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第9話 交易都市 ルク・スエル

当然の事ながら現実?世界には戻れていなかった。

何故か分からないが、「ふぅ…。」と溜息を一つ吐く。諦めの溜息なのか、疲労によるものなのかはわからなかった。


そうベッドで上体を起こすと同時にソフィちゃんが扉を開けてニコニコと俺をお越しに来てくれた。


「朝ごはん、もうすぐ出来るからそろそろ起きて下さいね!」


そう言い残してパタパタと走りさって行った。

ソフィちゃん、今日もカワイイなぁ。


カワイイと言っても、その欲情的な意味ではなく、微笑ましい可愛らしさって事だから!!そんなんじゃないんだから!後、10年後…8年後……4年…。

アイルは朝からルク・スエルに向かう為の準備を既にしている様だ。


俺は寝惚け眼のまま部屋の外に出ると、村長の奥さんが朝食の準備をしながら挨拶を交わす。

あらら、俺が一番の寝坊助か…。気まずいなぁ。


奥さんに家の裏手にある井戸で顔を洗って来なさいと指示されて俺はいそいそとそこへ向かう。

そこには馬車に荷物を運ぶアイルがいた。


「あ!起きた?おはよー!今日もいい天気!冒険者日和だね!!」


アイルは眩しそうに額に手をやり空を見上げる。

冒険者日和?そんな言葉は聞いた事がないが、こちらでは天気がいい時にはそう言うらしい。行楽日和とか洗濯日和的な事か。


アイルが顔を上げた先に目をやると確かにそこには雲一つない済んだ空が広がっている。

太陽が燦々と降り注いで気持ちがいい。俺は自然と胸一杯に鼻から深呼吸をする。


記憶にある排気ガスや文明に淀んだ臭いもしない…。鼻孔からは草と土だけの清々しい臭いが入り込み周りからは鳥の囀り(さえずり)も聞こえて来ると、ここはどこのリゾート高原?と錯覚しそうになる。

この空気を吸うだけで心が清らかになる気がした。


そうして俺はそのままアイルの元へ行き、荷物を馬車へ運び入れる手伝いをする。


「起こしてくれれば手伝ったのに。」

「でもパンツも疲れてたでしょ?出発まで寝てて良かったのに。」


アイルはそう言うとニコッと笑う。

優しい子やねぇ…。ええ子や…ええお嫁さんになるで…。うんうん。


ソフィちゃんは奥さんと朝食の準備を手伝っている様だ。

ガガン村長は村長と言うだけあり、朝一で教会に赴き昨夜からの葬儀の儀式を神官達と行っているとの事だ。


しかし…家族っていいなぁ…。

俺の記憶の中では、既に両親は他界し兄妹もいない俺はほぼ一人で生活して来た。

社会人になってから学生時代からの友人とも疎遠なり、彼女が居た事もあったが、別れのテンプレ、所謂、価値観の違いで結婚までは踏み切れずに別れていた。


家族が居れば、あの世界に戻る?決意ももっと強く焦りもあったのだろうか?

