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ブラックバスターズ  作者: 岩魚
物語の始まり
18/116

物語の始まり XVIII

「おい、どうなってんだ!?」

 クロは獣の背中を見ながら動揺する。

 田中が駆け出し、紗希に触れたとたんに動かなくなったかと思えば獣の動きが鈍くなる。

「なんでもいい、アクルス、最大出力で抑えろ、今がチャンスだ!俺もそっちに回る!」

 ヒカドラが光の鞭を獣の体に巻き付ける。

「やってるよ馬鹿!もう遅いけどな!」

 周囲の建物はヒビだらけで今にも崩れそうだ。幸い住んでいる人間のいないショッピング街のためそれでも大きな騒ぎにはなっていないが、かなり遠くからサイレンの音が聞こえ始める。

「頼んだぜ、田中……!」

 クロは期待を込めながらそう呟いた。


「どうやってここに来た!?」

 彼女が問いかける。

「わからないか?貴様と同化したのさ」

「何!?」

 田中は自分の体を紗希と同じ構成にし、紗希に触れて溶け合うように一体化している。

「…まあどうでもいい!君はどうせ手出しできない!僕を止めるなら紗希ちゃんを、神奈川明夫の一人娘を殺すしかないからね!僕だけを消すなんてことはできないさ!」

 彼女は悪魔のように笑う。

「……それでいいのだろう?」

「え?」

 田中の発言に、彼女は一瞬呆ける。

「そいつが言ったはずだ。死んで終わりにしようと。もう死ぬと決めているのなら遠慮する必要もあるまい」

 田中は手を鎌にして紗希の首にかける。

「ッ……」

 一瞬だけ紗希の体が震える。

「さあ、攻守逆転だ。どうする?」

 今度は田中が悪魔のように笑った。

「ずっと分からなかった。『お前』が動く条件が。何故急に効果が発揮されたのか。明夫すらわかっていなかった!だが今ならわかる!結局のところ貴様は昔の俺と同じ、自分勝手で物の価値も理解できん愚か者だったということだ!」

「……なんだと?」

 彼女の雰囲気が変わる。その殺意は、すぐに田中を殺せそうなほどだ。

「違うか?貴様はこいつの気持ちを無視して、自分の欲望を満たすためにあの家族たちを狂わせた!」

「違うッ!僕は紗希ちゃんを守っただけだ!」

 衝撃波が広がる。花は枯れ、衝撃が田中を貫いた。

「……守る?ハイビーストを作ってこいつの何を守ったのか言ってみろ」

 血を吐きながら、それでも田中は止まらない。紗希の首に鎌を構えたまま、一歩、また一歩と足を踏み込む。

「紗希ちゃんをあの研究から解放できた!紗希ちゃんの命を守れたんだ!」

「違うな!解放も出来ていないし守れてもいない!貴様はあの研究にこいつを縛り、不必要にこいつの命を危険にさらした。今のようにな」

 田中の表情はいつの間にか憐みのものに変わっていた。

「違う違う違う違う!!僕は……僕は……」

 再び攻撃しようとする彼女。

 何故か、その手が止まる。

「……!……!」

 彼女は直接感じてしまった。

 目の前の生命の思いを。

 自我を持ってから、いつしか憎しみにとらわれ視界から消していたものを。

 それは守りたいという思い。曇りのない、対象を守りたいという、ただそれだけの思い。

 殺せばいいなんて口から出まかせだ。田中は紗希を殺すつもりもなければ、ここで死なせるつもりすらなく。

 紗希を救い、これからも共に生きていこうとしか思っていない。

 その思いがどこから来るものかは分からない。

 だが、どこから来るものであろうと。

 人はそれを愛と呼ぶ。

「……最後の問いだ。貴様は一度でも、神奈川紗希の思いを聞いたのか?」

「……聞いてきたさ。僕と紗希ちゃんは一心同体なんだから」

「じゃあ、最後の言葉も聞いてやれ」

「……」

「もう、終わりにして。これ以上、苦しまないで」

 刹那、空間が崩壊した。




「……よう」

 田中と紗希はどこかのビルの屋上で目を覚ます。

「…俺は間に合ったか?」

「ギリギリな」

 クロは事態の顛末を説明する。

「お前が動かなくなってしばらくしてから、あいつらの獣化が急に解除された。そのあとすぐにお前ら二人抱えて大ジャンプだ。音からして、俺たちが跳んだすぐ後に警察が来たんじゃねえか?さすがにあいつらは回収できなかった。俺もアニキたちもあれ抑えるので体力ギリギリだったし、ここで連れて行ったらあいつらを法で裁けねえだろ?まあ、罪状は変わるかもだけどな」

 クロは最後に苦笑する。

「ならば俺の判断は正しかったか……」

 田中は考えていた。紗希の体の01が作用して薬を暴走させるなら、逆も出来るんじゃないかと。

 ただ、田中は一つだけミスをした。田中本人が直接01を支配下に置くつもりであったが、それは達成されず、最後に獣を人に戻したのも田中ではない。おそらくは……

「……甘いな」

 田中はしばらく考えた後に、もはや意味はないと考えるのをやめ、クロの判断に意見する。最も、その顔は笑っているが。

「……フフッ」

 その顔を見て、紗希が最初に吹き出し、あたりが笑い声で満たされた。

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