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閑話 ~アイル~

今回は、アイル目線のパンツとの最初の出会いについてです。

いつもより長めですので、時間がある時にでもお読みください。



「あんたぁぁ!ソフィに何をしたぁぁぁぁ!!」


私は目の前にいる男に殴り掛かっていた。

少し時間を戻す。

私はアイル。妹のソフィと私の村、「メリッサ村」でパーティを組んでいるゲイブル達とマゾン草原(魔物草原)にやってきた。


ゲイブルはメリッサ村で鍛冶屋をしている兼業冒険者だ。

普段は村で農機具の制作と修理を行って生計を立てているが、仕事がない時は仕事仲間たちと冒険者として活動している。


そしてソフィは私の妹だ。

しかし私たちは血は繋がっていない。

それもその筈、私たちは捨て子で今の人族の両親に拾われて育てられたのだ。


ソフィはエルフ族。私は猫の亜人族。

種族は違うけれど、私たちは姉妹として今までお父さんとお母さんに愛情をたっぷりに注がれて育てられた。

優しく、時に厳しく怒られる事もあるけど大好きな両親だ。


種族が違っていても、私たちは紛れもない唯一の家族。

それにソフィは私の自慢の妹だ。絶対、誰にも傷つかせない。

私が守ってみせる。


まだギルドに登録して1年しか経っていないが、ギルドに登録する前からお父さんやゲイブル達の冒険に連れて行って貰ったり稽古も付けて貰って今は自分なりに剣術で腕を上げようと模索している段階。

