水色のアメ玉
篁文達がモールの入り口に着くとほぼ同時に、課の車が到着した。トラックのような見かけで、コンテナの後ろの扉を開けると、両側に向かい合うように長椅子がついていて、その2列の椅子の真ん中にテーブルのような物がある。
しかしこれはテーブルではない。中に各人の装備品が収まっているロッカーである。
コンテナに入ると、各々自分のロッカーに顔を向け、スイッチを押す。それで網膜がスキャンされ、本人と認定された後、ロッカーが開く。
ホルスターを着け、銃を突っ込み、スティックを差し込み、ヘッドセットをつける。
そして表へ出、揃っている事を一瞥して確認すると、走り出した。
先程のレストランの前辺りが、中心地点らしい。
次元の裂け目が店の扉の真ん前にでき、レストランの客は店から退避できないでいるようだった。そしてその裂け目は揺れ、歪み、広がり、やがてサル型が亀裂を潜ってこちら側に現れた。
「周囲の避難は大体済んでるな。あとはレストランの中にいた人だけか」
「注意を引いて引き離すである」
「わかった。その間に紗希とセレエは客の避難誘導を」
ざっと打ち合わせて、飛び込んで行く。
出て来たばかりのサル型は、一瞬戸惑うようなそぶりを見せるものの、気にせず、目の前の「エサ」であるヒトに注意を移す。
「グオオオ!」
大きく腕を振りかぶり、叩きつけるが、ドルメはスイッと避けて店の前から引き離していく。
「ははは!吾輩はここである!」
「お前はこっちだ」
篁文も、次の1体を引き剥がして離れていく。
虫がわらわらと出て来たものの、パセが大方を切り、紗希もモグラたたきの如くスティックを虫型に振り下ろしていく。
「今のうちに避難を――」
セレエが客達を促した時、サル型が雄叫びを上げた。
「しまった!」
ラクシー人達がヘナヘナと、しゃがみ込んだり倒れたりしていく。
「クソッ。異世界生物め!」
誰かが吐き捨てる。
「こうなったら店の中に戻せ!」
慌ててセレエと紗希で、どうにかこうにかラクシー人達を店内に戻して、ドアを閉める。
「サル型は即始末しよう」
「そうであるな」
篁文とドルメは銃でサル型を始末し、次元の裂け目に戻って来た。
「虫型が多いわ!」
「逃がすな!」
逃げようとすり抜けたものを、片っ端から始末していく。
やがて、裂け目が閉じて行き、空間は元に戻った。
「終わった?もういない?」
「いないと、思う」
「はああ……」
紗希とセレエとパセが座り込む。
「ケガはないか?」
「ん、大丈夫」
「あとはラクシー人であるな」
ドルメが言いながら、ドアを開ける。
ガラスのドア越しに倒れながら戦いを見ていたラクシー人達は、体液にまみれたドルメに引き攣ったような声を上げる者もいた。
「ああ、うっかりしておった」
「後は警官に任せて撤収しよう」
篁文はそう言って紗希に手を貸して立ち上がらせながら、皆を促した。
ラクシー人達もケガはないようで、マヒから立ち直ってきている。
「そうであるな」
「やれやれだね。異世界人に助けられた感想を聞きたいところだね」
「いいじゃないの、もう」
パセは、自分の耳を恐ろし気に見つめる老婦人の目から逃げるように、大きなドルメの陰に隠れて言った。
セレエは肩を竦め、皆で揃って歩き出す。
その背中に子供の声がかり、パタパタという足音と、焦ったように名前を呼ぶ母親らしき声がした。
振り返る皆の前で、その子供が転ぶ。
「ああ。気を付けて」
パセが、顔面を床に打ち付けそうになる寸前で子供を受け止めた。
「お姉ちゃん、ありがとう。お礼にあげる」
子供は、握りしめていた手を差し出して広げた。青いセロファンに包まれたアメ玉が5つ、小さな掌の上に乗っていた。
「あ……」
「嫌い?」
パセは耳をピクピクさせて、子供の心配そうな顔を見た。
そして、笑う。
「ううん。大好き。ありがとう」
通じなくて、子供が首を傾げる。
篁文はパセに、アクシル語を教えてやった。
子供は嬉しそうに笑った。
「良かった」
それで、1人1つずつ、手のひらからアメ玉を貰う。
「ありがとう」
子供は笑って、恥ずかしそうに母親の所に走って戻った。
「さあ、行くぞ」
篁文達は歩き出し、車に乗って、装備を戻して椅子に座った。
そして、アメ玉を眺めた。
「ありがとう、か。いい言葉であるな」
パクッと、ドルメがアメ玉を口に入れる。
「シュワッとするぞ」
セレエが、アメ玉を舐めながら目を丸くした。
「篁文、サイダーだよ」
「そうだな」
水色の丸いアメ玉を、口に入れる。
パセはアメ玉を光に翳してみた。
「きれーい」
透き通った水色で、キラキラとしている。そして、丁寧にそれを口に含んで、舌の上で転がす。
「ん。爽やかで、甘あい」
皆無言で、アメ玉を味わった。
お読みいただきありがとうございました。評価、御感想など頂けたら幸いです。




