揺らぐ他次元世界
軽く息を整え、安定化を待つ。
現れた片方は、広がる草原に三角屋根の石造りの建物の景色だ。夕焼け時なのか、空が真っ赤だ。そして、鐘の音が独特のメロディーで流れている。
パセの耳が、ピクピクと動いた。
もう片方は、舗装された道路と立ち並ぶビルの並んでいる。
「篁文……」
紗希が呆然とする中、街路の奥に、篁文はそれを見付けた。
「避けろ!」
言いながら横っ飛びにその場から退避する。それまでいた辺りの地面は、何かの攻撃を受けて地面が溶けていた。
「なっ、なな何!?」
紗希もパセも腰を抜かしそうになっている。
「超SF世界?」
小型の戦車みたいなものが裂け目の向こうにあり、こちらをサーチするかのように、無機質なカメラを向けている。
それは裂け目のこちら側には出て来ず、ピピッと電子音がしたと思ったら、上部の砲塔みたいなものが篁文達の方を向く。
「何!?」
「たぶん、ロックオンされたな」
「ろっくおん?」
「狙いを定めたってことだな」
それと同時に、砲塔の中がわずかに光った――のを確認せず、2人を抱えるようにして篁文は逃げた。
逃げる前にいた所の背後にあった檻は、その攻撃で丸く溶けていて、見ていた監視員も腰を抜かしていた。
「やばいな」
「逃げなきゃ!」
「どこへ!?」
篁文は戦車から目を離さないまま、ゆっくりと姿勢を低くしてスティックを起動させた。
「パセは右へ跳んで、あそこに飛び込め」
「篁――!?」
「そうだろ?」
パセは迷いながら、
「ええ」
と答えた。
「紗希は左に走って檻から出ろ」
「篁文は?」
「構えろ!目を逸らすな!――今!」
戦車の砲塔の中が、また光る――その一瞬前に、弾かれた様に3人は別々の方向に跳んだ。パセは右、紗希は左、篁文は前。
篁文の頭上を熱の塊が通り過ぎ、砲塔がどれを追うのか迷うように揺れる。
その時には篁文が低い姿勢で戦車に接近しており、下から砲塔を切り上げて切断する。
ピピピと警告音のようなものが鳴るのを、向こう側に思い切り蹴り飛ばし、戦車が転がって赤いランプを点滅させるのを最後に、裂け目は閉じて行った。
隣で、パセの転がる草原が消えて行く。
振り返ると、穴の開いた檻と腰を抜かした監視員と警官、へたり込んでいる紗希が見えた。
「はああ。切れ味抜群だなあ、これ」
篁文は言って、地面に大の字に寝転がった。
篁文と紗希は、監視員の報告により、今回は疑う余地は無さそうだと判断され、意外と早く放免された。
しかし、夕食は言葉がなく、ひっそりとテーブルについた。
「紗希。ごめんな」
「何が?」
「……何としても、紗希は守るから」
紗希は首を傾け、目を丸くしてから、
「うへへ、でへへへへ」
と笑った。
色気もクソもないが、どうせお互い、素顔は知っている。
「パセ、元気になるといいね」
「ああ」
「私は、篁文がいるからね。いつでもどこでも元気!」
「ああ」
「……パセに」
「パセに」
グラスを合わせた。
翌日、ヨウゼが驚きの知らせをもたらした。
「ルルカに不正の疑いがかかり、24時間監視の上、査問を受ける事になりました」
篁文は予想通りとは言え、動揺はした。
「ルルカが!?」
紗希は、オロオロとしている。
「不正って何?横領とかしないわよ、ルルカは」
「ええ。わたしもそう思います。
容疑も何も、詳しい説明を求めても、極秘と言われて……」
ヨウゼも厳しい表情で息を吐く。
篁文は容疑そのものはわかっていたが、証拠があるものなのだろうかと思った。
そして、地球と故意に接触するのは絶望的になったと、それだけは確信していた。
「とにかくそんなわけで、分析官は、別の職員が当てられることになります。
あと、敵性生物と対峙するのは2人だけになってしまいましたが……」
「檻の強度を上げてください。
それと、紗希。檻の中には入るな」
これには紗希もヨウゼも顔色を変えた。
「篁文!」
「やっぱり危ない。俺も、1人だと接触とかを心配しなくて、却ってやり易いかも知れない」
ヨウゼは考え込み、紗希は怒った顔をしたが、諦めたように嘆息した。
「篁文がそういう顔付きの時は、絶対に譲らないもんね」
「そういう事だ」
ヨウゼは、大きく溜め息をついた。
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