自慢ではないが、戦闘力『だけ』なら既に『白銀級プラチナ』にも引けをとらないと都市ギルマスのレトからもお墨付きを貰った程だ。


直ぐにでも『金級ゴールド以上』に昇格出来るだろう!とレトに言われたのだが…中々上がれない。

じゃぁ何がいけないかと言うと…。

……それはまた今度の機会にしよう…。


ソフィ自信も魔法適正がある。

しかも希少レアな3種類の複数属性マルチプルキャスター持ち。

ソフィ自信も魔法には興味津々で小さい頃から村の神官様に魔法を教えて貰ったりしている。


今では、このパーティの後衛には欠かせない戦力だ。

このまま大きくなったら途轍もない大魔法使いになりそうでソフィの成長は両親だけじゃなく私にとっても楽しみの一つだ。


そんなパーティで私たちはマゾン草原…通称『魔物草原』と呼ばれるモンスターが沸き立つ草原に歩を進める。

一般人であれば絶対に立ち入らない場所だ。


ここの草原の周囲には魔素が大量に漂っており、モンスターの出現・遭遇率がその他の地域と比較して多い場所だ。

しかし、冒険者達はこの場所に集まってくる。


集まる理由…表面上は、この草原からモンスターが溢れ出さない様に周辺住民を守る為に討伐を行っている。

…となっているが、実際は、モンスターを討伐した後にギルドから支払われる報酬金目当てでこの草原に入り込む冒険者が多い。


後、一つの理由として、冒険者達の戦闘経験値を上げる側面もある。

訓練でもある程度の経験値は得られるが、実際の戦闘からしか得られない経験もあり、むしろ実戦での経験値でレベルアップを図りやすいのだ。


私たち冒険者にとっては、奥深くまで入り込まなければ戦闘経験値とモンスター討伐による報酬金を獲得出来る良好な狩場でもある。

今回、私たちはソフィと私のレベルアップを目的としてこの地に足を踏み入れた。勿論、討伐報酬金も目的の一つだ。


私たちの故郷『メリッサ村』から馬車で3日、馬車に揺られて、今、この草原に到着したばかりだ。

到着すると、すぐさまゲイブル達と野営の準備を開始するが、

そこは慣れたもので、過去にも野営に適した場所を私たちは知っている。


草原に抜ける森の前に洞窟が一つぽっかりと空いているのだ。

今回もそこを拠点にして、モンスターの討伐の用意を開始する。

しかし今は太陽が既に中天をとっくに過ぎており、後、2時間もすれば周囲は真っ暗な闇に閉ざされるだろう。


夜はモンスターの活動が活発になる危険な時間帯だ。

私たちも『銀級シルバー』冒険者として活動しているが複数のモンスターに囲まれたら全滅する事は目に見えている。

その事も踏まえて活動は明日の朝から開始する事でゲイブル達と話しあった。


私が洞窟内で簡易テーブルや食事の準備をしているとソフィがいない事に気付いた。

洞窟を出て外を見回すがソフィの姿が見えない。

ゲイブルや仲間達に聞くと、森を抜けてすぐ傍の草原入口付近に薬草を取りに行ったらしい。


この草原は、ポーションの原材料となる『復癒草』も群生している。

ソフィはそれを採取しに行ったのだろう。


しかし傍に私たちが居るからといってもソフィ1人でこの魔物草原を歩きまわせる訳にはいかない。

今回の討伐対象のモンスターはゴブリンを予定しているが、奴等は力こそそこまで強くはないが、他種族に向ける嗜虐性は異常そのものだ。


女・子供なら攫って容赦なく暴行の限りを尽くす野蛮なモンスターで、

過去何度も村を襲われて女性ばかり攫われ酷い目にあい、癒えようのない心の傷を負った女性達がいる事も知っている。

身体の傷は治癒魔法や堕胎の魔法で回復させる事も可能だが、心の傷が癒える魔法なんてそうそうあるものではない。


聞いた話では『光魔法』や『冥魔法』には「精神支配」や「記憶操作」、「魅了」と言った生物の精神を操る魔法が存在するらしい。


この魔法なら傷つけられた心を癒す…というより記憶を消す……事で精神崩壊した心を立ち直らせる事が出来るかもしれないが、周囲の人間の心までは癒す事が出来ないからやはり自分自信や周囲の家族、友人たち自身で向き合っていくしかないのかもしれない…。

しかしこの2つの魔法、何故だか分からないが適正を持つ魔法使マジックキャスターいが極端に少ないのだ。

使い手が多くても怖い魔法ではある。


「精神支配」などされてしまっては正しく操り人形と化してしまい、下手をしたら国を動かす程の権力を手中に治め、やりたい放題されてしまうからだ。

過去にも数例、その様な事で国が滅茶苦茶にされた事があるらしい。


話しが逸れてしまったが、そんなゴブリンどもがうろついている場所でソフィを一人には出来ない。

まだ明るいうち早く探さなくては……。

私は剣を腰に下げ、ゲイブル達の仲間の一人、ニックを連れてソフィを探す事にした。


「ッッ…キャァァァァッぁぁっぁっぁ!!!!」


暫く捜索していると私たちが野営する洞窟の草原入口付近からソフィの悲鳴が聞こえてきた。

まさか……!?嫌な想像をしてしまう……。ゴブリンどもに襲われてしまったのか!?マ


マズイ!!早く助けにいかなきゃ!!

私は全速力でソフィの悲鳴がした方向へ走り出す。

ニックは私の脚に付いて来れないが関係ない。早くソフィの所に行かなければ!!

私一人だけでもゴブリンの10匹~20匹は問題ない。


「ソフィ~!悲鳴が聞こえたけど何かあったの~!?」


私は森を抜け、草原の入り口付近に辿り着きそう叫ぶ。

するとそこには蹲っているソフィの姿が目に入った。

ほっ……どうやら無事の様だ…………と思った束の間、


「あ…」

「あ…」


ソフィの傍らに全裸の男がソフィにニヤニヤした薄ら笑いを浮かべながら手を出そうとしているじゃないか!!

こいつがソフィに悲鳴を上げさせた原因である事は間違いない!!


「あんたぁぁ!ソフィに何をしたぁぁぁぁ!!」

私は目の前にいる男に殴り掛かっていた。


私が男を馬乗りになってボコボコに殴っていると、遅れて息を切らしながらニックがやってきた。


「お~い……俺は普通の人族なんだから……アイル……速すぎる……置いていくなよ……って何してんだ!!アイル!!おい!!止めろって!!」


私はニックに羽交い絞めにされてその全裸男から引き離された。

既に男は動かない……。○ろしてしまったか?

