第8話 冒険者ギルドと魔法
俺は身体を拭きながら改めて先ほどの魔法を称賛する。
「いやーしかし凄いなあれ…。いつでも水を出せるとか…。いや本当に凄い…。」
「こ、こんな事、素質を持って少し習えば誰でも出来る事だよ…!それに無限に出し続けられる訳じゃないし。」
そう言う割には俺に褒められてアイルの顔もまんざらでもない様子だ。
「でもソフィの方が魔法の素質はあるから魔法全般はお任せしてるんだぁ。それにさっき話したけど、ソフィもマルチプルキャスターなんだよ!ねっ!」
アイルが隣に座っているソフィに肩をかけながらニコリと笑いかける。
ソフィに目を向けると俯いてモジモジしている。恥ずかしがる様な事じゃないと思うけど…。
魔法属性の複数持ち(マルチプルキャスター)…。複数の魔法属性を持つ稀有な才能持ち…か。
「それってかなり珍しいって言ってたよね?ソフィちゃんの属性は何になるの?」
「え…えっと、あたしは、火と水と風の属性を持っています。」
「ほぇー…水はさっきアイルが見せてくれた様な魔法で、火も見たなぁ。風ってどんな魔法なの?」
「風魔法については、攻撃では空気を急激に圧縮して相手に空気弾を撃ったり、切りつけたり、更に高位魔法になると嵐を巻き起こしたり竜巻をおこす事も出来ます。」
天候まで操れるのか…。魔法しゅごい。
「それと風魔法の用途としては、周囲に一定範囲に魔素を漂わせて敵の侵入を探知させる事や、その他に空を浮遊する事も出来るみたいです。私もまだ出来ませんけど。」
「空も飛べるの!?はぁ~!!」
俺はそう関心して感嘆の声出しながら自分の膝頭をぺしりと叩く。
「なんか一々反応がおっさん臭いわね‥。」
アイルがボソっと呟く。
(実年齢はおっさんなんだから仕方ないだろ!記憶が正しければ38だぞ!38!)
「しかし魔法凄いな!俺も出来る様になるかなぁ?魔法とか使ってみたいなぁ。俺みたいなおっさんでも使えるかなぁ…。」
魔法おっさん、プリキュ○さんじょ~!!○に代わっておしおきよ~!!
色々混ざっている気がするが俺はそんな事を夢想する。
「おっさんて…パンツ、そこまで歳行ってないでしょ?私達と同じか少し上ぐらいにしか見えないし。」
「え?」
おいおい、若く見えますね~なんてキャバクラ嬢の常套句でおっさんを喜ばしても何も出ませんよ?(笑)まぁ嬉しいけどさ。
「それにパンツは魔法の属性や適正は分かって…る訳ないよね…。何も知らないパンツおぼっちゃまだし…。」
「おいおい!(…まぁ仰る通りだけども…。)その魔法の属性や適正は何をすれば分かるんだ?」
「私達のこのメリッサ村では、生まれて直ぐか幼少期に属性や適正の確認を村の神官様にして貰うのが通例だけど、その他だと都市や王都のギルドで属性の確認をして貰うとかかなぁ。
でも今この村の神官様は葬儀中で忙しいから一番近くの都市ルク・スエルのギルドで属性の確認をした方がいいかもね。」
「なるほど。それと、さっきの集会で聞いたけど『白銀級』って何の事?」
「『白銀級』って言うのは、ギルドに所属する冒険者のランクの表す一つの名称よ。
ギルドでは強さやその貢献度に応じて10階級に分かれていて、階級によって受けられる依頼内容も代わってくるの。
当然、ランクが上に行けばいくほど困難な依頼になるし国や都市からの依頼を受けられる様になるわ。難しい依頼程、報酬も破格だけどね。」
コランダム (鋼玉)級
アマゾナイト (天河石)級
サフィア (蒼玉)級
ルビック (紅玉)級
スピネル (尖晶石)級
クリソベリル (金緑石)級
プラチナ (白金)級
ゴールド (金)級
シルバー (銀)級
シェル (貝殻)級
「ふーん。じゃぁ、冒険者になったばかりのシェル級の奴が最上位のコランダム級の依頼とかは出来ないって事?」
「当たり前じゃない。コランダム級なんて本当に御伽噺に出てくる様な方達よ!一人で国の命運を左右する程の力を要するみたいだし。」
「でもそのコエ○ザイム級ってのもいるんだろ?何人ぐらいいる訳?」
「コランダム級ね…。(何?コエン○イムって…)コランダム級は過去を含めて有史5400年の間に3組しか認定されていないわ。」
「はぁぁぁ!5400年の間にたった3組!?」
5400年も歴史があるのにこの文明レベルなの?それとも魔法があるから科学技術が停滞しているのか?
