第3話
地下にある車庫スペースに階段を使って降りてきた。ここには普段、私とニーナが仕事で使う車が数台置いているのだが、元々昨日の仕事でこの地を離れる予定だったので、広い車庫には現在2台の車しか停められてはいない。
一台は軍から払い下げされた防弾仕様の黒色をした大型バンで、中にはニーナの仕事道具である機材が所狭しと積まれている。また、大型レーダーも完備されているのだが、上手く大型のルーフボックスに偽装されて設置されているのでギリギリ一般車両に見えなくはないといった姿をしている。
更に、緊急時に戦闘力のないニーナが生き残れるようにするため様々ギミックを家の開発チームが施したせいで、絶対車検は通らないような仕様となっているらしい。なぜ曖昧なのかと言うと、私も一度ちゃんと説明は受けたのだがあまりに膨大なギミックの数々に、途中から聞き流していたので私はこれくらいの情報しか知らないからだ。まぁ、ニーナが全部理解しているらしいので平気であろう。
次に私の愛車をご紹介。前にどんな車が欲しいのかと聞かれたので、『某有名スパイ映画に出てくるようなスポーツカーが欲しい』と言ってみたところ、それを真に受けた開発チームがノリと情熱によって作り上げられたカスタム仕様となっている。勿論全周防弾仕様なのは当たり前、特殊な塗装コーティングが施されたボディーは、一瞬で好みの色に様変わりでき、しかもナンバーもいつでも変更可能なので、お巡りさんの多い日も大丈夫という安全設計!今日はレッドを選択している。
更に車内には、いたるところに私専用の武器・弾薬が搭載されており、この車に乗っている限り私が弾切れをおこすことはまずないであろう。またAIによる自動運転機能も搭載されており、場合に応じてはニーナに遠隔操作で運転を変わってもらうことすら可能となっており、とってもお利口さんなのである。勿論、言うまでもなく此方も車検が通ることはないであろう。そもそも出すつもりもないけどね。
今回はというよりいつも通り私とニーナは別行動となるため、それぞれが別の車に乗り込み現場に向うことになる。私が護衛対象を車に乗せ、ニーナが別の場所からサポートするといったところだ。そもそも、彼女には戦闘力が皆無なため、態々危険な護衛対象と一緒にいるメリットが全くないので、遠隔地での任務の場合は大抵このバンに乗り込んで、そこから私のサポートをしてくれるのが私達チームのいつものスタイルだ。
そんなこんなで適当に時間を潰して待っていると、階段の方から大きな段ボールを抱えたニーナが降りてきた。どうやらあれが今回の任務で使う予定の追加の機材なのであろう。
「またえらく大きな荷物ね。何持ってきたの?」
「今回は移動しながらの任務になるので、ネズミさんだけではカバーしきれないから、“小鳥さん”達を用意してきたっす」
「あぁ、おやっさんがこの前送ってきたやつか」
「そうっすよ、姫っちのライフルと一緒に届いたやつっすね。もう充電は済んでいるのでいつでも使えるから、今回の任務にはもってこいっす」
「まぁ、その辺はニーナに任せるわ。私が聞いても良くわからないし」
「あはは・・・、了解っす。それと、これが今回の仕事用のデバイスと護衛対象に持たせる発信機関係っすね。彼女のデバイスもコンタクトタイプになっているので現地に着いたら付けてあげてほしいっす。一応数日はつけっぱなしでも大丈夫なやつなんで。後これが音声の受信機っすね、可愛いイヤリングタイプを選んできたっすよ」
「わかったわ、それじゃそろそろ出発しましょうか」
「了解っす、それでは姫っち御武運を!」
「あなたも、いつも通りの良い仕事を期待しているわね」
さて、準備も終わったので自分も愛車へと乗り込むことにする。扉を閉めてエンジンに火を入れると、スポーツカー特有の低くて唸る様なエンジン音が鳴り響き、シートを震わす振動が実に心地がよい。この、「燃費?何それ美味しいの?」といった世の中の主流の考えを真っ向から否定したこの大出力機がやっぱり私は大好きだ。
『おはようございます、マスター』
「おはようシルキー、今日も一仕事頼むわね」
『畏まりました。デバイスからの最新データを取得。目的地周辺の情報収集完了。目的地までのルート解析終了。準備が整いました、ご自分で運転なさいますか?』
「えぇ、そうするわ。ナビをお願い」
『了解いたしました。ミニマップ上にてルート案内を開始いたします。楽しい時間をお過ごしください』
「ありがとう。それじゃ、しゅっぱーつ!!」
キュルキュルとタイヤが軽く地面を削り、車庫から軽快に車を発進させる。目的地までは普通に走ればハイウェイを30分くらい行ったところなので割と御近所ではあるのだが、どうもこの愛車に乗るとスピードが出したくなってしまう。きっと今回も10分足らずで到着してしまうことであろう。
本当は、昨日もこの子に乗って仕事に出かけようとしたのだがニーナに止められ断念した。私の運転は非常に目立つからだそうだ。なので、仕方なく徒歩と電車で移動することになってしまったのでストレスが溜まっていたのだよ。さぁ、お廻り諸君、私を止められるもんなら止めてみたまえ!
ちなみに、さっき私に話しかけてきたのはこの車のAIであるシルキーといって、私の良き理解者なのでとっても大好きだ。そしてこのAIは相棒のニーナが私のために開発してくれたものなのだが、向こうのバンにも姉弟設定であるニックという幼い男の子の声をしたAIが搭載されている。流石、我が相棒。ぶれない奴である。
この2台はAIシステムを介して色々な情報のやり取りができるそうなのだが、詳しいことはわからない。もし詳しい話を聞きたいのなら、後で相棒のニーナにでも聞いてくれ。設定から性格、容姿などかなり詳しく教えてくれると思うから。だいたい時間にして数十時間は掛かるかしら?ちなみに、私は途中で寝てたから知らないわ!