息はしている様なので○してはいない様だ。

そんな事を思っているとソフィが私に抱き着いてくる。


「ソフィ……大丈夫だった?」

「……う、うん。でもお姉ちゃん、よくここ分かったね。」

「え?どういう事?ソフィの声がした方向に走っただけだよ。」

「そうだったんだ。お姉ちゃん、方向音痴だから逆に心配というか……。」


え?私が心配されている!?


「最初、ソフィを探しに行こうとした時もいきなり森とは逆方向の街道に向かおうとしてたしな。村に帰るのかと思ったぞ。(笑)」


ニックがそんな事を言って私をからかってくる。

そんな事よりもこの目の前で伸びている全裸男をどうするか……だ。

ニックと相談して手足を拘束して取りあえず話を聞いた方がいいと言う事になった。

ここに放置してモンスターに食われたりするのも目覚めが悪いし。


勿論、手足の拘束と洞窟まで運ぶのはニックにして貰った。

乙女の私が全裸男に触れるなんて……駄目よ……!!それは心に決めた人としか……。

……殴るのはOKよ。守る為だから……うん……。


そうしてその全裸男を洞窟内に転がしておいた。

流石に全裸だとこちらの目のやり場に困るので、奴隷用に使われる一枚の布の真ん中をくり貫いたポンチョ風の一応、服を着させておく。

これで気になる部分は隠せる筈だ……。


後はこの全裸男が目覚めるまで待つだけだ。

見張りは何故か私がする事になった。

ゲイブル達は野営の準備や周囲の警戒を行っている。


……………。


どれぐらい経っただろうか。

全裸男を連れて来てから2時間ぐらいは経っている気がする。

既に洞窟の外は真っ暗だ。

今は冬が終わり、春に移り変わる季節で日中はぽかぽかと心地よい陽気だが陽が落ちるとまだまだ冷える。

私は荷物の整理をしながらそんな事を思っていると……。


「寒ッ!!」

「あ…やっと起きた…。」


全裸男が目を覚ました。

その全裸男は、気が付くなり起き上がろうとするがうまくいかずに壁に寄り掛かる様に座ってしまう。

手足を拘束されているのだから当然だ。


すると今度は周囲をキョロキョロしだして自分の恰好を確認するや頬を赤らめてニヤついている……。

何なの!?この男……。

この状況で頬を赤らめてニヤつくなんて……変態確定だ……!!

さっさとこの男の尋問を始めてしまおう。気味が悪い。


「早速だけど、あんた、あんな場所で何をしていたのよ!この露出狂の変態!!」


意図していた訳ではなかったが、口をついて出てきたのは罵倒に近いモノだった。いや罵倒だ。

すると全裸男は開口一番、イヤイヤと頭を振りながら否定するが、

あの場面でソフィに全裸で近づき尚且つ今のこの状況であるにも関わらずニヤニヤ笑えるなんて変態以外の何物でもない。


きっとソフィを襲おうと近づいたに違いないんだ!!

そもそも、あのマゾン草原で真っ裸って事自体がおかしい。

モンスターがうろついている場所で全裸て……。常識の範疇を超えている。

……いや……普通の道で真っ裸で居られても常識外なんだけどね……。


するとこの全裸男がいきなり目を『カッ!』と見開き、私を凝視して頭から足元まで舐める様に見たかと思うと、またニヤニヤ笑い始める……。

何?今度は私を狙ってるの?怖い……。変態だ……モノホンの変態さんだ……。


「な、何?何でいきなりニヤニヤしてるの?

気持ち悪い…この状況でニヤニヤするってやっぱ変態でしょ!!!」

「貴様!何者だ!!」キリッ!


