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第55話 思惑


「「ぎゃぁぁぁっぁぁぁっぁっぁぁ!!」」



ガガンさん家のリビングに空間転移ワープで顔だけ出した所、既に起床して朝食の支度をしていたアイル達の母親、コフィさんの目の前に出てしまい、お互いにビックリして大声を出してしまう。



「どうした!何があったぁ!!おい、どうした!何があったんじゃぁ!!」

「パパパ、パン…パン…パンッ……顔が……」ブクブク

「パンの顔!?何をいっとるんじゃ!かあさぁん!誰かあぁあぁぁ!だずげでくだざぁぁぁぁっぁい!!!!」



ガガンがコフィを助け起こすとコフィはうわ言の様に呻きながら泡を吹いて気絶してしまった。



「びっくりしたぁ!反射的に逃げてしまった……。危うくコフィさんとチューする所だったぞ。お互いの鼻先と鼻先が触れ合う距離だった……。危ない危ない。

しかしコフィさん、大丈夫かなぁ…。そしらぬ顔で自分の部屋に空間転移ワープしよう。」



そして俺は自分の部屋に空間転移ワープを発動し、恐る恐る顔を入れて覗き込み誰もいない事を確認してから部屋へと降り立つ。



「パンツゥウウウウウ!!」



ビクッ!!

俺が空間転移ワープから出て来るやいなやアイルが扉を勢いよく開け放ち入って来た。



「パンツ!!母さんが!母さんがぁあ!!」

「ちょ、ちょっと落ち着け。どうしたんだ!?」



いや、知ってるけど。

アイルが俺の手を引いてリビングまで連れてくる。

そこにはコフィさんを抱き抱えるガガンさんとそれを見守るソフィちゃんがいた。



「誰かあぁあぁぁ!だずげでくだざぁぁぁぁっぁい!!!!ウオォオオオォオオオオンン!!!!」



ガガンさんがコフィさんを抱きながら泣き叫んでいる。

取り乱しすぎだろガガンさん……。

まるで『セカ○ュー』のラストシーンみたいだな。



「朝の支度をしていたらお母さんが急に倒れちゃったの!!どうしよう!!」

「アイル、落ち着いて……びっくりし……じゃなくて、過労で倒れただけだと思うから……。」



コフィさんは気を失っているが息はしているし今は静かに眠っている。

暫く寝かせていれば起きる……と思う。

ステータスにも状態が『気絶』と表示されていた。



「ソフィちゃん、一応、治癒魔法ヒールをかけておいてくれる?」

「うん!分かったぁ!お兄ちゃん!!」



ソフィちゃんはそう言うとコフィさんに治癒魔法ヒールを掛ける。

これでダメならさっきファムさんにもらった特級復癒液エリクサーを使ってみるか。

100本もあるし。

でも使い方知らないんだよなぁ……。



「んんんぅ……。あれ?ソフィ……。あたしはどうしちまったんだい?」

「がぁぁああざぁぁぁあああんん!!よがっだぁあぁぁああああ!!!!」



治癒魔法ヒールをかけるとコフィさんは直ぐに気が付いた。

特級復癒液エリクサーを使わずに済んだ。

良かった良かった。

ぶっかけようかと思っていた所だったから。

ガガンさんはコフィさんを抱きしめる。強く。愛してるんだなぁ。

するとコフィさんは俺を見るなりビクッと体を震わせる。



「パ、パンツ君?」

「はい?」

「さっきいきなり首だけ私の目の前に出て来なかったかい?」

「……………い、いいえ?ま、まさか。そんな事する訳ないじゃないですかぁ。あははは。」

「そ、そうかい?パンツ君の顔がいきなり目の前に出て来たと思ったんだけどねぇ……。寝惚けてたのかねぇ……。」

「お、俺がそんないたずらする訳ないですよぉ。いやですよぉコフィさんったら。オホホホ……。」



俺は冷や汗を流しながら誤魔化す。



「……オホホホホホホ、いやですわぁ奥様ったらぁ‥…。」



ポン。ぎゅぅううう

俺の左肩を恐ろしい握力で握る手が……。

肩が……肩がちぎれるぅうぅう!!



