死の館と霊能少年 X
森に踏み込んだ私はすぐにあれの姿を見つけた。ボロボロの白衣に身を包み、何日も風呂に入っていない様な不潔で太った体をしたケダモノだ。
「っ……」
あれも私を見つけて、その姿をじっと見る。
「………」
息を呑む。正直、すぐに逃げ出したかった。でも、逃げるわけにはいかない。
お父さんは少し前に難病の診断を受けた。放っておくと死んじゃう病気で、手術が必要だけどその成功率はすごく低いらしい。
…迷惑をたくさんかけたけど、死んで欲しくなんてない。当たり前だ。
でも、お医者さんは言った。覚悟をしておいた方がいいって。
……嫌。まだ私はお父さんに私の思いを伝えてない。もっと生きて、私を見ていて欲しい。安心して欲しい。このままなんて絶対にやだ。
だからここに来た。お父さんの手術が成功して欲しいから。もっと生きて欲しいから。
でも、結果は無常だ。よく考えるべきだった。
恋が叶うという噂はあっても。
恋が…思いが叶った話は聞いたことがない。
私は胸を大きく切り付けられた。肺は片方穴が空いている。
「はっ、はっ、……」
死ぬ恐怖ともう家に帰れない申し訳なさで心がぐちゃぐちゃになる。涙も流れた。
男はそのまま私の体に近づく。何を…いや、すぐに分かった。私に経験はないけど、あれだ。犯される、というやつだ。下卑た目線を男から感じた。
嫌だ…嫌だけど、もう動くことも、助けを求める事も出来ない。
涙を流すしか、もう…
「よう、ケダモノ」
その時だ。あいつが現れたのは。
「グォウ!」
白衣の男はケダモノを蹴り飛ばそうと脚を振り抜く。しかしケダモノは間一髪後ろに飛び退き、森の奥に消えていった。
「………チッ、追うのは後か」
白衣の男は舌打ちをしながら私を抱えて洋館に駆ける。向かったのはここだ。
「まさか自分用に作ったものを他人に先に使うことになるとは…しっかりデータは取るからな」
装置に押し込められる私が最後に聞いたのはその一言だった。
そして何故か記憶を無くして幽霊になった私は街を彷徨って、私が認識できる人…流に会って、再び洋館を、この森を訪れる。
そこで見つけた。あの実験日誌を。
「……ちゃんと記録がとってあった。私の体の状態や装置の様子、私の身体測定なんかもね。毎日毎日事細かに」
「……」
「でも、ダメみたい。私の体は生命維持液…この緑の液体ね?これに治療用の青い液体を入れて濃度を下げると死んじゃうんだって」
「…この女の子は…?」
「その子は大丈夫。手遅れになるってあの人が言ったのは私みたいになるラインのことだと思うし、幸い出血意外に命に関わる事はなさそうだから、ちゃんと治療できると思うよ。どうやってるのかはよく分からないけど」
「そうなんだね…」
流は少し安堵し、ハッとした表情をした後、また暗い表情になる。
「…フフフ、やっぱり流は優しいね。別に私のことなら大丈夫。気にしないで、生きてるだけ良い方なんだし」
流の考えを読んだユウハが優しい笑顔を向ける。
「…良い訳ないよ」
「え?」
「良い訳ないだろ!こんな装置に押し込められて!もう家族と会えるかすら分からないのに!このままで良い訳ないだろ!」
流に彼女の気持ちはわからない。致命傷を負って幽霊になったことなどないし、そもそも致命傷を負ったことすらない。
だが、彼は知っている。誰からも理解されずに一人だけでいるということの辛さを。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
半ば回復することをあきらめているユウハに対する流の胸中は……といったところでまた明日です。
私事ですが、先日大学を卒業しました。いろいろありましたがこれにてひと段落……とはいかず、引っ越しの準備やら会社への入社準備やらやることが盛りだくさんです。誰かオラに元気を分けてくれー!!それではまた…