私は咄嗟にパンチを繰り出していた。

すると全裸男は「悪い人間じゃないよ!!」とか言い出した。

今迄の行動で何故、そんな事を言えるのか私には理解出来ない。

こいつを最初に見てから今の瞬間までまともな所が見当たらない……。

これを変態と言わずしてなんだと言うのだろうか。


「お姉ちゃーん、飲み物の用意が出来たよー。」


そんな時に洞窟の外で飲み物の用意をしていたソフィが白湯を持って私の所にやってきた。

すると眼前の全裸男が眼を「カッ!」と見開いたかと思うと、先ほど私を見た様に頭から足の先まで舐める様にソフィを見て来るではないか!!

ソフィは怯えたのか私の後ろに隠れてしまった。


「ほら!あんたのせいで完全にソフィが怯えちゃってる!!」

「ちッ!!貴様!何者だ!!」キリッ!


私は殴った。

何なの?こいつ?何度殴られても怯むどころか喜んでそうにも見える……。

やっぱりルク・スエルの衛兵に突き出した方がいい気がする……。


そんな事を口にするとこの変態は初めて動揺し慌て始めた。

すると言う事欠いて、「ソフィには何もしていない。意思疎通をしようとしただけだ。」


とか滅茶苦茶な事を言い始めた。

ただの変態だけじゃなく、ソフィまで巻き込むなんて許せない!!


「ソフィに話しかけない…」


私をまた腕を振りかぶる……と袖口をソフィが引っ張ってくる。


「何もしてないよ…その人。」


………え?え?

ナニモシテナイ?

何もしてないって、何も危害を加えられてないって事だよね?え?ソンナバカナ……。

私の勘違いなの?いやいや……あの状況と今までの行動でこの変態男がマトモであるはずがない。


ソフィの言葉が聞こえたのか、目の前の変態男が勝ち誇った様にしている。

私は変態(仮)に背を向けてソフィに何があったのか聞いてみる。

ソフィが言う顛末はこうだ。


ソフィはポーションの原材料『復癒草』の採取に行った。

採取が終わり野営している洞窟に戻ろうと立ち上がった所にソフィの横を満面の笑顔でスキップしながら通り抜けようとする全裸の男と目が合った。

ソフィは見ず知らずの全裸男がこのマゾン草原にいる事に訳がわからなくなり蹲り悲鳴をあげてしまった。

その全裸男はソフィを助け起こそうとした所に私が殴り掛かった……との事だ。


ソフィを助けようとしていたの?


……………。

……………………。

……いやいや……この魔物草原で満面の笑顔でスキップなんてしないでしょ……しかも全裸で。

おかしいおかしい……。

でもソフィが私に嘘を言った事なんて一度もない……。


「ホントなの?」


私は信じられずにソフィ確認する。

するとソフィは「うん。」と答えるではないか……。


……蹲ってしまったソフィを助け起こそうとした人間を私が一方的に殴ってしまったって事?

チラとその変態男(仮)に目を向けると、ビクッと怯えているそぶりをする。


……確かに怯えさせるには十分な行為をしてしまい急に申し訳なってくる。

問答無用で殴り昏倒させた上に拉致までしているんだから……。

許してくれるとは思えないが、一先ず誤っておこう。


私が謝罪の言葉を述べると、その変態男(仮)は何故か残念そうな顔をしたのを私は見逃さなかった。

そして今度は拘束を解いてくれと要求してくる。

何て厚かましい奴なんだ。


しかも「何か変な性癖に目覚めちゃう前にさ?」

とか言ってまた頬を赤らめながらモジモジしている。


やっぱり変態だろ!こいつ!!さっきまで確証が持てなくて変態(仮)だったが、やっぱり変態(確)だぁぁぁぁ!!