俺はぼんやりそんな事を考えるがその記憶も現実なのか判然としない今、深く考えない様にする。


馬車に荷物を積み終わり、アイルと家に戻ると朝食の用意が整っていた。ガガン村長は夜まで戻らないとの事だ。


俺達は4人でテーブルを囲み朝食を摂る。

硬い黒パンと卵焼きと何かの豆のスープが朝食に並んでいる。

味はかなり薄い…記憶にある濃い味付けの料理や化学調味料の味を覚えてしまっているからだろうか。正直、不味い。素材の味を生かしすぎ。多少、塩味が聞いている程度だ。


しかしその薄い味付けの料理でも食卓を大勢で囲み食べると少しは美味く感じられるから不思議なものだ。

しかし味付けに不満がある事も事実…。


余裕が出来たらこの世界の調味料の種類や素材の調達方法も調べてみよう。俺は頭のメモ帳に書いておく。


朝食を食べ終えて、ルク・スエルへ向かう為、馬車に乗り込もうとするが、そこで俺はおかしな事に気づいた。

アイルとソフィちゃんしか馬車に乗りこんでいないのだ。アイルは御者をしようとしている。


あれ?ゲイブルのおっちゃんは?他のパーティは?俺はキョロキョロと周囲を確認するが俺達と奥さん以外、誰もいない。


「え~っと、アイル。ゲイブルさんと他のパーティの皆は?後で合流するの?」

「ん?言ってなかったっけ?あたし達3人だけだよ?」

「は?」


アイルは事もなげにそう答える。

ソフィちゃんは俺の肩に手を添えて嬉しそうにしておりワクワク顔だ。その瞳はキラキラ☆マークになっている。


俺達だけ?え?俺、この世界の事何も知らないのに…。

勿論、常識的な事はアイル達に任せればいいけど一番の年上である俺が何も出来ない事に一抹の不安を覚える。


「途中、神官様の所によって、お父さんに挨拶していくからね。」

「は、はぁ…。」


俺はいきなり3人だけの旅と知り呆けた様な返事しか返せなかった。

そう呆けていると、奥さんが俺だけを呼び出して語りかけてきた。


「なぁパンツさん。あの子達を守って下さいね‥。」

「いやぁ、むしろ助けられるのは僕の方だと思いますけど?はは。」

「またご謙遜を。」

奥さんはそう言うと、弱々しくニコリと笑った。


「実はあの2人とも捨て子でね‥。子供のいなかった私達に神様が遣わした天使だと思いながら本当の家族だと思って育てて来たんです。

あなたにこんな事を頼むのもおかしいかも知れないけど、道中、宜しく頼みます…。」


この旅立つこの場面でいきなり重い話ぶっこんで来たー!!確かに、この世界は正しく危険と隣り合わせの生活だ。


モンスターや野盗に襲われたりして昨日まで笑い合っていた家族や仲間が翌日には死んでいる事もある。

それは俺もつい先日、経験済みだ。


しかし!昨日会ったばかりの俺に娘さん達の命を預けるんですかい!?奥様、無茶いっちゃいけませんぜ!!俺は喉までそう言いかけたが、グッと我慢する。


「はい。分かりました。僕が出来る限り守って見せます。」

「後、これ…餞別って訳でもないけど、うちの旦那が昔、冒険者の頃に使っていたマントと剣。受け取っておくれ。」


奥さんはそう言うと俺に黒いマントと剣を差し出して来た。

剣の柄にはドラゴンの装飾がされており、親指ぐらいの宝石が一つはめ込まれている。

その剣からは何とも言えないもやもやとしたものを感じる。


「あっ!それ、お父さんの剣だ!」

御者台からアイルが教えてくれる。


「そう。お父さんが冒険者時代に手に入れた剣。

今迄、護身用に持っていたらしいんだけど、使う機会がなくてね。

それで今回、アイルとソフィの恩人のあなたに使って貰った方がいいと言って私に預けてたんです。」


「え?いいんですか?結構、高価そうな感じですけど…。」


俺は受け取ったマントと剣を装備し剣を抜いてみる。

今迄感じた事がない気配を剣から感じる。


「何か感じたの?それが魔力だよ。」

「魔力?これが?」

「その剣にはドラゴンの魔導石の一部が使われていて、一定の魔力を込めると炎を纏わせて攻撃力が上がるっ…てお父さんから聞いたわ。見た事ないけどね。」


ドラゴンの魔導石?そう言われてもよく分からないが、『ドラゴン』の何かが使われているなら貴重な物なのだろう…。


「そんな貴重なモノを俺なんかに…いいんですか?」

「いいんですよ。使われない剣なんて意味がないって言ってましたから。」

「有難う御座います。大事に使わせて頂きます。」


俺は剣を鞘に納めて頭を下げる。


「宜しくお願いします。アイル!ソフィ!くれぐれも気を付けるんだよ!パンツさんの言う事を聞いてね!」

「分かってるわよ!!帰って来たらウェアウルフの討伐報酬金でパーティしようね!」

「分かったよ。待ってるよ。」

そう言葉を交わすとアイル、ソフィは奥さんと抱擁を交わす。


「変態!準備は出来た?」

「ちょっ、また変態に戻ってるじゃねーか。昨夜まではパンツだったのに…つーかパンツじゃねーし!パンツァーだっつーの!」


「いいじゃない。もう私達の中ではパンツなんだから!」アイルはそう言うとニカッと笑う。

「くっそ…こんな事なら本名にしとけばよかったなぁ…。ボソッ」

「え?何?ホンミョウって何?」

「!?いや何でもないよ!ソフィちゃん!さぁお父さんに挨拶してルク・スエルに出発しよーう!!