軽快に経路を走破していき、あっという間に目的地の前まで到着してしまった。残念なことに、途中で私の追いかけてきてくれる素敵なお巡りさんにめぐり合うことができなかった。
8分47秒か、なかなか悪くないタイムね。次のチャンスに期待してるわ!
指定された場所は街の繁華街から北に数キロはなれた山間の研究施設で、先に到着していたであろう、もう1チームの物と思しき車両が数台駐車場に止められていた。いかにも軍人が好んで乗っていそうなゴテゴテしたその車両は、同じ場所に何台も停車しているとそれだけでかなりの威圧感が感じられた。あの車は間違いなく結姉さんの趣味であろう。
さてと、今回の護衛対象はどこじゃろな?と車を降りて探してみると、建物の入り口の辺りでなにやら人が言い争っている声が聞こえるので、たぶんあそこに依頼人がいるんだろう。ってか、結姉さん子供と同じ土俵で言い争わないでください。あなた今年で27歳になるでしょに・・・
「いつまでここで待たされるのよ!さっさと施設でもなんで連れて行きなさいよ!!」
「本当にキーキー五月蝿いガキだなぁ!だからあたいは子供は嫌いなんだよ、今迎えが来るから黙って大人しく待ってろって言ってんだろが!!」
「だいたい向えってなんなのよ。あなた達も護衛なんでしょ?そんな遅刻してくるような奴がほんとに使えるわけ?」
「・・・てめぇ、姫の悪口を言うとはいい度胸じゃねぇか。相手さんの変わりにあたいがお前の頭をかち割ってやろうか、このクソチビ!!」
「何よ、お・ば・さ・ん!」
「「あ”あ”ぁん!!!」」
う~ん、両親が死んだばかりの可愛そうな女の子って資料にあったけど、随分気の強そうな子供じゃないか。これなら筋肉モリモリマッチョマン達に護衛させても大丈夫だったんじゃないかしら?
『ひめひめ!金髪碧眼ツンデレ美少女っすよ!ツインテールっすよ!!ロリの権化が光臨してるっす♪』
「あんた随分楽しそうね、私は正直あそこに入っていきたくないんだけど?」
『何言ってるんすか!気を張ってるのは両親が死んでしまった悲しみに自分が飲み込まれないように必死に抵抗しているに違いないっす。そんな姿が、健気で愛らしいじゃないっすか!』
「そ・・そうかしら?私には自暴自棄になって周りに当り散らしているただの子供にしか見えないんだけど?」
『これだから素人は。いいですがロリとショタは我々の業界では保護対象なんすよ!絶対守護なんです!』
「いや、あなたと同じ業界で働いてるはずだけどそんなルール聞いたことないわよ?」
『あ、我々の業界というのはオタク文化の世界の話で・・・』
「じゃ、知らなくて大丈夫ね。それより、結姉がそろそろほんとに引き金引きそうだから、割って入ってくるわ。はぁ、めんどくさい」
『ふぁいとっす。モニター越しで応援してるっすよ』
すでに一触即発の状態で、結姉以外の団員もどうしていいのか困った顔をしているので、間に入って仲裁することになってしまった。こういうのあんまり得意じゃないんだけどなぁ。レオ兄がいれば丸投げできたのに。
「はいはいストープ、喧嘩しない。結姉、遅れちゃったみたいでごめんね」
「姫!いえ、遅れてなんていませんよ。寧ろもっと時間がかかると思ってました。お早い到着ありがとうございます」
「うむ。ってか私もこの仕事を受けてから30分以内に駆けつけてるから、これ以上早くはちょっと無理だけどね。それで、これは一体どういう状況?確か、建物の中で引渡し予定って聞いていたんだけれど?」
「それはこのクソチビ・・・護衛対象が外に出たいと我がままを言い始めまして」
「だって!あんな狭い部屋にこんな厳ついオジサンと、口が悪くて暴力的なお・ば・さ・んと一緒の部屋にずっと居たくなかったんだもん!」
「やっぱり頭打ち抜いてやろうか、クソチビ!!」
「結姉も威嚇しない。護衛対象殺してどうするの?それで、あなたが護衛対象のエリカちゃんでいいのかしら?」
「・・・そうよ。エリカ・マーガレット。あなたは?」
「私?私はシャルティア・ ヴァーゼルト。PMC(民間軍事組織)キャッスルガーデンの戦術顧問件、現場責任者の役職に就いている者よ。シャルでいいわ、よろしくね♪」
「・・・よろしく(ぼそ)」
あらら、私の顔見てうつむいちゃった。そんなに私の顔って恐かったかしら?確かに目つきはパパ似ってよく言われるからちょっとキツい感じに思われがちだけど、それ以外は全部ママ似なのでそこそこ可愛らしい顔立ちをしてるはずなんだけど、そう思ってるの実は私だけ!?
後で相棒にこっそり聞いてみよう。
さて、冗談はこの辺にしてさっさと引継ぎを済ませて移動するとしますか。相棒が何にも言ってこないって事は、周辺は取り敢えず今は大丈夫って事だけど、何時までも外で話していたくはないしね。
次回の投稿は5月2日火曜日を予定しております!
同時連載中【アルカディア ~転生職人奮闘記~】
ゲーム“ハイジン”の職人系主人公が異世界に転生するどうなるのか!
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