しかし魔法は俺の知っている科学技術よりも優れている物も多そうだ…。
水革袋とか…。優劣付けるのは間違いかもしれないな…。
しかし3組?3人じゃなくて3組って事はパーティって事か?
「分かるでしょ?どれだけコランダム級が湛えられているのか。その3組はそれぞれ各地で御伽話になっているぐらいだし。」
「御伽話って…それじゃもう誰も健在じゃないって事なのか?」
「まだ1人はご健在みたい。フリオセラ王国で騎士団総団長をしていたみたいだけど、高齢に伴って100年前頃に隠居されたって王都ギルドで聞いたわよ。」
100年前って…それ、今も生きてるのか?
「100年前に隠居してるのにまだ健在って…、その元団長さん何者なんだよ…。」
「私もよく知らないけど、巨人族って聞いてるわ。ね?ソフィ?」
「うん。最後のコランダイム冒険者パーティ「閃光天翔ける稲妻」の一人、閃突のダンケル。
巨人族の割には小柄…小柄と言っても私達よりかは遥かに大きいみたいだけど、巨人族の中ではそれが理由で虐げられたみたいで、それが悔しくて努力を重ねて巨人族の族長にまで上り詰めた後に人里におりて冒険者になったって…絵本の御伽話で読みました。」
ソフィはその絵本を思い出す様に話してくれた。
「ほぉ。巨人族も長命っぽいな。しかし冒険者が騎士団に所属したり出来るのか?」
「出来るわよ。騎士に召し抱えられても冒険者の階級はそのまま継続されるし、そもそも白銀級以上は各々、国や機関から優秀な戦闘員や諜報員・参報役として誘われたりする事もあるし。」
それに任官すれば安定した待遇や給金も支払われるしそこまで悪い選択じゃないし、むしろそれを目標にしている冒険者もいるぐらいよ。」
ふむ。いわゆる公務員的な感覚か…。
「でも中にはそんな騎士や国のルールに縛られたくない冒険者も当然いるから誘われても任官しない連中も多いみたいだけどね。」
アイルがそう答えてくれたけど、確かに騎士や国のルールに縛られて自由に冒険が出来なくなるのは嫌だもんなぁ。
「それに白銀級から上は、私達からしたら化け物みたいな連中だし目にする事も稀なんだけどね…コランダム級なんてもう神の領域よ…。」
「そうなのか…そんな階級があったんだな。ところでアイル達の階級何なんだ?」
「最初に会った時に言ったでしょ?私達はまだ銀級…。」
「銀!?凄いじゃないか!」
「あのねぇ…銀なんて駆け出しの貝殻級から順調に依頼を熟していけば慣れる階級なの。それに私はまだ1年しか活動してないし。」
え?そうなのか?俺の国では銀とか金は最高級ってイメージだったんだが…。
「基本的にギルドの階級名称は、採掘される階層の希少鉱物を元にしてるらしいよ。金銀なんてハズレ扱いだから鉱山を掘れば直ぐに出てくるわ…。」
何?今凄い事聞いたぞ?金銀がザックザックって事か?
