第13話 模擬戦
闘技場ギルドマスターとの手合せ……
ギルマスの部屋がある4階から1階に降り、ギルド職員でも関係者しか入れない扉を開けるとそこには円形の闘技場が広がっていた。
コロッセオの縮小版といった様相だ。何故だか観客席まである。
何故、ギルド内に闘技場があるのか疑問だがギルドランク昇格試験には当然と言うか必然ながら戦闘力が伴わないと行けない為、この闘技場で実際にランクに応じたモンスターを放ち実践形式で試験が行われるとリッターさんがここに移動する時に教えてくれた。
勿論、今回のモンスターはこの筋肉ダルマギルマスのレトなのだが…。
「さて、やるか。武道家だからやはり素手なのか?」
「はぁ…。まぁそうですねぇ。」
俺はそう答えながらも内心、「何で?こんな事に!!」この言葉が頭の中でリピートされていた。
先日のウェアウルフ襲撃では無我夢中になってやっちまったけど、対人戦の本格的な格闘…と言うか、人と殴り合いの喧嘩すらした事ないんだぞ…俺。
そう思いながら剣をアイルに預ける。
空手教室は型だけの教室だったし、しかも半年で辞めちゃったし、しかもサボり気味で実質1か月…も通ったかどうかも…怪しい。
当然、対人戦なんてした事ない。
俺の記憶では子供の頃、電気の紐で無邪気にシャド―ボクシングをして遊んでいた事ぐらいだ…。勿論、対人戦を妄想して1人遊びをしていただけだが。
「そうか、であれば俺も素手で行こうか…。」
え?俺が武道家の肩書(偽)だと知っていながら同じ土俵で対戦しようとするのか…。流石コエン○イム級、ギルドマスターって所か。
「筋肉ダルマバカ……ギルマスは、職種としては聖騎士なので基本的には剣を主武器として戦いますが、当然ながらその剣を無くした場合の無手においても戦える様に訓練をされています。
パンツさん同様、素手でもC級魔獣のウェアウルフぐらいは楽に倒せるでしょうね。」
リッターの内情
でも、それはあくまで1対1での場合…。あの報告書通りパンツさんが素手で複数のウェアウルフを屠ったとなれば…ギルド長でもどうなるか…楽しみね。
「えぇ…そんな…勝てる訳ないじゃない…。パンツ…。」
アイルはリッターの言葉を聞き心配そうに闘技場内の俺を見つめている。
「そろそろ始めようか…。リッター。治癒魔法の詠唱でも始めときな…それと…また俺の事バカって言ったろ。」
「言ってません。クイッ」
逃げる事は出来ないし…。
俺…ギルドに登録される前に死ぬの?魔法とか使ってみたかったのに!!
しゃーない…ここまで来たらあの時の力を信じて腹を括るしかないか。
パンツとレトが闘技場中央付近で向き合う。その距離は4mと言った所だろうか。
俺の目の前には2Mを超える筋骨隆々の男、ルク・スエル都市のギルドマスター、レトと対峙している。
対する俺は175cm前後……。向かい合うと大人と子供ぐらいの身長差だ。
「何でこんな事に!?」
俺は再び頭の中でそう思う。で、デカい…素直に思う。
まるで北○神拳の長兄みたいじゃないか…!?