私はまた変態男(確)をボコボコに殴りつけていると、外からこの騒動を聞きつけたゲイブルが私を引きはがされた。


………………。


ゲイブルに引きはがされた後、ゲイブルが尋問する事になった。

どうやら私は拳に頼り過ぎらしい。失礼な……。

しかし流石、ゲイブル、年の功なのかその変態(確)と話をスムーズに進めていくが本質に中々触れないので私はイライラして来て口を挟んでしまうs。


「…こいつ変態なんだもん。って言うか、早くあなたが何者なのか白状しなさいよ!一向に話が先に進まないじゃない!!」


ゲイブルは頭を抱えているが、明日のゴブリン討伐の為にもまだ準備しないといけない事があるのだ。

この変態(確)に構っている訳にはいかない。


するとそちらから名乗れなんて言いやがるじゃない。

ふん。まぁいいわ。名乗ってあげようじゃない。

すると変態(確)は私だけアイル『様』なんて敬称を付けてくる。


ほんと変な奴だ…。


すると変態(確)は少し思案気な顔をすると名前を言った。

「グネーヴァル・パンツァーだ。(アイル耳:ぐねぐねーなんちゃら……ぱんつだ。)」

?何それ?パンツ?パンツって言った?

変態にお似合いの名前ね!!

私はおかしくなりパンツパンツと連呼すると変態(確)は抗議の声を上げるがもうこいつの名前は私の中では『パンツ』に確定だ。


そしてそのパンツが話を進めていくと、どうやらいつの間にか裸であの草原で目が覚めたらしい。しかも名前以外、覚えていないらしくパンツの顔がみるみる青ざめてていく。


旅人や商人が野盗に襲われて身ぐるみ剥がされたりする事もある。

下手に抵抗したら命も奪われかねないのだ。

このパンツもそうなのだろうか。しかも記憶を失ってしまってはそれはそれで可哀想になる。


一瞬、私のパンチのせいで記憶失った訳じゃないよね?と思ったりしたが黙っておこう。

しかしこのパンツと言う男、記憶喪失だからなのか、自分がどこにいたのかも忘れてしまっているらしい。


マゾン草原について尋ねられたからそのまま危ない所だと説明する。

それにギルドの事や、魔法、モンスターについても聞かれたが…どうやら本当にこの世界の事を忘れてしまっているらしい……。

何も思い出せないのだろうか?私は尋ねてみた。


「記憶を無くしているみたいだけど名前の他に思い出す事はないの?例えば家族の事とか仕事の事とか…。

少しでも何か思い出す切欠になるかもしれないわよ?今のままじゃ帰る所も分からないでしょ?」


するとパンツはまた少し思案気な表情をするとトンデモない事を言い出した。


「俺はあらゆる武道・暗殺術・剣術・戦闘術を極めし者、その拳は地を砕き、蹴りは海を割り、星をも砕く!!

この世界の全ての理を理解し魔法術を全てを使用し尚且つ不老不死のチート様なのだ!!はーはっはははーはっ!!」


……やっぱり頭おかしいのかな?こいつ。

関わっちゃいけないヤバい奴?

私とソフィとゲイブルはお互いに顔を見合わせると、可哀想な子に言い聞かせる様に努めて優しい口調で改めて問う。


「……………。で、パンツの変態さん、本当は何者なんだ?」


すると観念したのかパンツは「武道家」だと白状した。

武道家って見た事ないけど、皆こんな感じなのだろうか?真っ裸でモンスター討伐とかしてるの?おかしくない?

そんな事を思っていると外からニックが走り込んできた。


「ゲイブル!アイル!まずい!!ウェアウルフどもがこっちにやって来るぞ!!」


ウエアウルフ……ランクCのモンスター。

瞬発力と攻撃力のバランスが取れており、素早い動きで相手を翻弄し鋭い牙と爪で目にも留まらない速さで攻撃をしかけてくる人型のモンスターにおいては強力なモンスターだ。


普通の人族では視界に捕える前に首を撥ねられるだろう……。

私でも辛うじて防御するのが精いっぱいといった所だろうか。

ニックが言うには10体以上がこちらに向かってきているらしい。

これは明日のゴブリン討伐どころではない。

戦力的にこちらが『狩られる側』になってしっまっている。


クソッ……。このままじゃ全滅するかもしれない……。どうすればいいの……?