「おーー!!」


ソフィちゃんが本名に食いつてきたが、俺は慌てて誤魔化した。

しかしソフィちゃん、村に帰って来る3日の移動もあって少しは俺に慣れてきたのか多少砕けて来た感じがするな。

いい事だ。うんうんニコニコ。


「またニヤニヤしてる…。また変な事考えてるんでしょ?」

アイルが俺の爽やか?な笑顔を見てそう言って来る。


「いえいえそんな事、めっそーもございませんよー!ただ美女と美少女に囲まれて旅が出来る事を神に感謝していたのです!!」


そう言うと、アイルとソフィちゃんは顔を赤くしてしまった。

「フザケタ事言ってないで、早く乗って!!テレ///」


アイルはわたわたと手を振りながら俺に馬車に乗る様に促す。

そうして馬車はガガン村長の居る教会へ向かい始めた。


………


「お父さん!」

ソフィちゃんが馬車から飛び降りガガンに走り寄り飛びついた。


「おお、もう出発する時間か。気を付けるんだぞ?」

「うん!わかった!お姉ちゃんとパンツさんがきっと助けてくれるから大丈夫!」


はぁぁぁ!こんな美少女に頼りにされてるなんて…涙くぅ…記憶の中の職場ではBBAばっかでうんざりしてたんだよ…若い子いなかったし…。

お局だらけでネチネチ嫌味やら陰口ばかり叩いて、通路を塞いで井戸端会議を始めてデカい声で下品な笑い声をあげるある意味モンスターだったわ。違う意味でタマランチだったぞ。


よし!頑張るぞ!!俺のやる気は既にMAXだ。

そこにはゲイブルのおっちゃんとその他のパーティも居た。


今回、何故パーティに参加しないのかとやんわり聞いた所、今回、亡くなった仲間が親類であったらしく、喪に服すとの事らしい。なるほど、確かに親類が亡くなったのにほいほい冒険には行けないよな。


それに昨日の俺の戦闘能力を見て俺が一緒に行くなら問題ないと判断したらしい。

んー…あの戦闘…現実離れし過ぎて俺自身、未だに信じられないのですが…。と心の中で呟いた。


そうしてガガン村長からも奥さんと同じ様な事を言われたが「まかして下さい!!お父さん!!俺が命に代えても娘さん達は守って見せます!」的な事を言ったら泣かれてしまった。


まるでお嫁にでも出すみたいだねぇとガガン村長の隣にいた神官さんにツッコまれていた。

するとまたアイルとソフィちゃんが顔を赤くして二人してわたわたと奇妙な踊りをしていた。

MPを吸い取る踊りか?