何かしらオーラ的な物が背後に立ち昇っている様にも見える。
俺の幻覚だろうか?正にラ○ウ…。
このまま「わが生涯に一遍の悔いなし!」とか言って勝手に倒れてくれないだろうか…。ないよね。血色も良くて元気そうだもん。
そう思案していると、リッターが模擬戦開始の合図を送る。
「模擬戦!始めぇ!!」
クソッ…取りあえず記憶にある昔通っていた空手教室の型だけでもしてみるか…。
ッス…。
俺は低く腰を落とし左拳を正面に付きだし右腕を引き相手を射抜く体制を取りギルマスと正対する。
レトは両腕を軽く上げ、スタンダードなボクシングスタイルで構えるがステップは踏んでいない。
(………間合いを探り合いながら静寂が続く……)
「何だこいつ…。素人の様な型でありながら隙がない…不用意に飛び込めばこちらがやられる気がする…。」
レトはパンツから溢れ出る魔力を感知し即座に実力を看破する。
静寂の中、レトが足の爪先を支点にしながらジリジリと間合いを詰めていく。しかしパンツは動かない。
まるでレトの攻撃に対してパンツがカウンターを狙っているかの様にも見える。
居合の刃圏を探る様…そんな雰囲気を醸し出しているのだ。
勿論、格闘技の素人であるパンツにそんなつもりはサラサラないが。
パンツは思う。
う…近寄って来てる…。どうしよう…。闇雲にこちらから仕掛けても躱されそうだし。
やっぱりギルマスに先手を取らして動きを見切りつつ先日のウェアウルフ戦の様に対処するしかないか…。
……。
お互いが間合いを読みあっている最中、突然その闘技場の静寂を切り裂く一人の女性が入ってきた。
「あのーギルマス~!遊んでないで早く仕事に戻って下さ~い!」
乱雑に扉を開けたのはおっぱい巨乳ちゃん受付嬢Bのプラーニャの姿があった。
パンツはおっぱい巨乳ちゃん受付嬢Bプラーニャが入室して来た事を察知すると、瞬時に顔を右に振りそのたわわに実るおっぱいに目をやった刹那…レトが一気に間合いを詰め攻撃を仕掛けてきた。
右手の指先を真っ直ぐに伸ばし貫手でパンツの顔面を狙ってくる。
「ヤベッ!!」
俺は瞬時にそう思った。
受付嬢Bに視線…嫌、視線どころか頭部を思い切り向けると同時に左目の視界の隅で土埃が上がるのが見えた。レトが攻撃を仕掛けて来たのだ。
4m程離れていた距離を僅か1歩半程度で飛び越え既に俺の目の前まで飛び込んできた。
感覚的には軽トラが猛スピードで突っ込んで来る様な感じだ。
俺は咄嗟にレトに視線を戻すと右手から貫手で俺の顔面を捕え様とするのが見えた。
俺はそれを寸でで見切りレトの貫手をボクシングのヘッドスリップの様にして外側へ抜けるが、レトは初手を躱されてもなお追撃を畳み掛けて来た。
レトはすぐさま貫手からパンツが躱した外側へ力任せに裏拳を放つが、パンツは右腕を上げてそれをガードする。
そこからレトが一方的に攻撃を仕掛け続け、パンツが防戦一方の展開となる…。
「どうした!ウェアウルフを素手で倒した実力を見せてみろ!!」
「ギルマスが不意打ちとか卑怯じゃないですかね!?」
「戦いの最中に卑怯もクソもあるか!!悔しかったら俺に一撃でもあててみな!!」
周囲からは二人の姿を捕える事は難しい程のスピードで攻防が繰り広げられている。
普通の人間であれば目視する事は出来ないスピードだ。
闘技場に入ってきて直ぐに始まった模擬戦を目にした巨乳ちゃん受付嬢Bのプラーニャは腰が抜けてその場にへたり込んでいる。
「…!?パンツさん…筋肉バカの攻撃を見切ってるの!?」
副ギルマスのリッターは驚愕の表情でそう呟く。
そうして数分の攻防が続き、突然、模擬戦は終了を告げる。
一旦、二人は距離を取り再び闘技場の中央で交差した瞬間、パンツが闘技場の壁まで吹っ飛ばされ壁が砕け散った。
「パンツッ!!」
アイルは壁に叩きつけられ埋没しているパンツを見て涙目で悲痛な叫び声をあげる。
「筋肉バカ!!本気をだしちゃダメでしょ!!」
リッターは憤然とレトを叱責しながら闘技場内に駆け下りて来ようとするが、レトが手を挙げて闘技場内に入って来るのを制止する。
「これで終わりじゃないだろ?ん?パンツ兄ちゃん。仕留めた手応えが全くなかったからな。」
「「え?」」
リッターとアイルはレトに視線を送る。
「やっぱり駄目ですか…。」
パンツはそう言いながら壁から抜け出して何事も無かったかの様に服に着いた埃をパタパタとはたいている。
「バレましたか?」
「当たり前だ。」
リッターとアイルはこの二人が何の会話をしているのか理解出来ずに揃って首を傾ける。
二人の目には二人が中央で激突した瞬間、一瞬でパンツが壁に叩きつけられた様にしか見えていないのだ。
パンツが死んだかも…と思っていると平然とパンツがその壁から抜け出てくるとこの会話である。
「「???」」
「お前、自分で後ろに跳んで俺の攻撃を防いだだろ。」
「当たらずとも遠からず…ですね‥。」
パンツはこの模擬戦が始まる前に思った。
この模擬戦、何とか穏便に済ませられないかと…。
普通に考えて俺が勝てる可能性はない…。
となればさっさと負けてしまえばいいのだ!!
