【第六章】特訓の夜、シエラは泣きそうな顔をしていた
シエラが、初めて弱いところを見せた夜の話です。
ハルキはそばで見つめています。
シエラの過去があきらかになり、ハルキとの距離が.....
第六章です。
特訓は城の中庭で行われた。
夜の中庭は冷えた。石畳に月明かりが落ちていて、遠くで衛兵が歩く音がした。シエラは的代わりの木の杭を三本立てて、そこに向かって何度も雷魔法を放っていた。
俺は少し離れたところに座って、見ていた。
二時間で、杭は一本しか割れなかった。
シエラの手が震えていた。魔力を使いすぎているのか、顔が白くなっていた。それでも止めなかった。
「シエラさん、少し休んだほうがいいです」
「……まだ大丈夫です」
「大丈夫じゃないです。手が震えてる」
シエラが手を見た。隠すように握りしめた。
「雷魔法は、私には向いていないのかもしれません」
声が少し、かすれていた。
「向いてないなら使わなくていいです」
「でも、氷のボスには――」
「炎魔法でも倒せます。慣れてない魔法を無理して使うより、得意なことで戦うほうが強い。ゲームでもそうです」
シエラがこちらを見た。月明かりの中で、目が少し赤かった。
(……泣きそうになってたのか。気づかなかった。俺、本当に鈍い。)
「ハルキさんは……なぜそんなに、人のことが分かるんですか」
「分かってないですよ。さっきまで気づいてなかったし」
「でも、いつも私が限界になる前に、止めてくれます」
「……ゲームで、パーティのMPを管理するのが好きだったんです。誰がどれだけ消耗してるか、ずっと見てた。習慣で」
「MP?」
「魔力みたいなものです。シエラさんのMPが、さっきから見えてたので」
シエラがきょとんとした顔をした。それから、くすっと笑った。
「私、ゲームというものを見てみたくなりました」
「俺の世界に戻れたら、見せます」
言ってから、少し苦くなった。
(俺の世界。帰れるのかな。帰ったとして――何がある? モテない容姿、期待してない親と、最下位の成績。)
(帰りたいかどうか、最近あまり考えなくなった。)
シエラが隣に座った。俺との間に、拳ひとつ分くらいの距離があった。
「ハルキさんは、元の世界に帰りたいですか」
「……分かんないです。今は」
「そうですか」
シエラは何も言わなかった。責めるでも、慰めるでも、励ますでもなく、ただ「そうですか」と言った。それが、妙に楽だった。
しばらく二人で月を見ていた。この世界の月は、俺の世界より少し大きかった。色も、薄く青みがかっている。
「シエラさんって、なんで魔法師になったんですか」
「……父が魔法師でした。小さい頃から、魔法を使う父の背中を見て育ちました」
「お父さん、今は?」
「魔王軍との戦いで、三年前に」
俺は黙った。何を言えばいいか分からなかった。
「だから、この戦いは私にとっても……ただの任務じゃないんです」
「……そうか」
シエラが少し目を見張った。「そうですか」じゃなくて、「そうか」。なんとなく、言葉の重さが違う気がした。
「ハルキさん、敬語が崩れました」
「あ、すみません」
「嫌じゃないです。むしろ……少し、嬉しかったです」
(……なんで俺、こんなにドキドキしてるんだろう。)
┌─ 隠しパラメータ変化 ─────────┐
シエラ・アルヴィン 好感度:★★★☆☆
└────────────────────┘
(……好感度ってなんだよ。ゲームじゃないんだぞ。)
お読みいただきありがとうございました。
次は〈霜の洞窟〉の攻略になります。
苦手な雷魔法、練習の成果はいかに……?
そしてハルキとシエラの距離は、さらに縮まるのか。
お楽しみに!