すると後ろにいたパンツが緊張感のない声で話し出す。


「え?何?ウェアウルフ?何それ?」


何それ?だって……。笑っちゃうね‥…。

『それ』に私たちは殺されるかもしれないのに。

私は少しでも戦力が欲しくてパンツを頼る事にした。

いないよりマシでしょ。武闘家だから少しは戦える筈だし。


「あなたも少しは腕のたつ武闘家なんでしょ?!取りあえず力を貸してちょーだい!!」


そう言うとまた恥ずかしそうにモジモジしながら手を差し出して来る。


「あの…力を貸したいのは山々なんだけどまだこれ…解いて貰ってないんですけど…。モシ゛モシ゛///」


そう言いながら縛られた腕を突き出して来る。

全く……何でこの男は緊張感がないんだろう。

もうすぐ命がなくなるかもしれないって時にモジモジ恥ずかしがってる場合じゃないだろうに……。


そんなやりとりをした後、私たちは洞窟から外の様子を伺うと確かにそこにはウェアウルフが数体、目に飛び込んできた。

黒々とした体毛が月明かりに反射して不気味にゆらゆら蠢いている。


暗がりの前方から仲間達の叫び声が聞こえて来る……。あの声はニック……か?

悲鳴を聞きながら何も出来ない自分に腹が立つと同時に今、この時にも仲間が襲われ、死んでいるかも知れないと思うと怯んでしまう自分もいる。


すると私達がいる洞窟の右手死角から1体のウェアウルフが攻撃を仕掛けてきた。

『マズイ!!』

そう思った。

しかしそう思った束の間、隣にいたパンツが一人飛び出し注意を引きながら森の中に消えて行った。


「何やってるの!?あいつ!!」

「お姉ちゃん!!」

「ん……分かってる!見殺しにはしないよ!!」


幾ら変態(確)とは言え、私達が見殺しになんてさせたら気分が悪い。

怖いけど、行くしかない!!

私とソフィはパンツとウェアウルフが消えた森の中に走り込んだ。


暫く行くと、パンツが切株にもたれ掛り、ウェアウルフが再度、攻撃しようと身構える所が目に入った。

パンツにウェアウルフの爪の攻撃が繰り出されている……。

でもパンツはその攻撃を悉く躱し続け、全く相手にしていない様にも見えた。


何者?しかし攻撃手段がないらしく躱し続けているばかりだ。

まだこの距離じゃ私の攻撃範囲外……。


「ソフィ!!」

「うん!!やるよ!!」


私はソフィに声を掛けると意図を汲んでくれたのか直ぐに魔法の詠唱を開始する。

流石、私の自慢の妹だ。後で抱き着いてやろう。

生きて帰れればだが……。


ソフィが魔法の詠唱に入り、私は剣を抜きパンツに襲い掛かっているウェアウルフに向けて走り続ける。

そしてウェアウルフが再度パンツに攻撃を仕掛けようとしたと時に、後ろから凄まじい速さで私を炎の槍が追い越してウェアウルフの横っ腹に突き刺さるのが見えた。

ソフィが放った魔法『ファイアランス』だ。

食らったウェアウルフは溜まらずその場を離れるが、ある程度の距離を保ち続けている。


「一人で戦っちゃダメって言ったでしょ!!」


私はパンツの3m程、前に立ち、剣を向けながらウェアウルフと対峙する。

遅れてソフィが走り込んできてパンツに治癒魔法ヒーリングをかけている。

ほんと気の利く妹だ。あとで高い高いしてやろう。


するとソフィは新たな魔法の詠唱を開始する。

ウェアウルフに攻撃をする為だろう。

しかしその時、目の前のウェアウルフが呟く。


「チッ!マジックキャスターがいやがったのか!しかしマジックキャスターなんぞ先に仕留めて仕舞えば他は雑魚ばかり…へへ。」


ソフィがマジックキャスターだとばれてしまった様だ。マズイ。

攻撃、治癒魔法の使い手であるソフィがいなくなると戦力が大きく落ちる事は明白だ。

と言うか、ソフィを殺させたりしない!!絶対に!!