報告書の件の真偽?そんなのは主観でしかない。
この模擬戦ではギルマスの方が強かった!それだけ分かればいいのだ。
ウェアウルフとの戦闘はイレギュラーと相性が良かったとか何とか言って誤魔化そう!!そうだ!そうしよう!!…と。
下手にヤル気になって抵抗すれば只では済まないのは火を見るより明らかだし。であれば、俺がある程度出来る感じを醸し出しつつ倒されればこちらのダメージも少なく済んで万々歳じゃないか!
そんな浅はかな考えで俺はギルマスの横蹴りが来た瞬間、自ら後ろに跳び、やられた体を演出しようとしたのだ。
いい感じで壁に叩きつけられて「グハっぁ!!」とか言いつつそのままうつ伏せに倒れるつもりがまさか壁が脆く崩壊した為、過剰演出となってしまった。
俺が予定していた「グハっぁ!!」も言えずに…。
ビビったよ。こんなに脆い壁じゃ直ぐに修理する事になってギルドの昇格審査するのも大変じゃないか?
しかも俺が後ろに跳ぶのが早すぎた為、ギルマスには打撃を加えた感触が無く、正に暖簾に腕押し状態だった様であえ無くあっさりバレマシタ。
「え?ワザと後ろに跳んだって事?」
アイルはまだ困惑の表情を浮かべている。
「筋肉バカが言う通りならそうらしいわね。
ギルマスの横蹴りのダメージを軽減する為に自ら後ろに跳んだって事…なんだろうけど…、あのねぇ……。」
そう言うと副ギルマスのリッターは急にワナワナ震えだす。
「ここの闘技場の壁はBランクの魔獣が体当たりしてもヒビ一つ付かない程に頑丈に出来てるのよ!!
なのになんで吹っ飛んだだけで壁が崩壊したりするのよ!!
幾ら掛けてこの闘技場を建築したと思ってるの!!
修繕費でまた余計な出費だわ!!」
そうリッターが喚きながら頭を抱えている。
アイルはその横でポカーンとしている。
え?そっち?って顔だな。
「だそうだぜ?修繕費払えるのか?」
「いやいや、僕はまだ冒険者にもなっていない身分なので一文無しなんですよねぇ…。多分、ここだけ脆くなってたんじゃないですか?」
「ふん…まぁそんな事はどうでもいい。」
どうでもいいんだ!!後でリッターさんに怒られるんじゃないか?その発言!?
「さっさと本気でやれ。手加減されてる気分でいい気はしないぜ。」
「手加減なんてそんな事はないんですが…。」
パンツは思う。
ああぁ…どうしよう…どうしよう…。修繕費とか払えないぞ…。
リッターさんの慌てふためく感じだと修繕費にはかなり高額そうだし…。
只、壁に叩きつけられるだけの予定だったのに…。
しかし今の攻防でウェアウルフ戦の時と同じくギルマスの動きは難なく見切る事が出来る…。
まさか野球で言う所の調子がいいバッターは縫い目が見える状態なのか!?
そんな事を思っているとレトが口を開く。
「今の数分の攻防だけでもお前が只者じゃねぇ事は分かったぜ。」
「え?そうですか!じゃぁもう止めませんか?こんな生産性のない戦いをしても意味ないですし…。」
「駄目だ…。」
「え?」
「…駄目?な、ナゼデスカ…?」
「さっきも言ったろ。お前は手加減している。
生産性がない?何を言っている。
お互い強い奴とやりあえるなんてこれほど生産性のある事があるか!!はーっはははっは!嬉しいぜ!俺は!!ここ10年、俺とやり合える奴なんていなかったからよぉぉおおお!!」
レトその眼には狂気に満ちたものが浮かんでいる。
う…こいつ戦闘狂だったのか?
「はーっははははっはははははっは!」ゴツン!!