「ぱぁ~ん~つぅ……。」

「あらま?どうしましたのアイルさん?そんな眉間に皺寄せちゃって。かわいいお顔が台無しですわよ?おほほ……。」

「また何かやった?」



相変わらず俺の挙動不審な所を見逃さないアイル様。



「………………やってますん。」

「どっち!?」



その後、俺は正直に昨夜から明け方にかけて、空間移動ワープしてルク・スエルに行って戻って来た所にコフィさんと危うくチュー寸前だった事を白状してアイルにボコられました。

何故かコフィさんは顔を赤くしていた……。


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2週間前のオースフィギス王都、王城内の一室



そこには二人の男が応接室のソファに座り向かい合って話していた。

向かい合う2人の男の後ろには、各々1人の護衛が控えている。



「この報告書の真偽は確かめたのかね?ユーユリス。」

「はい。現地に所属している者からも同様の報告が来ております。シェイン殿下。」



王国側とギルド側との月に1回の定例報告。

王国側の代表はオースフィギス王国の第3王子の『シェイン』様と御付騎士の『ロズベルグ』。

王都ギルド側はギルドマスターの私、『ロス・ユーユリス』と副ギルドマスターの『カロリーナ・ヴィスラ』。


シェイン殿下は30台後半の中年で、太り気味の腹をぶるぶる震わせながら、豪奢なマントをひらめかせながら闊歩し、すぐ傍に御付騎士であるロズベルグが常に警護している。


このロズベルグと言う騎士。

既に3年以上もこの会合で私達と顔を合わせているにも関わらず、常に油断する事なく警戒を解いた事がない。

長い銀髪を靡かせ、銀の鎧に身を包み、金色の冷たい視線で油断なくこちら(ギルド側)を観察しているのが常だ。

非常に美人なのにもったいない。あれでは男が寄り付かないだろう。


『雪原の悪魔』の異名で呼ばれている騎士。


王国の騎士団は、四方を守護する4つの騎士団と中央で王を守る中央騎士団ロイヤルナイツがあるが、その団長職の『資格』を持つ1人がこのロズベルグだ。

元は北を守護する白銀騎士団シルバーナイツに所属し副官に就いていたが、王子の『眼』で能力を鑑定され、王族を守る自らの守護騎士ガーディアンナイトとして採用された。


ちまたの噂では、能力云々よりも、殿下がロズベルグの美貌に見惚れてしまったからと言うのがもっぱらだが……。

しかしその美貌だけではない事は『雪原の悪魔』と言う異名持ちと言う事でも実力は折り紙つきだ。

白銀騎士団シルバーナイツ所属時代に、50を超えるランクC魔獣を一人で退け、その魔獣を操っていた操獣者テイマーを捕縛し部隊を救った事があるらしい。

私が見た所、恐らく冒険者のランクで言えば『金緑石級クリソベリル』以上は間違いないだろう。

私がそう思っている所に、シェイン殿下が言葉を続ける。



「信じ難いな……。6属性の魔法適正者とはな。」

「はい。それとこの者、ギルドに所属する前の話らしいですが、素手でウェアウルフを討伐しているとの報告も上がって来ています。」

「………!?素手でランクC魔獣のウェアウルフを討伐だと!?…………はっはははっはは!面白い冗談だな!!なぁ?ロズ?

ユーユリス。貴様、王族でもないのに王族ジョークも出来る様になったのか?」



シェイン殿下は、でっぷりとして腹を揺らしながら愉快そうに笑うが、後ろに控えるロズベルグは同意を求められたのに表情を一切変えない。

それに引き替え、私の後ろにいる副ギルマスのヴィスラは私の首に手を回し頬ずりしてくる。



「はぁぁぁ……ユーユリスたんったら、可哀そうでちゅねー。殿下にいじめられちゃって。可愛い可愛い!」



この緊張感のない変態女め。



このヴィスラ、冒険者ランクは尖晶石級スピネルで職種は忍導師じんどうし

普通であれば、他の都市や村などのギルドマスターを任せてもいいのだが、本人が他の街へ行く事を頑なに拒否するので仕方なく私の傍に置いている。


髪は淡い紫がかったショートカットで左目には私には読めない文字なのか紋様なのか何かのマーク入りのアイパッチ。

しかしこのアイパッチ、日によって左右変わるので恐らく意味はないのだろう。

上半身は黒装束、下半身は白と黒で彩られた前後にスリットが入ったスカートを着ており、スラリとした脚が覗いている。


脚には脛当て、両腕には籠手を装備し腰には短刀、背中に大きな1本の刀を差し、自信ありげな笑みを浮かべている子供好きの変態女で見た目が子供っぽいと言うだけで私を子供扱いする失礼な奴だ。



忍導師じんどうし

忍術と呼ばれる独自の術と併せ、通常の魔法も使用可能。

剣術や徒手空拳にも秀でており、暗殺も熟す事が出来る上、毒物の扱いにも長けている。

下位の職種としてシノビがある。

魔法使マジックキャスターいの弱点である体術の弱さを克服しており、戦闘職としてほぼ完成形と言える。



「ちょ……ヴィスラ……降ろして。まだ話終わってないから。」



私を持ちあげて高い高いしているヴィスラに降ろす様に言う。



「んもぅ……私の事は『カロリーナ♡』って呼んでって言ってるのにぃ。後でもっと高い高いしてあげるね!!」



いややめて欲しい。

恥かしいしこの間も後ろからいきなり高い高いして危うく心臓が止まるかと思った。

他界他界になってしまう所だった。

ゆっくり降ろして貰い報告を続ける。



「私もその事が信じられず、何かの間違いではないかと思い、再度、報告書を検めなおす様、返したのですが……ギルマスのレトがその者と実際に手合せをしたらしく、その実力は自分に匹敵……もしくはそれ以上の力を有する可能性があるとの事でした……。」

