2.情けない伯爵令息
王都にあるリンドラット伯爵家別邸。その屋敷の一室にウェイラとトライスは足を運ぶ。ハロルドは当事者ではあるが放心状態から戻らないために屋敷に到着後、使用人に頼み自室へ連れて行ってもらった。
「ウェイラ!帰ってきたのか!ハロルドはどうした?実は大変なことが…」
「父上、こっちも大変なことがあった。とりあえずトライス殿下もいるのから椅子に座ってほしい。」
息子に言われてヤーハ・リンドラット伯爵は後ろのトライスに気が付いた。
「こ、これはトライス殿下。わざわざお越しいただき…」
「挨拶はいい。おそらく状況的に同じ内容だろう。座ってほしい。」
ヤーハはトライスが座ったのを確認して自分も座る。ウェイラは先に座っていた。
「とりあえず伯爵の話から聞こう。何があった?」
「あ、はい。実はルーテル伯爵から娘の婚約破棄を行いたいという旨の手紙が届きました。理由としてはハロルドの学園時代の悪行でと。」
「ふむ。なるほど。実はこちらも社交界の場でリアテム嬢がハロルドに婚約破棄を申し渡された。あの場で話し合いなどできないため後日私が招集して話し合いの場を設けるという事で去らせた。」
ヤーハの目が見開かれる。
「な、リアテム嬢から婚約破棄!?しかも公の場で…」
「俺も見ていたから間違いではない。父上、兄上は悪行なんかしていない。でたらめにもほどがある。」
「まてウェイラ。それは私も理解している。あのハロルドが婚約破棄の理由となるようなことをするとは思っていない。だからこうやってお前たちが帰ってくるのを…そのハロルド当人はどうした?」
それを聞いてトライスはため息をつく。
「リアテム嬢に平手打ちされてから放心してしまい、こちらに戻っても元に戻らないから部屋に行かせた。下手をすると数日はあのままかもしれない。」
それを聞いたヤーハは眉をひそめる。
「はぁ…やはりハロルドはこういう時にしっかりできないんだな…」
ヤーハのつぶやきは小さかったが二人の耳には確かに届いた。
「父上!兄上は確かに気弱なところがありますが、今回のようなことになれば誰だって…」
「いや、すまない。そうだよな。さすがに公衆の面前で婚約破棄を言い渡されるなど…しかも女性の方からか…」
この国の男女差別の意識は薄れていた。しかしどうしても男性優位な考え方は、特に貴族はまだ持ち合わせている。
「とりあえず、婚約破棄の理由としてハロルドがヴィッジマーラにという嫌がらせがどんなものかわからない以上早急に話し合いの場を設けなければならない。」
「そ、そうですね。しかし殿下に立会人になってもらえるなんて運がいい。」
「今回は同じ爵位家の争いになる。立会人にしかなれないのが歯がゆいな。」
この国では同じ爵位の者同士の争いに他の者が手を貸してはいけないという明確なルールがある。同じ爵位であれば同程度の対応力があるためと考えられているからだ。もし爵位に差があればそれこそ王の面前で話し合い、王が決断を下すところまでできるが今回は王ですら介入してはならなかった。そのためトライスは立会人という立場でしか今回の件にかかわれない。
「まあ、それは表向きの話だ。ヴィッジマーラが何をしたいのかわからないが、裏で何をしているのかの調査位は俺が手配する。ブライダ伯爵家は昔からきな臭い噂を耳にするからな。ついでに何か出てくるかもしれん。」
トライスの目が怪しく光る。
「とりあえず俺は城に戻り話し合いの場の準備をする。それでも一週間はかかるだろうからそれまでハロルドのケアを頼む。そして出来るだけ外に出すな。普通の状態ならしないとは思うがあんな状態でリアテム嬢に会いに行ったりしたら何をしでかすかわからないからな。」
トライスは立ち上がりながら言う。
「は、はい。よろしくお願いします。」
ヤーハも立ち上がり深々と頭を下げる。ウェイラはトライスを玄関まで見送り二階のハロルドの部屋の前まで来た。扉に耳を当て中の様子を伺う。中からはむせび泣く声が聞こえてきた。
「アニキ…」
ウェイラは兄に声をかけることが出来ず、そのまま一階の父親のところへ戻った。
「はぁ…あと半年で結婚だったというのに何でこんなことが…」
リアテムの卒業の後、結婚することになっていた。
「ウェイラ、お前確かリアテム嬢と同じクラスだったよな。最近変わったところはなかったのか?」
「同じクラスだと言っても四六時中一緒にいるわけじゃない。それに監視を頼まれたわけでもないから詳細な交友関係まで認知してないさ。リアテム嬢を狙う悪い虫は一年の時に散々払ったから最近は安心していたのは否めないが。」
ウェイラは椅子に座りながら言う。
「はぁ…やっぱりお前をリアテム嬢の婚約者にして嫡子になってもらった方がよかったのかもなぁ…」
「オヤジ、何度も言っているだろ。俺ではアニキを超えられない。まだ言うのなら俺はこの家を…いや、この国から出ていく。」
「いやすまない。でもどうしてもな…貴族としてあの弱さは致命的だ…」
父親のため息にウェイラもため息をつく。
「だからリアテム嬢のような女性が兄上のそばにいたほうがいいんだ。それにあの二人は婚約した時から愛し合っていた。」
それを聞いてヤーハは吹き出す。
「はは。確かにな。懐かしい。あれからもう十三年になるのか…」
ヤーハは遠い目で懐かしみながら言う。




