甘さ
先に更衣室を出た篁文は、紗希が出て来るのを待っていた。
そこに、その声が耳に入った。
「納得できません」
キヨだ。沢松とショウと3人で、廊下の曲がり角の向こう側で話をしていた。
「どうしてそんなにあの子に甘いんですか。広報にしたって、プロに任せればもっと上手いでしょう。
大体、高校生がバイトでするような仕事ではありません。銃まで使うのに。
それに、コベニクスやメルベレは、国交も結んでいないし、次元トンネルでつながってもいません。
沢松2佐、自衛隊の隊員だけでやるべきではないでしょうか。練度もこちらが上です。伊丹2尉もそう思いませんか」
それにショウは嗜めるような声を上げた。
「河田3曹。上官に――」
「まあ、いい。
伊丹はどう思う?」
「はい。確かに高校生にさせるのはいかがな仕事かと思いました。篁文の腕はいいですが、やはり、精神的に良くないんじゃないかと」
「ははは!意味は河田とは違うわけだな」
「はい。練度というなら、彼らの方がよほど上です。これまでずっと異世界生物に当たって来たのですから。ドルメやパセも、当事者でもないのに有り難いことです。
この現場は、我々が想定し、訓練している状況とは違います。少なくとも、我々だけで対処するには、まだ早いでしょう」
「俺も同意見だな。当事者でもない人に、後方で守られるべき未成年の一般人に危険を負わせるのは大変心苦しいが。
まあ、自衛隊でもこれに対処できるような訓練はしておくべきだろうがな。少なくとも今は、彼らの協力が必要だ」
「……わかりました。申し訳ありませんでした」
それで、3人は部屋の方へ歩き出したようだ。
篁文はやれやれと小さく嘆息した。
「お待たせぇ!」
紗希が出て来る。
「どうしたの?」
「いや、別に」
篁文と紗希も部屋の方へ向かいかけると、サイレンが鳴り出して次元震を告げた。
今回出て来たのは、ヒト型だった。戸惑ったように見廻し、武器を持った篁文達を見ると、ギョッとしたように手にしていたこん棒や斧、剣を構える。
「落ち着いてください。これを、こうやって耳に――」
篁文が言いながら翻訳機を差し出し、自分の耳を見せる。
その異世界人は戸惑ったようにしながら恐る恐る手を伸ばしかけたが、
「むん!」
と掛け声をかけてキヨがその彼を叩き切る事で、彼らは武器を構えて、敵意を露わにした。
「キヨ!待て!」
「上官面か!」
キヨは槍を突き、乱入して行った。それで彼らも武器をふるって襲い始める。
「篁文、こうなっては仕方がないである」
「そうだな。今更友好的もクソもないな」
溜め息をつきたいのをこらえ、篁文とドルメとパセも、キヨとショウに続いて乱戦に加わった。
やがて揺らぎが収まった。
「終わったであるな」
足元には遺体が転がっており、この後を担当する処理班が出て来る。
「さあ、戻ろう」
ショウが言って、皆はその場を離れた。
シャワーを浴びて着替え、部屋に戻ると反省会だ。
「まず、ケガが無くてなによりでした」
ヨウゼが穏やかに口火を切る。
「キヨもショウも、躊躇なく攻撃にかかりましたね。しかし篁文は、殺さないようにして追い返していましたね」
「はい」
キヨがドヤ顔で、軽く落ち込み気味の篁文を見る。
「なぜですか」
「一定の知能がありそうでしたので、話せばわかるかもと思っていました。決裂した後も、向こうに帰せばそれで済むと思いましたので」
パセがしんみりと言う。
「そうねえ。わけのわからないうちに死んで、遺体も帰れないんだもんね」
「向こうにしたら、僕達はとんだモンスターってわけだ」
セレエが言い、キヨがムッとした顔をした。
「まあ、異世界生物全てが敵性生物ではありませんしねえ」
ショウが、ハッとしたような顔をする。
「全員、今1度考えて欲しい。我々特殊次元庁が『異世界生物』ではなく『敵性生物』という言葉を使っているわけを」
沢松が言うのに、ショウが頷き、キヨは眉を寄せた。
「それと篁文。ヒト型を殺すのに躊躇があるのは当然だが」
「いえ。それは勿論ありますが、俺が反省しているのは別の事です」
皆、何を反省しているのかと怪訝な顔をする。
「ヒトの形をしていたから会話を試みようと思いました。動物や虫の形をしていても凄く知能が高い可能性があったかも知れないのに、先入観にとらわれて、翻訳機を試そうとして来なかったなあ、と」
篁文が反省しきりと言った顔で言うと、シーンとした後、セレエが噴き出した。
「篁文らしい」
ドルメもパセもヨウゼも笑い出した。
「本当であるなあ。しかし、それは吾輩も同じであるな」
「篁文、動物や虫に知能なんて無いわよ!」
紗希が怒ったように言う。
「そうか?そうとも限らないぞ?」
「うむ。吾輩の故郷の竜なんて、人と同じくらい知能が高いであるしな」
「ヒト並みとは行かなくても、犬やサルは賢いわよねえ」
「会話しないからわからないだけで、実は昆虫とかも――」
「いーやー!やめてー!」
ショウと沢松も噴き出した。
「ま、まあ、否定はしない。しないが、会話は残念ながら難しいだろう。襲って来た種に対しては殺すのもやむなし。一応ヒト種には翻訳機で会話を試みる。これでどうだろう」
沢松が言い、ヨウゼがまだ口元をヒクヒクさせながら頷いた。
「はい、そうですね。それでいいかと」
皆が笑う中、紗希とキヨが仏頂面をしていた。
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