レン・ミッキーが成人の儀で水晶に手をかざした瞬間、神官の口から告げられたのは、あまりにも予想外な言葉だった。


「――スキル、『コボルトテイマー』……です」


 その場にいた全員の動きが止まった。


 真っ先に静寂を破ったのは、父親であるヨショリの怒号だった。


「はあ!? 『テイマー』ではなく、ただの『コボルトテイマー』だと!?」


「ははははは! おいおい、何だそりゃあ!」


 兄である長男と次男が、これ見よがしに腹を抱えて笑い転げる。


「コボルトなんて、ゴブリンより弱くて、腹を空かせてキャンキャン噛み付くしか能のない最弱の雑魚モンスターじゃないか! そんなゴミを従えて、一体どうやって戦うって言うんだ?」


「そんなスキル、持っていない方がマシだ。我が侯爵家の恥さらしめ!」


 レンの成人の儀は、罵声と嘲笑の渦の中で大荒れに荒れた。


 元々、妾の子であるレンは豪華な本館ではなく、古びた離れで母親と二人、ひっそりと身を寄せ合って生活していた。しかし、その心の支えであった母親も、成人の儀を迎える前に病で帰らぬ人となってしまう。


 後ろ盾を失ったレンは、本家の嫡男や次男から、格好の「イジメの対象」とされていたのだが……。


「おい、この役立たず! コボルトを連れてきて俺たちの靴でも磨かせるか?」


「ひゃはは! いいねそれ、お似合いだ!」


 コボルトテイマーという「外れスキル」が発現してからというもの、レンへの苛めは加速度的に激しさを増していった。


 これまで彼を痛めつけていたのは、本家の家族だけだった。しかし、近いうちに家を追い出されることが確定した「無用なスキル持ち」に対して、優しく接する者などこの館には一人もいない。


 成人の儀を迎えるまでは、嫡男や次男と一緒に騎士から剣の稽古を受けていたが、レンには剣の才能が全くなかった。


 それどころか肉体的にも線が細く、運動全般が苦手。おまけに頭の回転が特別に早いわけでもない。


 そんな、どこをとっても「無能」な庶子を庇う者など、いるはずがなかった。


「レン様、お食事です。床に落ちたものでも、あなたにはお似合いですよ」


「ちょっと、そこの役立たず。早くその汚い体で廊下を雑巾掛けしなさいよ」


 執事やメイド、果ては下働きの使用人に至るまで、誰もがレンを見下し、陰湿な嫌がらせを仕掛ける始末。


 全身に新しい傷と青あざを作りながら、レンはボロ雑巾のように自室の床へ崩れ落ちた。


 暗い部屋。差し込む月光が、天井からぶら下がった縄を不気味に照らし出す。


 心も体も、とっくに限界を迎えていた。この世界での絶望が、レンの意識を深く黒い底へと引きずり込んでいく。


「お母さん、……ごめん。……俺はもう、限界だ……」


 ぽろぽろと涙を流しながら、レンは静かに呟いた。


 かくして、ヨショリ・ミッキー侯爵の三男、レン・ミッキーは、誰に看取られることもなく、静かに首をくくるのであった――。

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