「うそぉお!金や銀がそこらじゅうから掘れるの!?」
「………。なんでパンツが喜んでるのか分からないけど、当然、沢山産出される訳だから価値は高くないって事よ?」
「……え?」
それはそうか…。市場原理として当たり前か…需要と供給のバランス…。一瞬でも夢を膨ませた俺がアホだな。記憶の中の世界では金は高値で取引されている鉱物だったしなぁ…。
「………そう…なのか…ショホ゛ン」
肩を勝手に落としている俺にアイルが語りかける。
「ねぇ、明日から今回のウェアウルフ襲撃の報告をしにルク・スエルの都市ギルドに行こうと思ってるんだけど、パンツも行く?」
そう言うとアイルが猫耳をピョコピョコ動かしながら俺の顔を覗き込んで来る。
部屋に置いてあるランタンに照らされてアイルの顔に陰影が掛かっているが、ソフィちゃんもカワイイけど、アイルも美人だよなあぁ。それに猫耳がタマランチですよ!
「あっ!…ああぁ!!こちらこそ宜しくお願いするよ!!」
俺はドキリとして咄嗟に顔を挙げながら素っ頓狂な声で了承の旨を伝える。
「良かったぁ!ルク・スエルに向かうのに、途中、マゾン草原付近の街道通るのは少し怖かったのよね!パンツが居てくれるなら心強い!」
アイルはニンマリと笑い握りこぶしを作りながら耳の動きが更に激しくなっている。興奮しているのだろうか?それとも安心しているのか?もしかしてあの覗き込んでからの上目使いはアイルの口説きのテクだったのか?その心情はよく分からない。
「じゃぁその序にパンツの魔法適正もルク・スエルの都市ギルドで調べて貰えばいいよ!」
「あの、非常に聞きづらいのですけど、…そのってギルドで属性の適正検査とかギルドに登録するのにお金が必要になったりします…か?」
俺は当然の事ながら手持ちの金はない為、おずおずと聞いてみた。
「そうね…ってパンツ…まさか…。」
「あ、ははははは…あの…真っ裸だったから…その実は、そうなんだ…。」
「…分かったわ!立て替えといてあげるから!その代り、私以上に稼いでよ!」
「ああ!!有難う!!(とは言ったものの、正直、何をすればいいのか分かってなかったりして…。汗)」
「ちなみにギルドに登録するにはお幾ら万円かかるのでしょうか?」
「おいくらまんえん?何?それ?」
「いや、登録料はいくらかかるのかなーと。」
「ギルド登録には王国銀貨2枚だった筈よ。魔法適正検査には王国銀貨1枚だったかな?」
「……ふ、ふ~ん…それって高いの?」
「あなた…貨幣価値までわすれちゃったの!?」
「忘れた‥というか…知らないと言うか…。」
そうしてアイルに呆れられながらも貨幣について聞くことができた。
このメリッサ村が位置する周辺で使用している貨幣は以下のものが流通しているらしい。
おおよそ俺の記憶にある貨幣に換算すると以下の感じだ。
王国白銀貨1枚=100万円
王国金貨1枚=10万円
王国銀貨1枚=1万円
王国銅貨=1,000円
王国鉄貨=100円
王国銭貨=10円
「登録したら更新とかしなくていいのかな?」
「金級以上からは更新しなくてよくなるわ。シェル級、銀級は冒険者としてのお試し期間みたいなものだから、冒険者が性に合わなければそのまま違う職業につけばいいし、それに殆どの冒険者はこのシェルから銀級のランクの内に命を落とす事が多いのよ。」
血気盛んに冒険者登録して簡単な依頼を引き受けた先でその日の内に亡くなる事もあるそうだ。
俺たちが遭遇した様に突発的に上位クラスのモンスターと鉢合わせしたりもするしな…。
俺とアイルが話込んでいる間にソフィちゃんは疲労が溜まっていたのか、既に夢の中でアイルの膝の上で寝息を立てている。
俺はソフィちゃんを抱えてアイルの部屋に送り届けた後、俺は用意された客間で睡眠をとる事にした。
ベッドに横になってこの世界に来てからの嵐の様な日々を振り返る…。
俺は車で帰宅途中だった筈なのに…今は見知らぬ村のベッドで横になっている。
明日、目が覚めたらあの現実?世界に戻っていたりするのだろうか?それにあのウェアウルフを倒した力…。人間の力を超越してしまっている。やはりこれが夢なのか?
考えれば考えるほど目が覚めて眠れる気がしなかったが、精神的な疲労感が勝ったのかいつしか俺はいつの間にか眠りに落ちていた。