「痛てッ!!」
「?」
興奮気味に高笑いするギルマスを殴りつける黒い影…。
そこには何時の間にか闘技場に降りてきた副ギルマスのリッターがレトの頭をメイスで殴りつけていた。
「ってーなぁ…何すんだ!リッタァ!!」
「いい加減にして下さい!バカギルドマスター!!そろそろ仕事に戻って下さい!」
リッターは怒髪天を衝く様な形相でレトを睨み付けている。
「…え?でも…まだ俺はパンツ君と模擬戦の最中だから…。」
「必要ありません!!」
有無を言わせずリッターはぴしゃりと言う。
「あなたなら今の手合せだけでパンツさんの実力は十分に分かった筈です!
それに本気になられてこれ以上、闘技場を壊されては困ります!!
それにまだ仕事が残っている事を忘れないで下さい…。
私がどれだけ残業してあなたの代理対応していると思っているんですか…。
休みも取れずに…ここで寝泊まりするぐらいなんですよ…。コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛…。」
リッターさん、相当ストレス溜まってるみたいだなぁ…。
今度差し入れでもしようかな。
「え?……あの…ゴメンササイ。直ぐに仕事に戻るから。怒らないで?ね?」
ギルマス、噛んだぞ?心なしか震えている様に見える。
「全く、碌に仕事もしないで筋トレやら他のギルドの情報交換だと言ってはギルド支所に出かけて碌に帰って来ないじゃありませんか!
ほんとにバカなんですから!ここにいる時ぐらいは黙々と書類仕事をして下さい!!」
「!?今確実にバカって言ったよね?」
「ええ!?言いましたっけ?そんな事!?言ったかもしれませんね!!
後、闘技場の修繕費として、あなたの給金から幾らか引かせて貰いますかね!!減俸です!」
「………そ、そんな…。あれはパンツ君が勝手に跳んで行ったからああなった…」
「そもそもあなたが手合せしようと提案しなければこんな事になってないんです!それにあなた様はここのギルドマスターなんですから!もっと責任感を持って行動して下さい!!」
「え…でもリッターも止めなかった……し。」
「うるさい!!ギロッ」
「ヒッ!!」
あらら、ギルマス、完全にリッターさん怒らせちゃった。
何故かギルマスが目配せして俺に助けを求めてくるが知らんぞ…俺は。
普段からちゃんと仕事していればこんな事にならないんだぜ?レトさんよ。
積り積もった積年の恨みが爆発した感じだし…身から出た錆だ。
そうしてリッターさんは受付嬢Bプラーニャと一緒に筋肉ギルマスを闘技場からいち早く追い出していく。。
「大丈夫?パンツ!?」
そう言いながらアイルが俺に近づいてくる。
「あぁ…大丈夫だよニッコリ。心配してくれたんだ?」
「あ、当たり前でしょ!!あんたにはギルド登録料を立て替えてるんだから返してよね!!」
「はは…そうですよねー。」
アイルは頬を膨らませてぷりぷりしているがその表情はそこか安堵している様にも見える。
「でもあのクリソベリル級のギルマスと渡り合うなんて…信じられない…。」
するとそこにリッターさんがこちらにやってくる。
「あの…リッターさん、止めてくれて有難う御座いました。」
「いいのよ。あのバカに本気でやられたらこの闘技場もただではすまないですからね。」
「そうですよね。やっぱり本気じゃなかったんですね…。本気であの程度なら拍子抜けですからね‥。」
「え…?」
「じゃあ俺達は宿に戻ります。明日、改めてギルドカード貰いに来ますので、それでは失礼します。ぺこりーぬ」
そうしてパンツとアイルはギルドを後にした。
リッターはパンツの言葉を聞き、首筋に汗が伝うのを感じていた。
「………。今、ギルマスとの戦いを『あの程度』と感じたの?
…あの子…何者なの…。警戒しておく必要があるかもしれないわね…。」
……
俺とアイルがギルドを出た所、ちょうど昼に差し掛かっているのか、街中は昼食を用意する匂いが漂い始めていた。
「はぁ―腹減ったなー。なぁアイル、昼飯は宿屋で食べるのか?」
「宿屋で食べる事も出来るけど、折角、街に来たんだからどこか食べに行きましょうか?」
「え?いいの?」
朝食は薄味だったからな…。この街なら少しは期待出来るかもしれないな!
「それにしてもソフィちゃんは、どこで何してるんだ?」
「あの子は多分あそこね‥。」
「検討が付く所があるのか?」
「まぁね…多分あそこよ。ニコリ」
そう言うとアイルはソフィが居ると思われる場所へ歩を進めるのだった。