私は上段に構えてウェアウルフに斬りかかるが、寸での所で躱され、いなされ攻撃が当たらない……。

そして私が剣を振りぬいた隙をついてウェアウルフが体当たりを仕掛けてきた。


「うぐぅっ!!」


私は右側面に体当たりをまともに食らい、太い木々にふっとばされて動けなくなる……。


「ぐぅう……ソフィ……。」


私を無効化したウェアウルフは、ソフィに向けて目にも留まらない速さで鋭い爪を振りかぶりながら突っ込んでいく。


「ソフィ!!」


私は声に出したつもりだったが、全身を大木にしたたかに打ち、声にならなかった……。

逃げて……。ソフィだけでも……逃げて…!!

そう思っているとパンツがウェアウルフの攻撃を避けつつ、ソフィを抱き抱えてこちらに側に転がり込んでくる。


「ソフィちゃん、大丈夫?」

「あ…は、はい。大丈夫です。」


ソフィは何が起こったのか分からずキョトンとしている。

私も自分の眼を疑った。ウェアウルフの攻撃を躱したと思ったら、あっという間にこちら側に移動してきたのだ。しかもソフィを抱き抱えたまま。


そしてパンツはソフィをそっと地面におろし、再びウェアウルフと対峙する。

するとパンツはウェアウルフに話し合いをしはじめたのだ。


「な、なぁ、何でこんな事をするんだ?」


………それは野盗目的だよ。

内心、そうツッコむ。


「はぁ?…何でって?…はっ!当たり前だろ!!金も食料も楽に手に入るからに決まってんだろ!バカかよおめぇ!」


ウェアウルフも当然の様にそう答える。

するとパンツはその言葉を聞くとニヤニヤ笑っていた。


え?何で笑ってるの?訳が分からない!!


「この状況でニヤつくってやっぱりあいつ変態だわ……。」


少し痛みが引いてきた私は剣を支えにして立ち上がりながらそう口走ってしまった。

するとパンツは私の声に『ピクッ』っと反応した様に見えたが気のせいだろう。


しかしパンツの笑みを挑発と捉えたウェアウルフの怒号が響く。

完全に怒らせてしまった様だ。

そしてウェアウルフが私と戦闘していた攻撃をはるかに上回る速度で攻撃をし始めた……が、パンツはそれを易々と躱し続けている。


信じられなかった。ウェアウルフが腕を振りぬく度に周囲の巨木がウェアウルフの爪により切り倒されていく。

しかしパンツにその攻撃は当たらない。私はその攻防を見守る事しか出来ない。

すると攻撃を躱し続けられているウェアウルフが叫ぶ。


「俺の攻撃を躱すのは褒めてやるがいつまで逃げ続けるつもりだ!?普通の人族のお前じゃその内に直ぐにへばっちまって俺の爪の餌食になるだけだな!ハハハハ!!」


そうだ。人族のパンツと人狼のウェアウルフではスタミナも比較になる筈がない。

パンツが疲れ切り動けなくなった時、攻撃すればいいだけだ。

しかし次の瞬間、予想を遥かに超える出来事が起こった。


「くっそ、やるしかないか!うぉおおおおおおおおおお!」


パンツが意を決したかの様に叫び声をあげながら初めて攻撃を仕掛けたのだ。


ブシャーァアッァァッァ…メキメキバカアバキバキ………ドーォン………。


私は唖然とした。

こんな事ある筈がない……。


「「「ぽかーん…。」」」

( ゜Д゜)


先ほどまでパンツと対峙していたウェアウルフが、下半身を残し上半身が消し飛んでいたのだ。

しかも攻撃を放った先の森林一体が一直線に抉られ土肌が表面に現出していた‥…。


「な、なんなの?こいつ……。」


しかも攻撃したパンツ本人が頭を抱えて狼狽えている‥…。


「なんなのこいつ……ほんとに。」


するともう1体のウェアウルフがソフィに攻撃を仕掛けるのが見えた。


「キャァー!!」

「しまった!!ソフィ!!」


そう叫ぶと先ほどまで頭を抱えていたパンツがソフィに攻撃を仕掛けられる事に気づいたのか、目にも留まらない動きで移動するとそのままパンチをそのウェアウルフに攻撃を叩きこむとまた上半身が吹き飛んだ……。