そして俺はガガン村長にマントと剣についてお礼を言う。


「ガガンさん、これ、有難う御座います。大事に使います。」

「いいんだよ。この村じゃ使う事なんてないしな。

一応手入れはしていたから使う分には問題ない筈さ。

それに、あんたならその剣を使いこなせるかもしれんしな。」


……剣なんて使った事もないけどね。

体育の授業で剣道をやったぐらいなんだけど…。


しかしこの村はいい所だなぁ。俺は改めてそう思う。決して裕福な生活ではないが、村人達がお互いを助け合って生活している。


俺の記憶にある世界ではそんな事が薄れてしまっていた気がする。

必ず無事にこの子達をこの村に送り届ける事を俺は心に誓い馬車はルク・スエルを目指し村を後にした。


メリッサ村からルク・スエルまで大凡5日の行程らしい事をアイルから聞いていた。

途中、あのマゾン草原付近を通るらしいので警戒するが特に魔獣や魔物、野盗と遭遇する事もなく無事にルク・スエルへ向かう街道へ抜けた。


この世界では明るいうちになるべく距離を稼ぎ、夜は早めに街道沿いで野営する事が旅をする鉄則だとアイルは教えてくれた。


出発してから最初の夜を迎える際、街道沿いには俺達以外に他の旅人や商人、冒険者と思しき馬車が数両見受けられた。


これはお互いのパーティが目に見える場所で野営をしていれば、何かに襲われた際に助けるにしろ逃げるにしろ気が付きやすいとの事で旅をする上で暗黙の了解事らしい。


五日目の夜が明け、再びルク・スエルへの街道を進んでいく。

ルク・スエルの都市の外壁が目に入り掛けた辺りで、この真昼間の街道に4人組の野盗に出くわした…。

が、俺が何をするわけでもなく、彼女達二人であっさり野盗どもを撃退してしまった…。


前衛でアイルが牽制しつつ後衛のソフィがファイアランスをブチかますと盗賊達は悲鳴をあげて逃げ出してしまったのだ。

それは正に雑魚と呼ぶに相応しい登場と退場劇だった事を思い出し、俺は笑いを堪えきれなくなる。


馬車を取り囲む様に4人が四方を包囲しリーダーと思しき男が


「おい!命が惜しかったら有り金と食糧、アイテムを置いていきな!!そしてお嬢ちゃん達は一緒に来てもらおうか…へへへ。」


と雑魚テンプレの台詞を言いながら腰から抜いた剣を舌舐ずりし下衆な笑みを浮かべて近づいて来たのだ。何から何まで雑魚臭い!!


しかし野盗のリーダーと思しき奴がその台詞を言い終わるやいなや、アイルが馬車の上から即座に飛び出し剣を舌舐めずりしている野盗リーダーの頭に向けて剣…いやその剣は抜かれてはいない。鞘に収まったままだったが其れを食らわせたのだ。


野盗リーダーは剣を舌舐めずりしていた最中、頭上から一撃を加えられた為に舌を噛み、口から血を大量に流しながらその場でゴロゴロと「うおおおおうおおう」と悶絶していた。


そこに包囲を解いた子分連中がまたもやお決まりの台詞を吐きながら盗賊リーダーを助け起こす。


「何しやがる!!もう許さねぇ!ぶっ殺してやる!!」


何しやがるって…。お前たちが襲ってきたんだろうが…。アホか…。


4人が一塊になった所にソフィちゃんの必殺ファイアランスが盗賊達の目の前に突き刺さり炎が爆ぜる。


「う…うえぇ…マジックキャスターまでいあがぁぁぁっぁぁ!ちきしょう!!覚えてろよぉおおぉおお!!」


野盗子分Aとその他がそう叫ぶと、先ほどまでの殺気は何処へやら、語尾は混乱していたのか聞き取れなかったがお約束の捨て台詞を残し盗賊どもは脱兎の如く逃げ出した。

いやいや、痛快だったなぁ。


モンスター相手に戦っているギルド冒険者なら普通の人間では太刀打ちできないだろうな…。

あいつら、女だけの普通の一般人だと思って仕掛けてきたっぽいし…アホだな。しかもこんな真昼間に盗賊行為を行うとか…素人か。


しかしアイルの咄嗟の身のこなしやソフィちゃんとの連携は完璧だった。

アイルも亜人族だからなのかウェアウルフ程とはいかないが、その身体能力は並みの人間とは比較にならない程に俊敏な動きで且つ正確な攻撃を行っていた。


それにソフィちゃんと特に相談していた訳でもないのに自然と連携行動に移れる事に俺は驚嘆した。

俺はと言えば、馬車の中であわわ…どうしようとどうしようとオロオロしていたのは秘密だ。


アイルにソフィちゃんと事前に相談でもしていたのかと尋ねる。


「人族の野盗なんて大した事ないわよ。人数が多ければ難しいかもしれないけど、この真昼間にたった4人で襲ってくるなんて素人同然よ。

それに野盗を撃退した事は今回が初めてじゃないしお父さんやゲイブル達と冒険している最中で撃退方法も覚えるしね。」


アイルは事もなげに「こんな事、日常茶飯事よ。」とでも言いたげな表情でそう答えた。なるほど、別に野盗と遭遇する事は今回が初めてじゃないって事か。

こちらに敵意を向けて来たら先手必勝!これが冒険者の中では必須らしい。

俺には出来そうにないな…。

そして俺は改めてこの世界は物騒なんだなぁと思い返し緊張する。


野盗を撃退した場所から1時間足らずでルク・スエルに到着した。

城壁と言われてもおかしくない、8m~10mぐらいだろうか、その壁がそそり立っている。


ルク・スエル貿易都市。

この周辺の街としては交易都市として一番栄えている街であるらしく、街をぐるりと外壁が覆っている。その四方と中央には見張り台が設置されており、兵士と思われる人影が街の内外を警戒していた。


