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トンネルの前で愛を叫ぶ人々

 プラカードを持った人々がトンネル出口を取り囲んで、

「異世界生物を殺すなー」

「隠さずに、全てを解放しろー」

「異世界とのつながりを独占するなー」

などと叫んでいる。

 それを、篁文達は監視カメラの映像で見ていた。

「敵性生物だから殺すんだよ。言ってないの?」

 セレエが、訳していた篁文に訊く。

「いや、ちゃんと発表してる。いるんだよ。街中に出て来て人を襲うクマとかイノシシとかでも、駆除したらかわいそうとか言って反対する人」

「犠牲者がいないからじゃないの、自分とか身内に。

 いい事考えた。今度次元震の時に彼らを中に入れて、何分か放置するとか」

 パセは恐ろしい事を言い出した。

「現実を見ていない人というのはどこにでもいるであるなあ。コベニクスでも、貴族階級には少数ながらいるであるよ。それで、予算の縮小を迫るのであるよ……」

 ドルメは溜め息と共にそう言った。

「ドルメも苦労してるんだねえ」

 紗希が同情するように言って、ドルメの肩をポンポンと叩いた。

 篁文と紗希が学校が終わってここに来たらあれが始まり、帰るに帰れない状態になったのだ。

「今日はどうするの。

 あ。うちに泊まる?」

「魔法が見られる!?」

 紗希とパセがはしゃぎだす。

「では篁文は、吾輩の所に来るであるか。じっくりと組み手も剣の稽古もできるである」

「そう言えば、高地合宿みたいなものになるな」

 ドルメの提案に篁文が乗り気になりかける。

 そこで、ヨウゼと沢松が口を開いた。

「楽しそうで結構ですが、それでは解決になりませんからねえ」

「篁文も紗希も、あれがいなくなるまでずっとここにいるつもりか?留年するぞ」

 紗希は愕然としたような顔をした。

「スイーツバイキングの新作タルトと限定ケーキと今月の日替わりの木曜日のケーキ、まだ食べてない!」

 篁文は、紗希に付き合って行った時の甘い匂いが甦り、気持ち悪くなってきた。

「しかし、困りましたね。武器の技術を得ようと、特殊次元庁に人員をねじ込もうとする国もありますしねえ」

 ヨウゼは苦笑を浮かべた。

「人員がもう少しいればと思うのは本当だが、うかつに増やすと、友好国だとかなんだとか言ってねじ込んで来るからなあ」

「日本人以外だとまずいの、おじさん」

「それを何とか持ち出そうとするのが見え見えだからなあ。

 まあ、その辺は首相に頑張ってもらうしかない」

「あてになるのか?」

「……篁文。それを言っちゃあおしまいだ」

 沢松は肩を竦め、

「とにかく、気を付けろ。人質をとって武器を持ち出して来いとか言う輩が出ないとも限らんからな」

 言っていると、次元震を感知したサイレンが鳴り、篁文達は部屋を飛び出して行った。

 急いで次元交差ポイントへ行くと、揺らいだ景色の向こうから兎が飛び出して来るところだった。しかし地球の兎よりも大きく、牙と鋭い爪が見えた。

「可愛いふりをして牙と爪を隠し持った性悪であるな」

「話し合いは無理ねえ」

「駆除対象だな」

 銃を引き抜いた篁文達だったが、ここで思わぬ事が起こった。日本側から飛んで来た何かが篁文達と兎の間に落ちて転がり、思わず何かと注視すると、勢いよく白い煙が噴出し始めた。

「ウワッ!?何であるか!?」

「霧の魔法!?」

「催涙弾!?とにかく危ないから、まだ見えるうちに一旦建物内に入れ!」

 慌てて戻ると、間一髪でドアに兎が体当たりして来た。

「何!?何で!?」

 視界が煙で覆われて何も見えない中、セレエから端末に通信が入った。

『大変だぞ!日本側の抗議団体が、サイレンの後催涙弾を発射して来たんだ!それから、柵を壊して中に侵入しやがった!』

「ええーっ!?」

 聞いていた皆が仰天する。

「そ、それじゃあ、あれは日本へ出て行くんじゃ!?」

「……まずい……」

「しかし、これじゃあどこに敵性生物がいるのかどころか、真っすぐに出口を目指すのも難しいであるぞ」

 皆、蒼白になった。


 抗議団体は、サイレンの音を聞いて顔を見合わせた。

「出て来るの?」

「そうですよ。だから、万が一に備えて下がってください」

 警備の警察官が柵に迫る抗議団体に言うが、中の1人が、人垣の中に隠れるようにしてしゃがむと、カバンから迫撃砲のような物を出し、トンネルの中へ撃ち込んだ。

「何をした!?」

 警察官がギョッとした時には、最前列にいた反対側の人物が手りゅう弾のようなものをポケットから取り出してピンを抜き、柵のそばに転がして逃げ出した。

 遅れて、小さめの爆発が起き、柵が壊れる。

「何!?」

 慌てて警察官が応援を呼び、その人物を拘束しようとしたが、抗議団体の人達がそれを阻むように警察官の邪魔をする。

「全員拘束しろ!それと、敵性生物が出て来るぞ!」

 駆けつけて来た仲間の警察官達に叫び、片っ端から抗議団体の人達を取り敢えずトンネルから引き離そうと試みるが、中の1人が、両手を広げてトンネルの中に向かって叫んだ。

「異世界生物を殺すな!愛があればわかりあえる!凶暴な動物ばかりじゃない!」

 盾を持った警察官が駆け付け、彼を引きずり出そうとするが、

「だめだ、間に合わない!」

「敵性生物を出すな!被害が広がる!」

命令の声に、トンネルを塞ぐように盾をズラリと並べるように構えた。

「やられるぞ!早く!」

「愛を見せてやる!」

 彼は聞く耳を持たず、そこで笑っている。

 透明の盾の向こうに、漂って来る白い煙と走って来る兎が見えた。

 野次馬がカメラを向けながら、

「兎だよ」

「かわいいけど、大きいね」

「牙があるけど大丈夫?」

「発煙筒か何かを投げ込んでの事だし、何かあっても自業自得だろ」

「こっちにまで来ないよな」

などと言っている。

 兎は広げた両手の間にピョンと飛び込み、牙を首に突き立てた。

「え?」

 両手を広げたまま男は後ろにぱたんと倒れ、そこに後から走って来た兎達が群がっていく。

「きゃああああ!!」

 透明の盾に血しぶきが飛び、誰かが悲鳴を上げた。盾の向こうは、地獄だった。

                                                                                                        




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