8.第二王子の苦悩
トライスはルーナとの茶会の後、隣国の貴族を招いた夜会に出席していた。そしてそこでハロルドを見かけた。ハロルドは隣国の貴族女性と談笑している。
「やあ、ハロルド。こちらのお嬢さんは?」
「トライス殿下。来ていたのですね。こちらは隣国のビュッセン伯爵令嬢です。コライネ様、こちらは我が国の第二王子、トライス殿下です。」
ハロルドは慣れたようにお互いを紹介する。
「コライネ嬢、ハロルドには婚約者がいます。彼女に頼まれて探していたので連れて行ってもよろしいですか?」
コライネは頷き二人の前から去っていった。
「お、おいおいトライス。俺は婚約破棄されたんだぞ?あんなこと言わなくても…」
トライスに隅っこの方に連れていかれてハロルドは砕けた口調で話し始める。
「バカ野郎。まだ話し合いの席を設けてないんだから婚約関係は継続中だ。フラれたからってところかまわずナンパしやがって、意外と節操ないな。」
学生時代、ハロルドとリアテムの中は学園内で知らないものはいなかった。そのためここまで他の女性に積極的に話が出来るのをトライスは知らなかった。
「なんだよ。自分がまだ婚約者を決めてないからって嫌味のつもりか?たしかリアテム嬢と同室のルーナ嬢がお気に入りだったんじゃないか?」
トライスはそれを聞いて苛立ちを覚える。
「この野郎。余計なことはしっかり覚えてやがるんだな。リアテム嬢にフラれたってのに彼女と同じ黒髪黒目の女性に鼻の下を伸ばして未練たらたらじゃないか。」
それを聞いてハロルドはさらに言い返す。
「何言ってる。俺はお前が来る前には赤髪赤目の女性とも話してたんだよ。もっとも、その人は隣国の公爵の婚約者だったけどな。彼女の後ろに立ってオッドアイで冷たく見つめられて背筋が凍ったよ。」
「はぁ…公爵の婚約者に手を出そうとするとか節操ないな。」
「いや違うから。挨拶に行っただけだ。」
そんなことを言い合っていると二人の前に一人の令嬢が現れた。
「トライス殿下、ハロルド様、お久しぶりです。」
二人の前に現れたのはライアネルだ。彼女はドレスのすそを掴んで一礼した。
「ライアネル嬢、お久しぶりですね。」
ハロルドはすぐに彼女が誰か理解したがトライスは思い出せないでいた。
「殿下、彼女は俺たちの一学年先輩ですよ。よく聖女ミューリ様と一緒にいたじゃないですか。」
聖女であっても貴族である以上学園に通う義務がある。ライアネルはミューリとよく一緒にいた友人の一人だった。
「ああ、思い出した。影が薄いハーブデット子爵令嬢。」
それを聞いてハロルドはトライスを肘で小突く。本人を前に何を言っているんだと言いたいが、それも本人の前でいう事ではない。
「ハロルド様、いいんですよ。私はミューリ様の友人の中では一番認知されていませんから。そのミューリ様とも最近は手紙のやり取りもあまりしていませんし。」
ライアネルの表情に影が出来る。
「あっと、すまない。」
トライスは申し訳なさそうに謝罪する。
「お気になさらないでください。それよりハロルド様、聞きましたよ。婚約破棄されたと。あんなに仲が良かったのに大変でしたね。」
ライアネルは哀れんだ表情でハロルドを見る。
「あはは。そうですね。まあ俺が至らなかったからの事なので。」
「お、おい…」
今度はトライスがハロルドを小突いた。まだ話し合いもすんでいないのに決定事項のように言うのはさすがにまずい。
「ハロルド様のように素敵なお方、私だったら絶対婚約破棄などしませんわ。」
その時、会場に音楽団員が入ってきた。ダンスのための演奏が始まった。
「ハロルド様、女の私から誘うのは不躾だと理解してますが、よければ私と一曲踊っていただけませんか?」
ライアネルはハロルドに手を差し出す。ハロルドは一瞬戸惑ったが彼女の手を取った。
「男女平等を叫んでいる昨今で、ダンスを誘うのは男からというのは差別的ですよ。もちろん喜んでお受けします。」
ハロルドはライアネルをリードして会場の中央へ向かった。トライスはそれを見て頭を抱えてしまう。