その後はパンツが一方的にウェアウルフを討伐し、それに怯んだ残りのウェアウルフは逃げてしまった。

信じられない‥…。

ランクCのウェアウルフをこうも一方的に……しかも一人で……。

私は信じられない気持ちのまま、パンツ近づく……。


…………。

ちょっと……着ていた服が破けて……その……下が‥…見えてるじゃない!!


「……ちょ…ちょっと、変態パンツ!」

「ん?変態じゃねーし!その呼び方やめて…。ショホ゛ン」

「その……前隠してよ…!!///」

「………いやぁぁぁぁ!!」


私はパンツに謝辞を述べる。

するとパンツは前後ろは反転させて前を隠しながら照れ臭そうにしていた。


パンツがいなかったら確実に全滅していた筈だ‥…。

しかし一人であの数のウェアウルフを相手にしたからのかパンツは血まみれだ。

怪我をしているのだろうか?本人はケロリとしてるが、戦闘後の興奮状態でダメージを負っている事に気づいていないのかもしれない。


「血まみれだけど、どこか怪我とかしてない?ソフィはヒーリングが使えるから治癒して貰うといいよ。あたしはパーティの被害状況を確認してくるから。ソフィ、パンツを宜しくね。」


私は一旦、野営をする予定だった洞窟へ戻る事にした。

パーティに死者が出ていなければいいのだが……。

洞窟に戻るとゲイブルと仲間達が点呼をしていた。


ここに戻って来ない仲間がいるらしい。

やっぱり……被害が出ているの‥…?

人数確認はゲイブルが行うとの事で、私はソフィとパンツを呼びに行く事にした。

すると、ソフィとパンツが魔法について話し込んでいるのが聞こえてきた。


「本来であればあれを習得するには5年程度必要らしいわよ?あの攻撃魔法…ファイアランスだったっけ?」


私が後ろから二人に近づいてそう語りかえると二人は『ビクッ!!』っと身体を震わせてわたわたしている。


「お、お姉ちゃん!!いきなり声かけないで!びっくりしたぁ!!」


ソフィが少し怒り気味にそう答える。

どうやら驚かせてしまったみたいだ。そんなつもりなかったんだけどなぁ‥…。

そして二人を連れて洞窟へ戻るとパンツに『水革袋』を手渡し、返り血を洗い流す様に伝えるが、パンツは『水革袋』を持ったまま一人狼狽えている。


「…?何これ?何か入れるのか?まさかこれで身体拭く…訳ないよね?」

「え?…まさか使った事ないの?嘘でしょ?」


記憶喪失の影響とは言え、アイテムの使用方法まで忘れているなんて……。少し気の毒に思う。

しかし、やはり先のウェアウルフの戦闘でパーティに被害が出てしまった様だ。

さっきまで一緒に冗談を言い合っていたニックも死んでしまった。


しかし悲しんでばかりもいられない。

早く亡くなった仲間達を村に弔ってあげないと……。

しかし村へ帰る道中にまたあのウェアウルフが襲って来るかもしれないのだ。

私はゲイブルと話し合い、パンツに護衛を頼めないか話てみる事にした。

ゲイブルもパンツの戦闘は一部始終見ていた様で、すぐに意見は纏まった。


「ねぇパンツ、よければ…私たちの村に帰るまで護衛を頼めない?」


私は返り血を洗い流し、着替え終わったパンツに話しかける。

するとパンツは快諾してくれた……。

……最初の出会いは最悪だったけど……パンツって……案外いい奴なのかも。

変態(仮)の疑いは晴れた訳じゃないけどね!!


そして私たちは新たな仲間?パンツを伴い、私達の故郷、メリッサ村へ帰途に着くのだった。




まだまだ冒険は始まったばかり!!

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