「………それは真か?しかも6属性の魔法を使うのだろう?……御伽噺の世界ではないか。信じられん。」

「殿下、6属性の適正とは言っても、まだ魔法を使ったと言う報告はありません。これは私の推測でしか無いのですが、恐らく魔力が少ないのかもしれません。」

「適正があっても魔力が乏しければ使う事もない。それで武闘家をしている……と言う事か?」

「……恐らく。一定基準の魔法が使えるのであれば、危険を犯してまでわざわざ近接戦闘が得意なウェアウルフ相手に素手で戦いを挑むなど正気の沙汰ではありません。」

「ふむ。……確かにそうだな。しかし真偽を我々自身でも確かめる必要がありそうだな。」

「と、言うと?」

「王都にその者を呼び寄せて余が直接この『眼』で鑑定してやろうではないか。」



シェイン殿下はそう言うと、左手の人差し指と親指で、左目の上下瞼を拡げる仕草をする。

殿下は人の能力を『視る』事が出来る光魔法『能力可視化アビリティビュー』の使い手なのだ。

本人も詳しくは口外しないので、どの程度まで視れるのかは不明だが、魔法の属性や魔力量は見えている“らしい”。



「そこまでしなくてもよろしい気がしますが……。」

「優秀な冒険者であれば王国の騎士として引き入れてもよかろう?」

「いえいえ、それでは将来的に我々ギルドの稼ぎ頭がいなくなってします……。」

「兎に角、この件については王より勅命を出す。彼の者を王都へ呼ぶのだ。よいな?」

「……は。仰せの通り致します。殿下。」



その言葉を聞いて満足したのか、王子は御付騎士を伴って部屋を退出する。



「ふぅ……。」



会議が終わり私は息を吐く。

普段の定例会議では各地方ギルドの魔獣出現状況と討伐状況の報告。

そしてギルドの運営状況の報告で終わる筈なのだが、今回は一人の冒険者について言及があった。


『グネグネグネール・パンツ』


このかわいそうな名前の新人冒険者についてだ。

いつもの報告を終えると、軽食を摘まみながら雑談で終える筈が、今回はシェイン殿下から唐突にこの冒険者の話題を振られたのだ。

ギルドから王国側へ報告書は定期的に提出しているが、どうやらちゃんと読んでいるらしい。


このパンツと言う男。

私の推測通り魔力量が低く碌な魔法が使えないのであれば魔法使マジックキャスターいとしての需要はほぼないだろう。

しかし武闘家としての力についてはレトの報告書から大体察する事が出来る。

間違いなく金緑石級クリソベリル以上の力を保有している筈だ。

この様な優秀な冒険者をみすみす王国へ引き渡してなるものか。



「お疲れ様だったね。ユーユリスたん。」

「あぁ。いつもすまないね。ヴィスラ。」

「ん、気にする必要はないよー。しかしその『グニャグニャパンツ』だったっけ?」

「『グネグネグネール・パンツ』さんです。」

「変な名前だねぇ。その『グネグネ』って子、久しぶりの実力者みたいじゃないか?レトの奴と互角なんだって?」

「……そう、らしいですね。私も一度、会っておいた方がいいかもしれませんね。」

「会いに行くの?ユーユリスたん。」

「いえ、先ほどもシェイン王子がお話していた通り、こちら(王都)へ来る様、王の勅命で召喚命令が出ますから、その際にお会いできればよいです。」

「王の勅命と言っても、あのデブ王子が勝手に王の名を語って召喚書を作ってるだけでしょー。」

「しかし我々がそれを証明する手立てはありませんからねぇ。」

「それで?どうするの?グネグネ君を王国側に引き渡すの?」

「前途有望な冒険者をおめおめ渡したくないですし……。」

「でもこのままじゃ王国騎士に引き抜かれちゃいそうじゃない?いいの?」

「………ヴィスラ。お願いがあるのですが、頼まれてくれますか?」

「お?その顔は面白そうな事を思いついた時のユーユリスたんの顔だ!高い高いしてあげる!!どっこいしょ!!」

「いやぁ!!やめてぇええ!!」


※ブクマ登録して頂いてありがとうございます!

今後とも誤字・脱字・評価・ブクマ等して下さるととても嬉しいです!

感想など頂ければ作品の方向性の参考にもなりますのでよろしくお願いします。

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