街の入り口の門には守衛とそこの管理官と思しき騎士がいた。

アイルは街に入る為の幾らかの王国銀貨を管理官に渡し、来た目的や滞在期間などを答えると管理官がそれをすらすらと手に持っている黒板?の様な物にその情報を書き込み、積荷のチェックを行った。


内容に問題がなかったのか、管理官から紐を通したスマホ程の板を俺達に人数分渡してきた。

これは街に入る際には必需品らしく街の外から来た者である事を証明する入国証パスみたいな物らしい。


しかし本来の目的は異なり、この板には魔法が付与されており、街に入った者が犯罪や滞在期日を超えて不法滞在が行われた際には、魔法を発動しその場に止めて逃走出来ない様にする魔法が掛かるらしい。

またどこにいるのか位置も特定出来るらしいので逃げ遂せるのは至難な事だろう。


また紛失や破損をしてもこの魔法が発動するらしく、この街に滞在する間は常に身に着けておく様に注意され、街を離れる際には守衛に返却する様、管理官が説明してくれた。

魔法やっぱり凄い…。便利過ぎ。


渡された入国証パスをアイルとソフィが首から提げるのを見て、俺もそれに倣う。

街に入ると確かにこの周辺地域で一番栄えていると言われるだけの事はあり、地面は石畳で綺麗に整備された道が隅々まで行き届いている。


大通りの道幅は8m程あり、馬車同士が道を譲り合う事なく往来できる程に広く、綺麗に区画整理されている。


また街の至る所で地元の露天商や外から来たと思われるあのパスをぶら下げた商人達が道行く人々に声を掛けて商品の素晴らしさをアピールして商売を行っている。賑やかなのは大通りだけではなく、少し奥まった裏通りでも同様に人々が行きかっているのだ。


「はぁ~大きな街だなぁ。」

「でしょ?私達もギルドに用がある時しか来ないけど、何度来ても驚いちゃうもの。来る度に違うお店が建っていたり知らない道が増えてたりするし。」


アイルはそう答えるとその横でソフィちゃんが馬車から身を乗り出して目を輝かせている。

成る程、メリッサ村を出る時も眼をキラキラと輝かせていたが、村とは違う街に来れる事を楽しみにしていたんだな。


「これからどこに行くんだ?このままギルドに行くのか?」

「まず宿の手続きが先ね。馴染みの宿があるからそこに馬車と荷物を置いてからギルドに移動しようか。」

「了解です!アイル団長殿!ご指示に従います!!」俺は敬礼しながらそう返す。

「何をバカな事言ってるのよ。」そうクスクスとアイルは笑う。

「お姉ちゃん、団長さんになったの?」

「そうだよ。ソフィちゃん、アイルお姉ちゃんは俺達の団長さんだよ。団長殿に挨拶しないとね。」

「アイルだんちょー!宜しくお願いしまーす!」ソフィちゃんが敬礼のポーズをしつつ俺の悪乗りに便乗して来た(笑)


「ちょっ…、ソフィにまで変な事教えないでよ!まったく変態なんだから。もう。」そう言うアイルの表情は頬を膨らませてはいるが本気で怒っている表情ではなく冗談を交わす友人を諭す様な顔だった。


しかし団長と言う揶揄はあながち誇張って訳でもないと俺は思う。

この街を知っているのはアイルとソフィちゃんだけだ。しかもアイルは馬車も操縦出来るしこの街についても俺達の中では一番詳しくこの街の事を知っているのは間違いないのだから。その団長に従うのは当然の成り行きた。


冗談を言いつつ街中を進んでいくと、アイル達の馴染みの宿が見えて来た。


「ゆっくりしていっ亭」


………これがその馴染みの宿の名前らしい。

ダジャレかよ!!俺はこの親父ギャグセンスに心の中でツッコミをいれつつもここの宿屋の主人と気が合いそうだな…とふと思う。


「この宿屋の名前、ダジャレ…だよね?」

「ん?そ、そうね。でも普通の宿屋よ?ここのご主人はお父さんの友人で昔一緒に冒険していたパーティ仲間だったのよ。私達も子供の頃からお世話になってるの。」


そう言いながら、アイルは慣れた手つきで宿の隣の厩に馬車を止めると同時に宿から前掛けをしたスキンヘッドで口髭を蓄えた2m程あるだろうがっちりとした50代前後のおっさんが宿から出て来た。


「あぁぁん?誰だ?おめぇは?」

え?いきなり絡まれた?


怖い人出てきた…。

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